世界


 家に帰るとソファに体育座りして、両手でマグカップを持って、甘いココアを飲むのが私。部屋着は女の子っぽいフワフワで、友達の家で見たお香が気に入ってマネして炊いてる。


 彼氏はいる。セックスは好きじゃない。けどたまにするのは嫌じゃない。

 抱かれるって言うと古くさく聞こえるけど、私は嫌いじゃない。

 「抱かれる」ってわかりやすい。


 今の彼とは付き合って3年になる。新卒で働き始めてちょっと慣れたぐらいの時に知り合った。始めの頃は好きだったと思う。今は気が向いた時にだけ会う程度。別れても多分何とも思わない。きっと別れた夜もぐっすりと眠れるだろう。彼も多分同じだと思う。けど、私から別れを切り出す事はない。彼氏がいると、バカが寄って来にくくなる。下心見え見えで近づいてくるバカに対して「彼氏」という存在は丁度いい。別に特別モテるという訳ではないけど、人並みに男は寄ってくる。


 ピロリン♪


 ほらまた来たよ。何回連絡して来んだコイツ?お前なんかに興味ねーよ。ヤリたいだけが見え見えなんだよ。見た目通りに大人しく草食系やってろよ。そこの積極性いらないから。そんなに私ってヤレそうかな?


 気がつけば、面倒くさい男用の返信フォーマットが出来ていて定型文でそのまま返す。お前なんかコピペで十分。いや、その指の動作すら勿体無い。



 ピロリン♪ ピロリン♪



 あーあ。この世界を作ったのって誰なんだろう?

 土下座したって許してやんない。


 この世界のほとんどは手のひらサイズの長方形に収まっている。

 彼との世界も、その長方形の世界の中で完結して終わった。

 その時だけは、さすがに指の動きが重かった。

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