四、

11.鬼にばかされた顛末

 ざわめきの中、おい、と呼ぶ声に目を覚ました広松は、我と我が身を疑った。慌てて飛び起きると頭が天井にぶつかり、状況が分からず這い出れば、そこは見知らぬ家の庭先、どうやら犬小屋で足だけ出して寝ていたようだ。顔を上げれば警官が、呆れ顔で見下ろしている。

「お父さん、ここがどこだか分かるか」

「はい。えっと申し訳ありません、昨夜はちと飲み過ぎて――」

 しゃべった途端、たまらぬ頭痛に頭を抱えて、右手に握った曼珠沙華の花に気が付いた。昨夜は確か温泉に入って、座敷で海の幸をたらふく食べてたらふく呑んで、夜響と布団を並べて寝て―― そのあとの記憶がない。

(夜響の奴め)

 まるで狐にばかされた、昔話のあほ坊主だ。

「名前は、住所は、電話番号は? 言える?」

 パトカーの中に移されて、警官が手帳片手に尋ねる。織江おりえに電話をされるかと思うと、万引きをした子供のように目の前が真っ暗になる。それから泥酔しただけかを検査され、麻薬や覚醒剤の疑いが晴れると、広松はようやく家に帰された。

 今日は日曜、補習をやらない広松は休みを幸いに、とりあえずベッドに横になる。リビングにいるまもるは英語で海外のアニメーション映画を見ている。教育ママの織江は守がテレビを見るのを嫌がるが、英語なら許可しているのだ。

 織江自身は模擬試験のために今日も出勤した。難関クラスの子供たちは、毎週のように模試を受け、受験後塾で答え合わせをするのだ。

 まぶたの裏に交互に現れる、昨夜のはかなげな夜響と織江の冷たい顔、淡い興奮に酔ったり、うなされたりしながら、いつの間にやら眠っていた。

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