第2話 道の始まり

 僕がコンゲルネと出会った次の日から、さっそくワールド・トリッパーとしての修行が始まった。母さんは、修行はとても厳しいものだと言っていたけれど、一度決めた以上はそう簡単には投げ出したくない。時間はかかるかもしれないが、コツコツと力をつけていければいいかなと思う。

 地道に努力をしていけば、必ず報われる日が来るだろう。たとえそれがすぐではないにしても、努力を続けることがとても重要なのである。


 ワールド・トリッパーにとって何よりも必要なものは、強靭な肉体と正義を貫く勇気だそうだ。使命を果たすためには、明らかに強い敵であっても臆することなく挑んでいかなければならないだろう。

 僕には母さんという強い味方がいる。経験者ほど頼りになる人はいないと思う。だからこそ、母さんの顔に泥を塗るようなマネはできない。


 まずは体力錬成に励むことにした。これまで僕はろくに運動なんてしたことがなかったので、基礎的な内容からやった方がいいだろうということになった。筋トレや走り込みなどをして、母さんにチェックしてもらう。修行をしている時間は『母さん』ではなく、『師匠』と呼ぶべきだろうな。


 筋肉を部位ごとに意識して鍛えることが大事だと言われて、筋肉に関する図鑑をもらった。とても詳しく書いてあり、初めて聞く筋肉の名前が多かった。難しい用語がいっぱい並んでいた。

 体がブレないようにするためには体幹が重要だそうだ。母さんの丁寧な指導を受けながら、日々トレーニングに励んだ。すると、友達や先生からたくさん褒められた。結果が出てきたようで、すごく嬉しくなった。ますますやる気が出てきた。努力が身を結ぶ経験をして、僕はより一層コツコツやっていくことの大事さを痛感できた。


 ワールド・トリッパーにとって重要なことは他にも、正義を貫く勇気がある。たとえ自分が損をしようとも、辛かろうとも、正義のために敵に立ち向かう。これはとても勇気のいることだ。そう簡単には達成できないことだろう。強い精神力と忍耐力を身につけなければならない。

 僕はホラー映画とかの類いを見るのは好きではない。小さい頃は一人でトイレに行けなくなってしまうほどだった。だけどこれからは、それ以上に手強いものと対峙することになる。自分から怖いものに接触して慣れていく必要があるだろう。学校でも一番と言われるほどの怖がりである僕だが、みんなのイメージを払拭できるくらいになりたいと思う。

 母さんにもできたのだから、僕にできないはずはない。母さんは自ら危険に足を踏み入れていたそうだ。最初は逃げ出してもいい。次第に慣れていけるのだという。母のことを信頼していた僕は、期待に応えるべく頑張った。


 母の指導はとても適切なものだった。僕は飛躍的に進歩することができた。クラスのみんなが僕の変わり様にとても驚いていた。別人になったようだとも言われた。その頃には己の内に秘められた力を感じるようになっていた。

 いよいよ実戦のためのトレーニングになった。歴代のワールド・トリッパーの中には、剣士や魔導士、弓使いなどさまざまな人がいたらしい。母さんは魔導士だったらしい。初めはどの能力がいいか、色々と試してみることになる。


 僕は剣士がクールで素敵かなと思う。魔法が使えるのもいいかもしれない。まずは魔導士の力を試してみることにした。コンゲルネの力で、どの能力でも身につけることができるらしい。なので、今まで魔法が使えなくても問題はない。

 まずは簡単な呪文から使ってみた。火魔法のごく簡単なものだったが、火柱がかなり高く上がった。自分でも驚いた。初級魔法でこれだけの規模が出ることは普通ありえないという。今度は水魔法を使った。すると、これもどうだろうか。初級魔法らしからぬ大量の水が湧き出た。

 母はとても驚いていた。これほどに魔法の力に恵まれた人はいない。史上最強のワールド・トリッパーになるかもしれないと言ってくれた。魔導士をすごく素敵だと思った。他の力も一応試してみることにしたが、残念ながらそこまでじゃなかった。


 だが、もう一つだけ秀でた力があった。それは剣術だった。剣さばき、身体の動きが素晴らしいと言われた。相手の動きを読み切ることができるようだ。それさえ読めてしまえば、かわすことも容易い。

 相手に動きを悟られないことも大事だ。素早い動きで相手を翻弄する。間合いも重要な要素だ。けん制することもできるし、タイミングよく踏み込めば相手にダメージを与えることができる。


 母さんが言うには、二つの能力に恵まれることは極めて珍しいそうだ。それを聞いて、僕はとても嬉しくなった。

 だけどそれと同時に、与えられる責任の重みも痛感した。以前のように怠けてばかりはいられない。己が背負っているものを自覚して、しっかりと努めを果たさなければと心に誓った。


 目覚めた力をより一層強固なものにするため、繰り返しトレーニングする必要がある。剣士と魔導士という二足のわらじ、その両方を維持・向上するために効率や配分を考えなければならない。ここでも母さんがサポートしてくれた。

 いずれは独り立ちすることになる。それは僕も分かっている。だけど今は、受けられるサポートは存分に受けておこうと思う。

 ワールド・トリッパーとして、誇りを持って任務を全うできるようになりたいと思う。数多の世界の未来を託される存在として、その自覚と責任を肝に銘じておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る