そして少女は孤独でなくなる

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 一人ぼっちな私はある日、流れ星に願い事をした。


 友達がほしいと。


 私は、性格に難があって、友達を作るのがとてもへただから。


 流れ星は、願いを叶えてくれた。


 でも叶えられた願いは、私に一番欲しい物をくれたりはしなかった。


 その代わりに、与えられたのは力だった。


 どうやら私は、別の世界を覗く力を手に入れたらしい。

 持っている手鏡に、私そっくりの人間の姿が浮かび上がった。

 その世界の私は、高慢ちきで高飛車だ。

 私とそっくりな性格をしている。


 でも、私と違って多くの友達に囲まれていた。

 一体、私と何が違うんだろう。







 その世界の私は、この世界の私とは違って、とある知識があったようだ。


 それは前世の知識。


 その知識を活かした「並行世界の私」は、ただの悪女から人に許される悪女になった。


 正直に言っていい部分と良くない部分を見極め、我儘を言っていい場面とそうでない場面を切り替える。


 公私混同は適度にとどめ、真面目過ぎず不真面目過ぎずに生きていた。


 けれど、それは綱渡りのような行為。


 この世界の私が同じことを出来るとは思えなかった。


 私は、やっていい事と悪い事すらも、うまく区別が付けられないのだから。


 参考にならない。


 そう思ったらまた別の世界の私の姿が見えるようになった。






 その世界の私は、この世界の私とは違って、未来の知識があったようだ。


 だから、自分が悪女になって、友達をなくし、一人ぼっちになる事が分かっていた。


 未来の知識を手にした「並行世界の私」は、そうならないために、人付き合いを頑張った。


 結果、様々な人脈ができて視野が広がり、考え方が変わっていった。


 どんな状況でも切り抜けられる対応力を身に着けていった。


 困った時に、自分でなんとかできるようになったのだ。


 しかし、それは私には難しい。


 同じことをやろうとしても、勇気が湧いてこなかったからだ。


「並行世界の私」の未来と、私の未来は別物。


 そう心の奥底で思ってしまっているからかもしれない。


 参考にならない。


 そう思っていたら、別の世界の光景が見えた。









 その世界での私は、繰り返しの能力を得ていた。


 納得が行くまで、何度も同じ時間を繰り返す事ができる。


 だからどんなに失敗しても平気だったようだ。


 理想の未来を求めて、気が遠くなるような時間を繰り返していた。


 どこでどんな事が起こるのか把握できるようになっていたが、「並行世界の私」はいつも演技をしていた。


 私が羨むような称賛をあびても、心からの笑顔を浮かべる事はなかった。


 私には無理だ。


 きっと最初は浮かれるだろうが、やがて心が死んでしまう。


 想像しただけで、憂鬱な気分になった。


 こんなものは、いくら見てもしょうがなかった。


 そう、結局私は、この世界で頑張るしかないのだから。


 この世界にある環境で、この世界にあるもので。


 





 私はせっかく得たその力を、もう使わない事に決めた。


 ないものねだりをしているうちに、この世界の人間として生きられなくなりそうだったから。


 だって知ってしまった分だけ、今の私はみじめな気持ちになっている。


 私が、彼女達のようになれるとは思えなかったし、彼女達がもっているような力を得る事ができるとは思えなかった。


 どうせ駄目なのだ。


 無理なら、何かに抗う事なく、永遠に一人のままでいい。


 そう思った。


 けれど数日後、あと一回だけと私は気まぐれをおこしていた。







 その世界の私は、他の世界の私達とは違った。


 成功者などではなかった。


 始まりこそ充実していたが、その幸福の気配はだんだんと遠ざかっていった。


 友達に恵まれて、たくさんの幸せをあじわっていた「並行世界の私」。


 そんな私は、やがて魅力的な男性と出会う。


 しかし、その男性は貧乏人と蔑まれている人物だった。


 だから、今まで味方だった人達が敵となり、その人達が親切心で二人を引き離そうとしてきた。


「並行世界の私」とその男性は、それらにあらがった。


 けれど、事態はもつれにもつれ。二人は引き離され、彼等は別々の場所で息をひきとった。


 どこかの狭くて暗い場所に閉じ込められた「並行世界の私」は嘆いていた。


 彼女がそこにいることは、犯人以外誰も知らない。


 だから、誰も助けには来ない。


 最後を知ってはもらえない。


 遺体になっても、見つけてはもらえないかもしれなかった。


 彼女は襲い来る孤独感に涙して嘆いていた。


 その姿は、この世界の私と少しだけ重なるものだった。


 誰にも届かない嘆きが耳朶を打つ、報われない叫びが魂を震わせる。


『最後には憎しみあってしまったけれど、もう一度友達に会いたい、愛した人達に会いたい』


「並行世界の私」はそんな事になっても、友人達を恨んではいなかった。


 そうして、誰も知る事のない、まったく意味のない言葉が途切れていった。






 全てを見届けた私は今度こそ、その「並行世界をのぞく力」を手放す事を決意した。


 最後の世界の私の嘆きは、意味のないものだった。


 けれど、それはその世界の中の話。


 私はもう、知ってしまっている。


 だから、この世界なら意味のない言葉などではなくなるのだ。


 私が活かすことができれば。


 私は自分の部屋を出て歩き出した。


 自分ではない誰かとつながりを持つために。




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そして少女は孤独でなくなる 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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