「さぁ、あとはゴールへ向かうだけだ。行くがよい」


 ドラゴンワンさんはそれだけ言い残して消えていった。

 口調は全然違うけど、龍一郎に励まされているみたいでちょっと嬉しかった。


 「よしっ」


 私はゴールのアーチへと全力ダッシュ。山道を走り続けて疲れ切った体も、今は軽く感じる。

 長かったプリンセスへの道のり、という名の峠越え。

 数々の試練と遭難。

 その全てが、この瞬間のための積み重ね――


『遂に、ゴォーールゥッ!コングラッチュレイショーン、未来のプリンセス!』


 ハイテンションなアナウンスと共に、誰もいないのに歓声が巻き起こった。

 そして同時に、鬱蒼とした木々は見えなくなった。

 周囲は目映い宝石が散りばめられた宮殿の中。

 そしてそこにいるのはスーツ姿の男、ただ一人だった。


「よくここまで辿り着きました!流石はプリンセス候補なだけはありますね!」


 見かけに反してやけにテンションが高い。それにこの声、アナウンスをしていたのはこの男だったのか。


「あの、プリンセスとかどうでもいいんで元の世界に帰してもらえませんか?」

「ではまず完走し切った賞品をどうぞ!」

「無視ですか」


 私のテンポに一切合わせること無く、男は一本の巻物を手渡してくる。忍者が持っていそうな雰囲気だ。


「これは?」

「その巻物にはプリンセスになるための心得が記されています!つまりはプリンセスになるためのステップアップ取扱説明書ということでしょう!」

「う~ん。それってさ要するに……」

「貴方様のプリンセスロードはまだ始まったばかり……ということですよ!」

「打ち切りマンガか!」


 私は思いきり、男の顔面にパンチを叩き込んだ。













「……はっ!」


 気付くと、そこはリビング。

 時計を見ると時刻は深夜の三時を指している。

 どうやら私は爆睡してしまったようで、リビングで大の字になって寝転んでいた。

 なんだ、全部夢だったのか。

 そりゃそうだ。あんなトンチキな出来事が本当に起きるはずがないんだ――と思った矢先、視界に飛び込んできたのはあの巻物。


「……夢じゃなかった」


 内容はしっかり、プリンセスになるための心得が記されている。冗談抜きで、ゲームの中でもらった物だ。


「どういうことなのよ……!」


 私は何事なのかと問いただそうとして、スマホの画面に映る“ロード・オブ・プリンセス”のアプリをタップした。


 その瞬間、スマホが爆発した。


 ショップの店員曰く、修理には一ヶ月以上かかるそうだ。

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