ロード・オブ・プリンセス
黒糖はるる
1
街は毎日大騒ぎ。
誰も彼もがお祭り気分で幸せムードだ。
それもそのはず、今まで浮いた話が欠片も無くゴシップ誌泣かせの王子が突然結婚したからだ。
お相手は私――ではなく、私の隣の家に住んでいた
彼女は家庭内でぞんざいに扱われ、日々掃除洗濯炊事その他雑用を全て押し付けられてその名前から“灰被り”と罵られていた。折角届いた王室主催の舞踏会の招待状(要するにお見合いパーティ)すら破かれてしまったらしい。しかしどういうことなのか彼女は美しいドレスを身に纏い舞踏会に飛び入り参加。そして見事に王子のハートを射貫いてしまったようだ。
まるで魔女でも現れて手助けをしてくれたかのような、とっても奇跡的な物語。後々に“シンデレラストーリー”なんて語り継がれそうだ。
「はぁ……。いいなぁ、波衣奈ちゃん」
一方私はというと、いつもと変わらず実家の本屋で店番だ。
大学まで行ったのに就職先がなく渋々実家を継ぐことになったのだけれども、ここ最近は客がめっきり減って廃業寸前だ。まさに崖っぷち女子。ヘルプミー。
嗚呼、せめて私が波衣奈ちゃんみたいに招待状が送られるような立場だったなら。もしかしたら王子の隣には私がいたかもしれないのに……なんて訳がないか。
鏡に映る自分の顔。
肌は荒れて、ぽつぽつニキビ。元々美人とは言えない顔だから余計に悲惨である。
これではどんなに着飾っても王子はきっと見向きもしないだろうし、まず衛兵に止められそうだ。そもそも私には王子を口説き落とすような高等テクニックは持っていないし、何ならコミュ障だし。
溜息しか出ないわ。
「お前、店番ならせめて笑顔でいろよ」
文句を垂れてくるのは幼なじみの
龍一郎は昔からポジティブ思考の好青年で、商店街の人気者。スポーツ万能(特に剣道)、成績は……そこそこ。男女問わずラブレターを貰う、私とは正反対の路を征く超絶モテ男だ。でも自分の店を第一に考えているみたいで全部断り、王子並に浮いた話がない清廉潔白男子だ。
「余計なお世話よ。それよりあなたの店はいいの?」
「大丈夫だ。今日は臨時休業にして、従業員はみんなパレードに行っている」
「あ~、結婚記念のね」
王子と波衣奈ちゃんの結婚を祝して国中を回るパレード。丁度今日はこの辺を通る予定だったはずだ。
「それで、何の用なのよ?」
「いや、暇だったから寄っただけだ」
「何よそれ」
いつもそうだ、龍一郎は。
特に意味もなく本屋に来ては立ち読みしたり私にどうでもいい雑談を持ちかけてきたり。
幼い頃からの腐れ縁だけど、今の彼と私ではあまりにも釣り合わない。一方は誰からも好かれる男、一方は日陰に生える女子力終了した雑草なのだから。
「しっかし波衣奈はすげーよな。まさに人生大逆転ってかんじでさ」
「まぁね。あの子なら素質あったし、今までが酷すぎたのよ」
「確か波衣奈の家のヤツらは逮捕されたんだよな」
「今までの報いでしょ」
なんて、何の得にもならない雑談。
いつもと変わらない、おしゃべりタイム。
「ところでさ、お前は舞踏会って行ったのか?」
「はぁ?私が行くわけないでしょ。そもそも招待状なんかこなかったわよ」
「ふーん、そっか……」
「何よそのふーんって。しょうがないでしょ、美人じゃないんだから」
「ちょっ……オイオイ、んなこと言ってないだろって」
地雷を踏んでしまったかと思ってわたわたと焦り出す龍一郎。その滑稽な姿が面白い。
私自身全然気にしていないのに、可愛い男だ。
「別に~。それよりあんたは嫁探ししてるの?」
「ま、まだだよ……。今は店のことで手一杯だし」
「へ~……」
龍一郎も、そういう話はまだか。
でもその内彼も誰かと結婚してゆくゆくは幸せな家庭を築くのだろう。
そして私は変わらずこのまま……。
「はぁ……」
「だから溜息つくなって」
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