第46話 サプライズ
「猿よ。意見を述べよ」
「ははっ。まず某でしたらこの部隊を二つに分け、一つは正面から。もう一つの部隊は川上から下ります」
「ほう、続けよ」
「はっ。正面からの攻撃は囮にござる。本軍は川上から小舟を使い城の裏口へと渡り、全ての者が上陸次第、裏口を叩き、一気に開城させます」
「ふむ。なるほどのう。ではこの件はうぬに任せる。励め」
「ははっ!お任せくだされ」
「すごーいヒデくん。頭いいね」
「うんうん、ヒデくんかっこいいよ」
「そ、そうかな?」
「悪くないぞ。猿よ」
「ほ、ほんとうに?殿にそう言われと、う、嬉しいな」
本当にすごいなヒデは。ヒデがこの遊びを始めてから秀吉としての頭角をどんどん表してきた。社会の授業、特に日本の歴史に関しては今まで以上に集中して聞いているみたいだし、空いている時間は常に歴史の本を読み漁っている。
「次郎くんとは大違いだね。山を切って平地にするなんてできっこないのに」
「うるさいなー!いいだろ別に」
俺はいつもみんなに馬鹿にされている。仕方ないじゃん、歴史なんて全く知らないんだからさ。
「十兵衛よ。お主の発想自体は悪くないぞ」
「そ、そうかな」
それにしても、信長と遊び始めてからは毎日が驚きの連続だ。彼の考え方や知識は同級生とは思えない。けど、何よりすごいと思っているのが信長から褒められたり、アドバイスをくれるだけで俺たちはなぜかやる気にみなぎることだ。
現に、今日からこの遊びに参加しているあのミッチーでさえ信長に対してある程度の敬意を払っているように見える。まあ正直彼自身、この状況を心から面白いとは思っていないだろうけど。
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「十兵衛よ。お主はどう思う?」
「はっ。まずはここに軍をおきます。そして、火を使って敵を炙り出します」
「どこに火をつけるのじゃ?」
「どこに?もちろん城でございまするで候」
「城だと?どうやって城に火をつけるのじゃ?」
「どうやってって言われても……。あ、そうだ。火の矢です。これを使って燃やします」
「十兵衛殿、それは難しいかと。本来城攻めはまず門を開けることが定石。門を開け、城の中に入り、中から火をつけることで敵を炙り出せるのです」
「猿の申すとおりじゃ」
「……ちぇっ」
「だが十兵衛よ。火というのは間違っておらぬ。そこに気づけたのはお主の功績じゃ」
「はい」
またみんなに笑われた。いつもいい線いっているはずなんだけどな。どんなにみんなに笑われたりバカにされたとしても信長だけは笑わず、決して否定せず、いつも最後まで話を聞いてくれる。器が大きいんだろうな。いつか信長に認められるようになりたい。少しずつだけど、俺も歴史に興味を持ち始めていた。
五限目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。ランドセルに教科書を入れていた最中なので話しかけられたことに最初気づかなかったけど、声の主はミッチーだった。
「ねー次郎。今日は一緒に帰らない?」
「え、別にいいけど……。でも信長やヒデも一緒だよ?」
「いや、今日はできれば次郎と二人で帰りたいんだ。ねーいいでしょ?」
「うーん、まあいいけど」
なんだろう。こんなこと初めてだ。まあ、何か俺に話したいことでもあるんだろうから仕方なく俺は信長とヒデに事情を説明し、ミッチーと二人で校舎を出た。
「で、ミッチー。なにか話があるんでしょ?」
「よくわかったね。そうだよ」
「わかるよ。二人で帰るなんてはじめてじゃんか」
「まあまあ。全然変な話じゃないよ」
「で、なに話って?」
「次郎はさ。信長くんの誕生日がいつか知ってる?」
「誕生日?あー確か来月だっけ?」
「そうそう。たしかその日は土曜日なんだよ」
あれ、そうだったっけ。ってことは学校で祝えないじゃん。
「そこでなんだけど。ほら、信長くんにとってはこの学校に来てから初めての誕生日でしょ?で、その日は学校が休みだからさ。だから土曜日にみんなで集まってサプライズバースデーをしたいなと思ってね。次郎は彼と仲がいいし、僕は戦国武将ごっこに参加していない他の友だちも誘うからさ。二人でこっそり準備して、信長くんを驚かせない?」
「なるほど」
うん、それはいい考えだ。なーんだ、なんか変なことを言われるかと思ったけど、ミッチーもなんだかんだ良いやつだな。
「うん、いいよ。俺たちで信長を驚かせよう。ちなみにミッチーには何か考えがあるの?」
「もちろんだよ。これは僕たちにしかできないんじゃないかなー」
「えー、なにそれなにそれ?気になるな。教えてよ」
ミッチーは周りを気にしながらこっそりと教えてくれた。
……ふむふむ。なるほど。……すごい。これは確かに信長が喜びそうだ。こんなことなんて思いつかなかったな。最近ではヒデばかり戦国武将ごっこで目立っているから俺も負けてられない。この日を機に、信長からすごいと思われたい。彼に認められたい。
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