第42話 謁見の間
これから何処に向かうんだろう。店を出たあと私と次郎さんは信長さんに後ろからついていく形となったが、これだとまるで私達二人がカップルみたいに思えてくる。
「雪さんすみません、俺まで参加することになっちゃって。せっかくのデートの日が台無しですよね」
「いえいえ、全然そんなことないので謝らないでください。私も信長さんと二人きりだと緊張と不安のほうが大きいので次郎さんが居てくれて助かりました」
「それならいいんですけど……。それよりも信長様、一体どこに向かおうとしてるんですかね?」
「あ、次郎さんも知らないんですね。私も全くわからないんです」
私達の会話がまるで聞こえていないかのように信長さんはズカズカと前へ進んでいく。でも駅の方に向かっていないということは電車に乗って遠出というわけではないらしい。実は車で来ていて駐車場に向かってる……とか?
「信長様、まさか歩いて目的地に向かってるんですか?俺車あるから一回取りに帰りましょうか?」
「よいわ。黙って付いてまいれ」
あ、なるほど。車の線はなくなったか。ってことはやっぱり徒歩で行ける範囲?結局私達はそれ以上問いかけることなく見慣れた景色の中信長さんについていった。
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「ここじゃ」
……嘘でしょ。まさかここなの?
「え、信長様。なんでここなんですか?」
連れてこられたのは二階建ての建物。というより一軒家だ。入り口の表札には多田野と書かれている。
「母上に会わせる。よいな?」
「えええ…」
「えええ…」
よいなも何も……いきなりお母さん!?初デートでいきなり彼のお母さんと会うだなんて普通ありえる?でもここまで来て断るのも変というかなんというか。それにしても……もしかして信長さんってマザコンなのかな。
結局私達は断るという選択肢など最初からなかったかのようにドアを開けリビングに通された。
「おじゃましまーす」
「お邪魔します」
既に信長さんのお母さんと思われる方がリビングのソファに座っている。
「母上。二人を連れてまいりました」
「あ、ノブママこんにちわっす」
「あ、あのはじめまして。私信長さんとお付き合いさせて頂いてる斎藤雪と申します」
「二人共ようまいった。ほれ、そこに座るがよい」
……。
え?
「あのー。ノブママなんでそんな喋り方なんすか?」
「なんじゃ。そなた、何か
「……あ、いえ」
あの……信長さん。今日は私達初デートの日でしたよね?ちょっと予想外の事が起きすぎて頭がおかしくなってしまいそうです。
「して、帰蝶よ。信長の何処を好いておるのじゃ?」
「え?」
「母上、おやめくだされ。それにこの者は帰蝶ではありませぬ。名を雪と申します」
「知っておるわ。少しからかってみただけよ。では改めて聞こう。雪よ、信長の何処を好いておるのか答えよ」
「ど、どこをって言われましても。その……」
「ノブママ、マジでどうしたんですか急に?その喋り方もそうだけどいきなり雪さんにそんな事聞いても答えれるわけないでしょ」
「妾は雪と話しておる。十兵衛は黙っておれ」
「十兵衛?え、俺次郎なんですけど……」
「母上、おやめください。儂は母上が二人に会いたいと申したから連れてきただけ。これ以上そのようなことを聞かれるのであれば……」
「相わかった。信長の言うとおりじゃな。雪、十兵衛。許せ」
「はあ」
「はあ」
なにがなんだかさっぱりわからない。一体どういうことなの?次郎さんは信長さんのお母さんには何度も会っているような口振りだけど、十兵衛って呼ばれた時は本人も驚いている様子だった。十兵衛って確か明智光秀のことよね。
信長さんはお手洗いに行くとのことで席を立ちリビングを後にした。残された私達は何を話せばいいのかわからず、気まずい空気の中信長さんが戻るのを静かに待っていた。
やばい、緊張する。どうしよう。やっぱり何か話したほうがいいのかな。次郎さんに助け舟を出してもらいたいと思っていたのも束の間、お母さんと目が合ってしまった。この静けさに耐えられず私が何か話さなきゃと口を開こうとしたその時、沈黙を先に破ったのはお母さんのほうだった。
「どうだった?私」
「はい?」
「はい?」
「え?じゃなくてどうっだったか聞いてるのよ私の演技。なかなか上手だったでしょ?」
……。
え?
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