第36話 織田信長 VS 明智光秀 その1
「
「はっ」
「遅れて悪かったのう」
「ミッチー!わかったからとりあえず座れよ。周りの人が皆見てるぞ」
「御意」
四人がけのテーブルの奥の席にミッチー。その向かいに信長、そして俺が座る形となった。
「して光安よ。貴様、どういう料簡で儂らを呼んだ?」
「は、まずは殿に再び相まみえる事ができましたこと、また、殿が無事でおられましたこと。拙者、心から嬉しく思っておりまする」
「そんな事など聞いておらぬわ」
「……」
あれ、信長……もしかして機嫌悪い?まあ、考えてみれば当然か。織田信長は最も信頼していた家臣の明智光秀によって討たれた。それがかの有名な本能寺の変。歴史に全く興味がなかった俺ですらもこの出来事だけは知っているし、これからも一生忘れることはないだろう。その信長を討った張本人(?)が今目の前にいる。機嫌が悪くなるのも当然か。でも待てよ、前に信長と話した時、確か光秀に対して怒っていないと言っていたはず……
「と、とりあえずさ。せっかく信長様も来たことだし何か注文しようか。信長様は何を飲みますか?」
「こんそめすーぷじゃ」
「コン……わかりました。ミッチーは水でいいんだよな?」
「いえ、拙者も殿と同じものをいただければと」
俺はこの場から逃げるようにドリンクを注ぎに向かった。少し離れた箇所からあいつらを見てもわかるなんとも重い空気。っていうかあいつ、コーヒーのことも知らないくせにコンソメスープなんていきなり飲めるのか?
席に戻っても案の定二人はまだ黙ったままだった。信長がコンソメスープを一口啜ると同時にミッチーが沈黙を破った。
「殿、あの一件。どうお詫びを申し上げればよいのやら。拙者、恥ずかしながら言葉を持ち合わせておりませぬ」
あの一件?
「光安、詫びなどいらぬ。なぜ儂を裏切ったのか
あの一件ってまさか……本能寺の件か。
「拙者は殿の命を奪いとうございませんでした。あれは仕方がなかったのです。あの時はああする他なかった。ですが拙者、後悔はしておりませぬ」
「ほう、ではなにゆえ詫びるのじゃ?悔いがないのであれば詫びる必要もあるまい」
「我らがいた元の世であれば腹を切るつもりでおりました。が、しかしここは異なる世。天の意志……いや、神の導きかもしれませぬ。この世に来たのはきっと何か意味があるのでしょう。なれば殿にまずは許しを請いたいと」
「笑わせるな。神などおらぬ。儂らはなんの因果か知らぬがこの世におるのは事実。じゃがそれを天や神の導きじゃと?冗談を抜かすな。ここにおる意味など自分で決めるわ」
「申し訳ございませぬ。殿の仰せられる通りです」
「では改めて問おう。貴様、なぜ儂を裏切った?」
「……答えられませぬ」
「……で、あるか」
再び静寂が訪れた。信長の横に座っているだけの俺が緊張で一言も言葉を発せない。信長は静かに語ってはいるが、言葉の節々には怒りがこもっている。
ただ、一つ不可解なのは信長はまだ目の前の男を光秀や十兵衛ではなく光安と呼んでいることだ。
なぜ?一体なんなんだ、わからないことが多すぎる。
「うぬの要件はそれだけか?であればもうよい。帰るぞ」
「え、まだ来たばっかりじゃないですか。それに、ミッチーの身に何が起こっているのか気にならないんですか?信長様と違って記憶もなくなっているみたいですし…」
「興味ないわ」
「ちょっと信長様そんな言い方は…」
「お待ちくだされ」
「……なんじゃ?」
「まずはあの一件、許していただきたく思いまする」
「どの件のことを申しておる?本能寺の件であればうぬが詫びる必要などないわ」
「ありがたく。ですが実は今日の件、他にございまする。殿、いや、織田上総介信長様。拙者とこの世の天下を取りに行きませぬか?」
「なにをぬかすかと思えば天下を取るじゃと?このうつけが」
「拙者は本気でございまする。殿と秀吉殿、それに次郎殿と力を合わせればこの異なる世を治めることができるかと。我らがいた世は既にあらず。が、こうして別の世で再びお会いすることができもうした。なれば、我らが成し得なかった天下統一をこの異なる世で殿と共に目指しとうございまする」
ミッチー。いや仮にこいつが本当に明智光秀だとしよう。だとすれば一体何言ってるんだよ。織田信長はお前が裏切らなければあのまま天下を統一していたのかもしれないだろ。我らが成し得なかった天下統一?
それを止めたのは光秀、お前じゃないか。
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