第25話 おわり
「斎藤さんお疲れー」
「あ、お疲れさまでした」
ふぅーやっと終わった。新年明けたというのに私の日常は特に変わりはない。誰にでもできることをそつなくこなし、誰とも揉めることなく平和で平凡な一日。このままでいいのだろうかと疑問を持っていたのは何歳の頃までだっけ。このままで別に構わない、これが私。
「斎藤さん、今日の新年会来るよね?」
「……新年会?え、新年会って今日でしたっけ?」
「そうだよ。みんな斎藤さん来るの楽しみにしてるんだから」
しまった。すっかり忘れてた。
「あ、えーっとすみません。今日実はこの後…」
「どうせ予定なんかないでしょ?いいじゃん、行こうよ」
「いや、そのー…うーん」
嫌だな。でもこの人一回言い出したら切りがない。そして相変わらず私は押しに弱い。わかりました、じゃあ行きます。そう言いかけた時ふとあの日の言葉がよぎった。
「お主は何じゃ」
……。
「毎日のように他人の目を気にしながら他人のために生き、目立たぬように、誰も刺激しないように、他人から変な人だと思われぬように生きておる面じゃ。だから最初に問うたであろう。お主はなんじゃとな」
……信長さんの言うとおりだ。今わかった。私はあの時雪女って呼ばれたりバカだのアホだの言われて怒ったんじゃない。自分でも見て見ぬ振りをしていた内面を、私の弱い心を彼に見透かされた気がしたから……だからあの場から逃げ出したかったんだ。
なんだ……謝らなくちゃいけないのは私のほうじゃない。
「課長。ごめんなさい、今日の新年会はやっぱり行けません」
「なんで?予定なんかないのに?」
「予定はあります。今日はインターネットカフェで読みたかった漫画をゆっくり読む予定なんです」
「はぁ?」
「では、失礼します」
「おい、ちょっと…」
私は振り向き様に軽く会釈をし、そのまま会社を後にした。
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ふぅー。課長、内心怒ってただろうな。少し緊張したけど、なんかスッキリした。ただ……なんで私あの時勢いでインターネットカフェなんて言っちゃったんだろう。一度も行ったことなんてないのに。
うーん……。
うん、前から一度は行ってみたいなって思ってたことだし、課長に一矢報いた記念ってことで行ってみようかな。確か駅前の二階建てのビルにあったと思うんだけど。
私斎藤雪三十歳。生まれてはじめてのネカフェデビューだ。
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ここから上がればいいのか。少し薄暗い階段を上がり、お店のドアを開けようとすると中から声がした。
え、嘘…。もしかして、誰か揉めてる?
「だーかーらーっ!喫煙席って言ってるだろ!」
「ならぬ」
「じゃあなんで俺にタバコ吸うのかどうか聞いてきたんだよ!?」
「聞く規則だから聞いたまでよ」
え、この声……この話し方。いやいや……まさかね。
「待て、一旦整理するぞ。まずお前が俺にタバコを吸うかどうかを聞いてきた。で、俺はタバコを吸うって答えた。そうだよな?」
「うむ」
「じゃあなんで喫煙席に案内してくれないんだよ?」
「煙草を吸って何を得る?愉悦か?それとも快楽か?」
「知るかよ!お前マジわけわかんねーよ!なんだお前、俺の親かよ!」
「たわけ。貴様のような出来損ないなど織田家におらぬわ」
「もおおおおおお!!ふざんけんなお前!!店長呼べっ!!」
「店長はおらぬ。儂がこの
……。
あの、やっぱり私帰っていいですか?
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