第15話 猛獣 VS 珍獣
信長さん、どうしてこんなに怒っているんだろう。確かにアキちゃんの勝手な撮影に私は戸惑っているものの、信長さんにカメラを向けられたわけじゃない。そもそもまだアキちゃんは信長さんに絡んですらいない。私が嫌がっていたから?つまり…私のために怒った?いや、まさか。
「ちょっとぉ〜みんな聞いたぁ〜?あたし初対面のおじさんに珍獣って言われたんですけど〜」
おそらく信長さんに対する否定的なコメントが多く寄せられているに違いない。信長さん、あんまり下手なことを言うと多くの視聴者の方やファンを怒らせてしまうかも。やめたほうが……
「珍獣じゃから珍獣と言ったまでよ。
あ…終わった。明日ネットニュースになるやつだ
「ちょっとあんたさぁ、さっきから何様なわけ?あたし生配信中だからっていい子にしてるつもりないからね。人のこと珍獣だのカバだの。それにいきなり怒鳴ってきたのもちょおー失礼だかんね?」
「無礼なのは貴様じゃ河馬め。次郎や光安が撮られるのであればまだいい。こやつらはうぬと同業じゃからのう。じゃが、雪女に断りなく撮るとは…腹立たしい。下衆い真似をしおって」
え、うそ…。やっぱり信長さん、私が撮られたことについて怒ってくれたの?
「はぁ?あんたはあたしのこと知らないかもしれないけど、このお姉さんはあたしと一緒に動画に映れるだけでも幸せなわけよ。」
いやアキちゃん、あなたが勝手に私の幸せを決め付けないでください
「っていうかさっきからあんたのその喋り方は何?キモすぎなんだけどwバカ殿かよ」
「貴様ごときが雪女の幸を決め付けるでないわっ!!この大うつけがっ!!」
あ……すごい。私が言いたいことを代弁してくれた
「信長様!このへんでもうやめときましょう。これからYoutubeを始めるのであればアキちゃんとお友達になっておいたほうが後々…」
「黙れっ次郎!!こんな河馬みたいな珍獣と戯れてどうする?こんな奴と仲良くしておると民衆は今よりもさらに路頭に迷うわ!」
「路頭に迷う?キャラが迷走してそうなあんたに言われたくないんですけど。っていうか…のぶなが?あんた、名前信長っていうの?ちょおウケるんですけど!!信長ってあれでしょ?あの歴史で有名な信長?あーだからそんな変な喋り方してんのか。納得だわ」
「あ、あの…アキちゃん。信長様は俺の友達なんで、その…バカ殿とか変な喋り方とか。やめてもらっていいかな?」
「はあ?何言ってんのあんた。そもそもあたしにつっかかってきたのはこのおっさんのほうでしょ!?」
「………。」
やばい、明らかに次郎さんの顔色が変わった。あの優しそうな次郎さんまでもがヒートアップしてしまっている。なんか私のせいで話がどんどん変な方向に流れていっている気が…。でも、どうやって止めればいいのか全然わからない
「どこの世にも必ずおるもんじゃな、大した実力もないのに全てが思い通りになると思っておる勘違いな馬鹿は。いや、河馬か」
「信長様、もうこんな奴相手するのやめましょう。話すだけ無駄です」
「マジでむかつく!ちょっとあんたらいい加減にしてよね!」
『ドンっ!』
え、何の音!?
「いい加減にするのはアキちゃんだよ」
………!!
音がしたほうに目をやると奈々ちゃんがすごい目でアキちゃんを睨みつけていた。この戦いに終止符を打ったのはまさかのアキちゃんのお友達であり私の職場の後輩だった。
「アキちゃん。ラストオーダーが終わった頃に遅れてやってきて、生配信中でした?アキちゃんと一緒に映れて雪さんは幸せ?ふざけないでよっ!!雪さんはずーっと私に気を遣ってくれてたよ。最初の信長さんの発言で一時はどうなるかと思ってたけど、もし雪さんが帰ったら私が一人ぼっちになるから…私がこの会をすごく楽しみにしてたからって雪さんを無理やり誘ったから…私のためにずーっと嫌な思いをしてでも我慢して今まで居てくれてたんだよ!?」
奈々ちゃん…。そう、ここまで嫌な思いをしたのは9割ぐらい信長さんのせい。そう考えると今怒りの矛先となっているアキちゃんに対し、少し申し訳ない気持ちになる。
「ちょ、ちょっと奈々ちゃーん。遅れたのはごめんって言ったじゃん。だからさぁ、ね?そんな怖い顔しないでさ」
「うるさいっ!有名Youtuberなのか珍獣なのかなんてどうでもいい!アキちゃんのせいでこの会が台無しだよっ!」
「よういった、小娘」
「あなたも黙っててください!これは信長さんのせいでもありますからねっ!それに、雪さんを二度と雪女呼ばわりしないで!」
「……で、あるか」
あれ、信長さん。さっきまでの勢いは?
「雪さん!もうこんな会さっさと終わらせて帰りましょう」
「あ、う、うん」
こうして、毎年少し憂鬱になるクリスマスというイベントの日に、これから何十年先でもきっとこの日のことを思い出してしまうであろう、最も憂鬱だった会は、私と奈々ちゃんが財布から何枚かのお札をテーブルに出したと同時にお開きとなった。
おそらくもうこの方達に会うことはないだろう
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