隣国のお姫様にさせられそうになった私は、助けてくれた王子様と結婚して幸せになる:施

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 私は踊り子だ。


 世界各地を巡り歩きながら、その土地の人々に自分の踊りを披露して、お金を稼いで生活している。


 そんな私は、立ち寄った赤の国で、ある日王子様に出会った。


 その王子様は、私を見て頼み事を言った。


 その赤の国は、とても大変な状況にある国だったので「どうか君の踊りで民達をはげましてほしい」と言われたのだ。


 王子様が言った通り、その国は災害続きで、国民達はみな暗い顔をしていた。


「だから踊りと言う娯楽を、この国の民達へ君から施してほしい」という。


 断る理由がなかったため、私はそのお願いを聞くことにした。


 その日から、人々がよく行きかう通りに出ては、世界各地で見聞きし、学んできた踊りを披露した。


 私の踊りを見た人たちは、わずかながらも元気をとりもどしたようだった。


 得意な事が踊り以外なかったから、踊り子をやっていたにすぎない私だった。


 だから、今まで踊りを披露して褒められたり、お金をもらってもあまり充実感はなかった。


 けれど、その時はとても心に響いたのだ。


 人々の笑顔を見た時に、不思議な満足感を得ていた。


 そんな私は、初めに声をかけてきた王子様に見初められて、結婚の約束をかわす事になった。


「お姫様になったら、ずっとこの国で暮らしていかなければならないけれど、それでもいいかい?」


 そういった王子様に私は「大丈夫です」と答えた。


 旅の踊り子である私は、一つの所に留まる事なく各地をさすらっていた。


 しかし、それは特にこだわりがあるわけではなかった。


 どうせなら、ただ様々な土地に行ってみたかっただけだし、色々な踊りを学びたかっただけなのだから。


 王子様と婚約した後は、それなりに裕福な暮らしを送った。







 しかし、結婚式の準備が進められていく中、私は隣国の青の国の王子様に出会った。


 お客さんとしてまねかれていたその王子様は、一目で私の事を気に入ったようだ。


 私にとっておきのお菓子をふるまってくれたのだが、その食べ物を口にした瞬間、私は眠気に抗う事ができず倒れてしまった。







 そして、気が付いた時は隣国の青の国に移動していた。


 状況を考えるに私は、どうやら攫われてしまったようだった。


 何度かその国から脱出しようとしたが、見張りが厳しくてうまく逃れる事ができなかった。


 そうこうしているうちに、元の赤の国では王子様と私との間で結ばれていた婚約が破棄されたらしい。


 王子様自身は「攫われた踊り子が無事で戻る事を信じている」らしいが、周りの者が反対したらしい。


 王子様に他の女性を見つけてもらうために、と婚約を破棄させたようだった。


 私を攫った方の青の国の王子は、「これでお前の戻る場所はなくなったな」と言ってきた。


 私は、落ち込んで脱出する気力をなくしてしまった。


 しかし、赤の国の王子様は私を助けるために活動し続けてくれたらしい。


 ある日、青の国に「忍び」という者達がやってきた。


 その人達が私を秘密裡にこの国から脱出させてくれるようだった。


 私は喜んだが、心の底では不安だった。


 私が赤の国に戻ったところで、王子様は歓迎してくれるだろかと。そう思ってしまうのだ。


「忍び」達は、王子の心は変わらないままです、と言ってくれたけれども。


 とにもかくにも、王子様の心がどうであろうと、ここにはいられない。


 なので私はその青の国から脱出する事にした。






 その「忍び」達はとても優秀だった。


 誰にも見つからずに、私を青の国の外まで逃がしてくれたのだから。


 しかし、私はまだやる事があると思いなおした。


 王子様の元に戻った私は、おそるおそる彼の心境を確認する事になった。


 けれど、心配は杞憂でおわったらしい。


 王子様は私が無事で帰還した事にとても喜んでくれた。


 私は、その赤の国で王子様と婚約し、無事に長い間保留になっていた結婚式を挙げる事ができた。


 青の国の王子のしでかした事は公になり、他の国からも非難されたようだった。


 どうやら他の女性にも、同じような事をくりかえしていたらしい。


 お菓子を贈り、薬で眠らせて攫っていたようだ。


 しかし、攫った女性が自分になびいたとたん捨てていたのだから、その行動の原動力は愛なのではなかったのだろう。


 ただ、子供がおもちゃをほしがるような、単純な欲求が理由だったに違いない。








 私は、自分を軟禁状態にしていた元凶、隣国の王子へ手紙を書いた。


 今他国から非難されて、大変な目にあっている王子へ。


 けれど、ながながと彼の事を考えていたくはなかったので、手短に。


 彼が分かりそうな所だけを簡潔に。


「貴方の事が大嫌いになりました」


「自業自得ですね」


「それにかわって、私はとても幸せです」


 そんな風に。








 手紙を書き終わって、許可をもらってから鳩に託した後、王子様が呼んできた。


 どうやらひさびさに私の踊りを見たいらしい。


 私は出会った頃の事を思い出しながら、踊り子の衣装に身を包んだ。






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隣国のお姫様にさせられそうになった私は、助けてくれた王子様と結婚して幸せになる:施 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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