第2章「はきだめ」 6-7 傭兵として売る

 「福の神かと思ったら、とんだ疫病神……いや、貧乏神だ!」

 グンドラムがそう叫んで、何度も机を叩いた。


 「ターリ-ン様に頼んで、何とかしてもらうわけにはゆかないんですか?」


 「ターリーンにか……」

 グンドラムが、脂ぎった顔を撫でた。


 「ウチは、金庫でしか使ってないからな。だからって、フィッシャードに借りを作るんじゃあ、面白くない……」


 何度も嘆息し、グンドラムは今が思案のしどころと、ぼんやりと窓から松明の明かりが彩る夜の街を眺めた。


 やがて、

 「傭兵として売る……か」

 「傭兵ですか!」

 秘書も、顔を明るくした。


 「そうですよ! 戦場なら、いくら強くたって、強けりゃ強いほど値が張りますよ!」


 「うんうん、そうだろう、そうだろう! いま、またぞろマンシューアル方面がキナ臭いことになりつつあるそうだ。ガチャガチャが始まるかもしれんぞ」


 「売りこみましょうよ! フランベルツ伯爵なら、金に糸目はつけないかと!」


 「そういうことだ。いや、やっぱり手に入れて正解だったな!」

 「さすが、党首!」

 「まあな」


 先ほどまでの憤りはどこへやら、グンドラムが満面の笑みでパイプに火を入れた。


 「あのバケモノ、いくらで売れるか、楽しみだぜ!!」

 パイプの煙と共に、高笑いが執務室に響いた。



 四人は無言でアパートに戻り、明かりに火を入れ、居間がぼんやりと明るくなった。


 ストラは変わらず窓際に立って、真っ暗の隣の建物の壁を凝視している。三人がチラチラと見合って、ようやく、プランタンタンが代表して口を開いた。


 「あのー~~、旦那……」

 「なに」

 「ひとつ、聞いてもよろしいでやんすか?」

 「いいよ」

 「あの……のは、何だったんで?」

 「さっきの?」

 「いや、ほれ、あの親分にでやんす」

 そう。


 さきほど、グンドラムの部屋で……ストラはグンドラムと秘書の若者の脳に強烈な催眠波をブチこんで、意識を飛ばした。そして呆然と立ちすくむグンドラムの額に右手の人差し指と中指の二本を当て、一瞬で脳内を探査した。


 探査終了し、催眠を解くまで約一分。

 グンドラムと秘書に、その間の記憶はもちろん、無い。


 や儀式でなければ、探知魔法の一種と判断するしかなく、ペートリュー、


 「何か情報を探ったんですか? いったい、ギーランデルの党首から何を?」


 「たぶん……明日、分かる」

 それだけ云うと、ストラは屋根裏の部屋に向かって階段を上った。

 「明日……」

 三人が、肩をすくめる。


 「いやはや、いちいち気にしてたら、やってられやあせんってことを再確認しただけでやんすね。さ、今日の御金様おかねさまを数えやしょう」


 「そうだな」


 フューヴァも席に着く。ペートリューもそれに続くと思ったが、テーブルのそばに立ったままモジモジとし、トイレかと思ったが、


 「ね、ねえ、あ、あの、きょ、今日の乾杯は……?」


 プランタンタンとフューヴァが呆れて見つめ、それからフューヴァが吹き出して笑った。


 「はいはい、じゃあ乾杯ね。プランタンタン、杯を用意してくれよ」

 「やれやれでやんす」


 だいたい、肩下げ鞄に忍ばせていたワイン入りの水筒を七本、既に全て飲んでいる。


 「乾杯と云ったって、ペートリューさんは駆けつけ十杯、それから乾杯で十杯、その後追加で十杯なんでやんすから」


 「まあまあ……」


 プランタンタンが金属製のゴブレットを用意し、ペートリューは嬉々として自分の部屋から中樽を転がしてきた。フューヴァが、そこから専用のワイン杓で汲んでワイン差しにワインを入れ、それぞれ杯に注ぐ。もっともプランタンタンはいつもの通り、ほんの少しだ。さらにそれを水で薄める。


 「えー~、じゃあ、もう口上も七面倒くせえんで……ストラの旦那にカンパイでやんす!」


 「カンパイ!!」

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