第2章「はきだめ」 5-4 ギュムンデの地下
古いレンガ造りの壁へ手を当て、何度深層探査を試みても、ありとあらゆる探査波が返ってこない。広域空間探査で見ると、そこだけポッカリと空白になっている。
(探査不可能領域と内部空間が一致と仮定して……直径約九十メートルの球体……)
「おい、いるんだろ? 姿を現しなよ」
「!!」
思わずストラが身構えた。人間がいる。明かりをもっており、通路を歩いて接近してきた。
(まったく探知できていなかった……この球状空間の、空間歪曲効果の影響……!?)
一瞬で照合し、何者か認識する。
シュベールだ。
ただし、貴族の夜会正装ではなく、どこかの探検家のような姿だ。ロープや、垂直壁をよじ登る専用の金具なども装備している。
「おいおいおい、こんな漆黒の闇の中でも『姿隠しの魔法』とは、その慎重さに敬意を表するよ」
「貴方の所属と姓名、目的を教えなさい。また、どうやって私を発見したのか答えなさい。答えない場合及び返答次第では、即座に強制排除します」
「いやっ……ま、待って待って、敵じゃあない、アンタを敵に回すほどバカじゃない。むしろ、味方になってほしいんだ。カネも払うよ!」
思わず一歩下がって、シュベールがランタンを持つ手と反対の手でストラを制した。
「は、話を聞いてくれるかな」
「質問に答えなさい。また、虚偽の回答はお勧めしません」
「わ、分かったよ……でも、ホラ、オレもさ、立場ってモンがあるから……あんたの回答や態度如何で、答えられる範囲ってモンがさ」
ランタンの
「……いいでしょう」
少し息をつき、シュベール、
「オ、オレは、シュベール。フランベルツ家の潜入工作員だ。わかるだろ? 本当だ。こんな場所にいるんだからな。今現在の目的は、たぶん、アンタと同じくこの地面の向こうの謎の部屋の調査さ」
「…………」
ストラが無反応だったので、話を続ける。
「フランベルツ家は、いま、この街を完全な支配下に置けていなくてね……どうにかしようと、主要組織の弱体化を図っている。表は領内主要豪族を使って手を回し、裏は暗殺団を差し向けるまでいろいろ手を尽くしてるんだが……ことごとく失敗。オレの他にも、何人も活動中だ。で、オレはこの謎の部屋を調査中……ってわけさ。調べてどうするかって? とりあえず報告して……どうするかは上が決める。……これでいいか?」
「よろしいです。で、いま、どうやって私の存在を把握したの?」
「気配がしたからな」
「気配?」
「存在感……っていうかさ。まさか、アンタだとは思わなかったけど、タダモンじゃないのがいやがるって思ってさ。敵対するようには感じなかったんで、お仲間になれるかと思って、声をかけたんだ」
「気配……」
信じられなかった。特殊な、空間把握能力だろうか。
「分かりました。味方になるかどうかはまだ回答できないけど、協力はできるでしょう」
「本当か!」
シュベールが、素直に喜びの表情をした。
「で、貴方は、この未知の空間をどう予測しているの?」
「答えてほしかったら……」
「答えなかったら、次に会う時は強制排除します」
「わ、分かったよ……怒るなって……」
シュベールが肩をすくめ、
「伝説は色々ある。四百年前に、この街の創設に関与した大魔法使いが、悪魔だか竜だかを封印したとか、組織の連中の巨大な金庫で巨万の富が仕舞われてるとか、フランベルツを守る巨大な力が眠っているとか……」
「どれも不確定」
「そうさ、伝説だからな……」
「論外です。これより、強制突入を試みますので、離れていることをお勧めします」
「強制……って、魔法で穴でも空けようってのか!? 待て待て、待ってくれ!」
「どうして?」
「何が起きるか、分からないじゃないか! フランベルツにとって痛手があるんじゃ、困るんだよ! 頼むって……!」
「…………」
ストラが、人形みたいに動かなくなる。
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