第1章「めざめ」 4-6 なにかとんでもない存在
「ああ……!」
「いったいどうしたら……!!」
人間、追いこまれると碌にアイデアも浮かばないものだ。嘆き悲しみ、憤る二人にプランタンタンも、
「旦那、こりゃいったい、どういうことでやんしょ? 何か、わかりやすか?」
ストラは、先日よりずっと城内の逐一を広域三次元探査していた。
「城主と
あっけにとられて、一同がストラを見つめた。
「え……」
ここにきて、密使二人とペートリューは、ストラが「なにかとんでもない存在」であることに、うすうす気づき始めた。
「……と、も……もしかして、ストラさんは魔法戦士なんですか?」
そういう存在は、この世界でも「なくはない」といった程度だが、絶対にいないというわけでもない。俗にいう、天才の
それにしても、ストラほどのレベルは聞いたこともがないが。
「そ、そうか、ストラさん、探知の魔法か何かで、城内の状況を……!?」
そう云ってベンダがストラに続いてペートリューを見やるが、そんな高度な魔法は使えないので、ペートリューも答えようがない。
「よくわかんない」
ストラがいつものように、寝ぼけ眼めいた半眼でぶっきらぼうに答える。
「旦那はしっかし、奥ゆかしいでやんすねえ……。で、その……領主様のお側近くにいるっちゅう、あっしらの訴えを退けてるっちゅう魔法使いたあ、どんなやつばらで?」
以前、城にいたというペートリューに、視線が集まる。ペートリューはたちまち赤面してどぎまぎし、過呼吸になりかけたのでプランタンタンがそのカップに赤ワインをなみなみと注いでやった。それを空気を吸うように呑みこんで、
「ほっ、他の大きな国でいうと、その、宮廷魔術師とか、宰相とか、軍師様とか、そういった立場の人です……わ、わ、わたしの、前の上役です」
「領主様にそういう人がいるというのは、聞いたことがある。十年以上前からいるはずだ」
「で、でも、領主様の側近の魔法使い様が、どうして我々を……?」
ベンダとアルランがそう云って、頭を抱えた。
「はっはあ、わっかりやしたぜ、その魔法使いが、黒幕なんじゃあ?」
プランタンタンが訳知り顔で口から出まかせを云ったが、その言に三人が凍りついたので、思わずその薄緑の眼を丸くした。
「え……なにか、マズイことでも……?」
奴隷だった時も出まかせや口ごたえでよく棒で叩かれていたが、どうにも性分なのだった。逆に、その軽口で道化を演じ、助かったことも多い。
「ペートリューさん、どっ、どうなんです!?」
アルランに詰め寄られ、ペートリューがカラの真鍮カップを口に運ぶ。だがカラなので、眼を泳がせて酒を探した。プランタンタンがまた注いでやる。立て続けに三杯飲んで、
「もうねえでやんす」
プランタンタンが真鍮の取っ手付きの
「おさ、おさけッ、酒さけさけ……さッ……さけえッ……!!」
ブルブルと震えだし、ペートリューが発作を起こしかけた。
「深呼吸して、落ち着いて」
その眉間へピタリと右の人差し指をつけ、ストラが催眠術のように云い放つ。特殊な高周波と疑似ナノマシンの注入により、一時的に脳神経を欺いてアルコール受容体を満足させた。
酒臭い息で荒く深呼吸し、ペートリューは正気を取り戻した
「ラ、ランゼ様は確かにクセはありますが、領主様とはたいそう懇意ですし、そんな……裏切っているとは……」
「裏切るという感覚すら、ないのかもしれません。単に、代官とエルフの酋長より金銭で協力を求められているだけかもしれません」
ストラの説明に、ベンダが哀願するような目をむけた。
「ス、ストラさん、どうすればよろしいので!?」
「直接、領主へ訴状を届けましょう」
ストラが、朝ご飯を食べましょう、というほど軽くそう云うものだから、ベンダもアルランも、何も云えなくなった。
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