最終部『それぞれの明日(未来)へ』
第1話 自分で開けなかった最後の扉
ローダ達の完全勝利で幕を閉じたこの争い。そしてローダの兄、ルイス・ファルムーンの意識が帰って来た。
二人共々全身にガタがきている。仰向けに倒れたまま当分動けそうにない。
ローダの勝利を手放しで喜ぶ仲間達ではあるのだが、竜達に身体を差し出して、扉の力も使い果たした。
おまけに
後は時間が解決してくれるのを待つ以外の選択肢がない。泥だらけの地面の上でまさに泥人形のように不動を続けるしかないのだ。
「………あ、
勝利の喜びに駆け寄ってきた
サイガン・ロットレンが創りし人類を超越した存在である彼女であっても、体力気力共に
戦いでのダメージよりも
普段は元気を
「………ごめん、なさい」
「何故、謝る?」
他の連中がワザと
これは他ならぬローダが
「………な、何だろう。彼を殴った時、これまでと違う罪悪感を感じたの。何故と聞かれても自分でも良く判らない……」
「………そうか。ま、とにかく色々と苦労を
未だ俯いたままの姿で
感謝には感謝を、謝罪には謝罪を返す………。飾り気を失ったローダらしい言動に少し救われた気がするルシアであった。
「良いのよ……貴方の背中は私が守るって約束を果たせたことには満足しているのだから」
元来のローダ・ロットレン……いや、出会ったばかりのローダ・ファルムーンは、そういう不器用な男であったし、実は今でも変わってなどいない。
実の処、ルシアの謝罪の理由をローダの方は、何となく察していた。それは同族に対する
マーダもルシアも元を正せば、サイガン・ロットレンが創りし人造人間。マーダが生み出されたからこそ、ルシアとて存在し得る。
けれどもその同族の成れの果てを送る最大の功労を成し得なければならない。勿論彼女にとっての最大目標は、ローダとの幸せな時間を勝ち取ることだ。
その希望が彼女の意識の大半を占めたので、マーダに対する罪の意味が判別出来なくなった。
「………苦労を掛けたな。処で
「えっ………それってどういう………」
マーダとルシアを創った
その台詞を聞いたルシアがぐったりした首を思わず持ち上げた。彼女には理解出来ていなかったことを、この老人は、どうやら知っているらしい。
「嗚呼………目覚めた。人と認められしマーダが最後の鍵になったようなものだ」
「はぁっ!?」
ローダの
周囲の連中もどよめいている。なおサイガンの場合、知覚した訳ではない。状況証拠から確信を得たに過ぎない。
「やはりな………これで全ての
「あっ………アーッ! そういうことかぁ!」
ルイス・ファルムーンの意識にローダと共に押し入って「実は弟なんていなかった。二人共、お母さんから見れば
悔しさを地面に
「こ、コラ止めんか、みっともない。戦いに集中していたお前と違い、私には
「ムーッ……」
子供のように膨れっ面になるルシアをサイガンが
マーダが人間の心に目覚める可能性を排除し消してしまえば良いと思っていた罪深き自身を呪ったのである。
「………私とルシアを連れた三人でマーダの意識に入ったその後、お前はそれを確信した。そうだな?」
「その通りだ。そもそも兄さんは、一度マーダの意識を乗っ取った時、不完全と言う割に、力を選択出来る扉を
そうなのだ、今さらこのローダの言葉を解説するのも、しつこいが過ぎる話だが、本来の不完全な扉の力というものは、一つしか得られない。
ルイスがマーダのことを支配した
いや、それは実際に正しい。そうやって得た力も確かにあったが、世界の時間軸を好きにしたり……アレは間違いなく真なる扉でなければ出来ることではない。
「全く……少し頭を
「だけど兄さんには、その方法が思いつかなかった。何せ人の話を聞かないからな………」
此処でローダとサイガン両者が深い溜息を吐く。だけど溜息の意味合いが異なる。
サイガンは、これ程単純な答えを導き出せなかった愚かな自分に対してである。
一方ローダは、その言葉通り……高い能力を持ち合わせながら、マーダの心と向き合えなかった兄に他ならない。
「そこで
いよいよルシアの
「……み、耳が痛いな。いや情けない兄だと僕も思う」
「確かになッ! だっせぇな
そこまでルシアが大きな声を出さずとも、すぐ隣で寝ているのだから当然
苦笑を禁じ得ないルイスだが、首を曲げて謝罪するだけの力が此方とて残っていない。
二丁拳銃のレイがちょっと昔の
「お止めなさいっ! ルイス様だってボロボロなのよっ! 本当に本当によくぞ御無事で………」
「フォウ………君の方こそ無事で僕は心から嬉しい」
最後の最期でヴァロウズの実質No1となった女魔導士フォウは、語るまでもなくルイス側でその愛しい手を取って肩を震わせ、むせび泣きしている。
正直複雑な想いも在りはしたが、大人の女になった自分を受け入れたのは、間違いなくこの男に
とにかくマーダを失った以外、この戦いは無事に終わりを迎えた。誰しもがその
争いの終結を祝福するかのように、雨を降らした黒い雲がゆっくりと晴れてゆく。
きっとまたもや残念な争いは起こることであろう。このアドノス島以外にも扉の力を欲する者が現れる。それが必ずしも世間で語る処の正義に与するとは限らない。
けれども差し当たっては、一息ついて良い筈だ。そんな気分に浸っている緊張の抜けた最中に於いて事件は起こった。
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