第10話 召喚
ローダ達4人の
リイナはルシアに付き添う意味もあり、ルシア、リイナ、ヒビキで寝室、ローダとルイスは、リビングを選択した。
特に触れる程の事までもないが、ルイスが「僕はせめてソファーでないと寝られない」と、
もっともローダは、長旅で何処でも寝れる男だから特に気にも留めない。
一方ルイスは、マーダとして生きていた頃も
陽はあっという間に昇り、直ぐに翌日の昼が訪れた。リイナがルシアとヒビキの面倒を見ながら、
間もなく16歳を迎えるこの少女は、本当に頼りになる。
ルシアが「産後で心細いし、
「そ、それが、家には
これには皆、驚いて暫く声を失ってから、質問攻めとなってしまった。
彼氏、
ルシアも「暫く面倒を見て欲しいなんて、罰当たりなことを言った」と謝罪せざるを得なかった。
「と、処で頼んでおいて今更なんだが、こんな家に呼び出したりしたら、も、
「それなら心配に及びません。姿こそ火ですが、私と
「では……始めます。集中するので、皆さん……どうかお静かに」
寝室から運んできた
「ヴァーミリオン・ルーナ、
リイナが小さな声で詠唱したそれは、まごうこと無き不死鳥の召喚術だ。
だが同じ召喚でも戦う時のそれとは、まるで
目前に小さな炎の渦が出現する。さらに火の鳥の形を成すのはいつも通りだが、これも小鳥の様に小さかった。
リイナの緊張感が他の三人にも伝わって、思わず息を飲む。
「此処からが本番です………ジオ、私に力を貸してね」
一度、ゆっくりと全ての息を吐き切ってから、心中にいるジオーネ・エドル・カスードに
「マラビータ・アニーマ、
遂にリイナの詠唱が完結した。恐らく心中のジオーネも、共に同じ事をしてくれたに違いない。
小鳥の様な火の鳥がゆっくりと、その姿を変化させてゆく。
先ず人の両脚が現れて、腰、腹、胸、両肩、両腕、最後に頭に当たる部分が形成され、人型の炎に変化した。その異様さを感じたのか、寝ていたヒビキが目を覚ます。
(………お願いっ!)
目を開けてその
(……来いっ! 頼むっ! 戻って来いっ!)
対照的にローダは一部始終を決して見逃すまいと、その黒い瞳を大きく見開く。
(来るんだ
ルイスは、弟、義妹、そして
やがて炎が治まってゆく。代わりに人の肌色が、徐々に
「………こ、これは何だ? どうした事か?」
出現したサイガンは大いに
全てが終わった気配を感じ、目を開いたルシアであったが、全裸の父を見て、すぐさま両手で目を
「サイガン様、大変な無礼をお許し下さい。私が不死鳥の力で、貴方様を現世に引っ張り出しました。まだ身に起こったことを
リイナがこの中で最も冷静に、
「お、おぉ、これは大変済まない……」
サイガンは精一杯に頭を回転させつつ、先ずは言われた通り、
ローダが両膝をガクリっと床に落として泣き始めている。
ルイスが驚きと
ソファーに座ったルシアは、何かをとても大事そうに
「ま、まさか………その赤子はまさかっ!」
とても
「ほ……ら、ヒビキ、おじいちゃん……です……よ」
母親になったばかりのルシアが、ヒビキに祖父を紹介する。その目に
「そ、そうだ。ヒビキ、この人がお前のおじいちゃんだぞ」
ルシアの言葉にローダも我に返り、全く同じことをぎこちなく繰り返す。
「ほら、こうやってまだ座ってない首を支えながら抱くのよ。判った?」
「あ、あぁぁ……」
娘から孫を抱く様に促されたがこの爺、オロオロして涙が
とてもとても危なっかしい手つきで、ようやくヒビキを受け止めた。
けれどヒビキの方が突然大きな声で泣き出してしまい、オロオロに
「ハハハッ、これは
吹き出さずにはいられないルイス。孫とはこれ程までに人を
「あーっ、ビックリしちゃったねぇ~、ママの処に戻ろうね」
とても泣き止みそうにないヒビキを、父から引き取るルシアである。
「………義父さん、ちょっとだけ良いか?」
初対面の孫を取り上げられた義父に声をかけるローダ。少し家の外に出る様に促した。
今日は天気も良く春先の割には少々暑かった。エドナの海は、とても
「ローダ……お前が考え、リイナの力で此方に呼んでくれたのだな」
「義父さんが死んでから、扉のスキルでどうにかならないものか、色々と思案した。実はどうにか出来そうだと……だけどそれを行使するのは何か違うと感じた」
「………うむっ」
「だからリイナにお願いして不死鳥の力を借りたんだ。
相変わらずの真面目くさった顔つきで頭を下げる。それを受けたサイガンは、満足気に微笑みながら首を振るのだ。
「それで良いのだ。自分達の願いを叶える為だけにその力を行使したら、私は大いに怒り狂った。その様子だと、あれから扉の力を使っていない様だな」
「……この力は次の
右拳を握り締めて息子は、力強く応える。まさに満点、正答だと老人は満足する。
「そうかそうか………ただヒビキを見せて貰えたこの幸福だけは、甘んじて受け入れたい。それにルシアの生殖機能が無事なようで良かった」
「それなら心配ない。アイツ、
「な、なんとっ? では生後1日と経っておらんのか!? もう少し落ち着いてからでも………」
ごく自然なサイガンのリアクションに、ローダが少々呆れ顔で応じる。
「俺もそう言ったんだがアンタの娘は、言い出したら聞かない……だろ?」
「ハハハッ、違いない………」
そして二人の親子は、顔を見合わせて大いに笑った。
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