第14話 決意の裏側
「そう、彼の言う通りだ。俺はサイガンさんの意識を通して、彼の事を大体知っている。ヴァロウズ第2の男でありながら、サイガンさんと共に、この状況を作った人。今はドゥーウェンって、呼んだ方がいいのでしょうか?」
ローダはその場にはいない人間に声をかけているので、視線を向けようがない。とりあえず自分の胸に手を置いて、自分の中へ呼びかける様な格好になった。
「そうですね、今さら本名は何かやりづらいのでドゥーウェンで。お心遣い感謝します、ローダ君」
ドゥーウェンが軽く頭を下げる。一同見えてはいないのに、その動きを感じ取れた気がした。
「ガロウ殿、貴方達エディンの拠点を奪う様な形になってしまい、大変申し訳ございませんでした。先生と違って未熟な私には、活動する為にどうしてもここの施設が必要だったのです」
「……」
「あと一応お伝え致しますが、エディンの自治区長様は御健在です。民衆軍の兵士達もこの砦に至っては、一人たりともかけてはおりません」
「な、なんだとっ!」
「………彼の言ってることは正しい」
ドゥーウェンの言葉に驚き、思わずローダとサイガンの方を見るガロウ。
ローダが頷いて肯定を表す。
「へっ! なんてこった、爺もテメエも最初からグルだったのか」
ガロウは椅子にドッカと座り込むと、遠慮なく悪態をつく。
「話を戻しましょう。ローダ君の言う通りです。彼にはまだ8つの試験が残っていますが、それらを全てクリアした時、彼は様々な人間達との意識共有が出来る最初の人間に進化する可能性があります。もっとも試験をクリア出来ればの話ですが…」
ずれた眼鏡を戻しながら先程のローダの問いに答えるドゥーウェン。クリア出来ればのところで少しだけ含みを持たせる。
「しかしこんなにも早く彼の正体を語る事になろうとは。これでは物語が白けてしまいますね………」
彼はやれやれといった仕草で首を横に振る。しかし実はまだその先の答えがあるのだが、あえてその事には触れなかった。
(ローダ君はどうやら気づいている様ですがね。彼自身、これはまだ語るべきではないと把握しているらしい。大したものです………)
「ちょっと待ってください、色々な人との意識共有。それってつまり…」
リイナが口を挟んできた。此方も何やらちょっと含んだ感じである。
「ローダさんに隠し事は出来なくなる……って事ですよね? 例えば好き! ………みたいな恥ずかしい気持ちとか」
(ちょ………リイナっ!?)
ルシアの顔が耳まで赤くなる。気が付くとリイナは
「う、うーん………リイナ、それはだな、俺はあくまで可能性の話をしているんだ。それにこの世にいる全ての人間の意識がまとめて入って来たら、多分自我を保てなくなると思う。きっと何か対話出来る為の資格…みたいなものは、互いに必要なんじゃないかと思うんだ」
ローダはリイナの裏の真意と、ルシアの秘めた思いには、気づいていない回答を出してしまう。今のところ、その意識の共有とやらは、到底出来ていない。
「ふーんっ………そっかあ。ま、そうですよね………」
ローダの朴念仁ぶりに心の中で舌を出すリイナである。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、俺にはさっきから話が見えねえ」
ガロウがたまらず口を挟む。
「さっきから意識の共有だの、なんだか精神論みたいな話ばかりしているが、そもそもここに来た理由は、ローダがあの黒の剣士と戦った時に使った力は一体なんだ? そういう話をしに来た筈だろ?」
彼の言う事はもっともである。そこに関しては全く進展している気がしない。
「すまない、その力については、正直良く分からない。俺は兄さんと話をしたとき、マーダに向けてあの力を行使したのか、それとも兄さんへ向けたものだったのか。大体あの力はそもそも何なのか、それはまだ何も分からない……」
つい先程まで自信たっぷりに語っていたローダの顔が暗く沈んだ。
「やれやれ……振り出しに戻るか。これについては爺もドゥーウェンも似た様なもんなのか?」
少しため息をついてから師匠とその生徒やらにも話を振ってみるガロウ。
二人共これには沈黙で答えるしか術を持たない。
「そうか、一番肝心な所が分からないのか。まあ、雲をつかむような話だからな」
ガロウは首の後ろで手を組んで天井を見上げた。
「まあ、そう急かすな。お前の悪い癖だぞ。ローダのその力とやらは、これから残り8つの封印を解除してゆけば、自ずと分かる事であろう」
やれやれと言った
「ローダよ………」
そしてサイガンは、ベットにいるローダに神妙な面持ちで向き直す。
「はい」
「とにかく今はお前の
彼はそう告げると、ローダの心臓をコツンっと叩く。クソがつく程に真面目な顔を二人はしていた。
「はいっ!」
ローダは返事をしながら自分の心を強くイメージするのであった。
「そしてお前達。これは肝に命じておくのだ。次にローダのリミッターを解除するのは、この中の誰であってもおかしくない。あるいは敵の中にいるやもしれん。その場合、相手を殺す訳にはいかん」
次に一同を見渡して覚悟めいたことを促してゆくサイガン。皆が一斉にどよめく。
「むぅ…」
(あ、
先程の戦闘を思い返して戦慄するジェリド。
「ぞっとしねえなあ……」
そういう割にガロウは、もうどうにでもなりやがれといった感じである。
「ほ、方法なんていくらでもあります、きっと」
リイナの言葉は強がりなのか、本心なのか、どっちもなのか、ちょっと要領を得ない。
「わ、私はっ! どんなローダでも受け入れてみせるっ!」
突然右拳を突き出して、その決意をあらわにするルシア。その行動に皆の視線が一斉に集まる。
「流石、お姉さま!
「お、いいねぇーっ!」
リイナは思い切り拍手して、ガロウはニヤッと笑って冷やかした。
顔を真っ赤にして、出した拳をひっこめるルシア。実は彼女のこの決意、裏の事情があるのだが、今はそれを語る時ではない。
「さて……ひとまず話は終わりだ。今夜は此処に泊まっていけ。狭くて雑魚寝になって申し訳ないが、安心して眠れるぞ」
サイガンが両手を叩いて、この話はひとまず終わりという合図を出した。
時刻は流れ、大体深夜。まもなく翌日を迎えようとしている。
部屋の電球の灯りは消されて、代わりに小さな灯油のランプがひとつだけ、揺らぎながら暖かい光で一同を包んでいた。
全員既に眠りについていた……かに見えた。
「サイガン殿、起きていらっしゃいますか」
ジェリドだった。一番大きい身体に似合わない小さな声で彼は賢者にひっそりと声を掛ける。
「ああ、起きておるよ………」
賢者はすぐに反応した。これから聞かれることは、なんとなく察しがついている。寝たふりで誤魔化す事も出来た筈であったが、あえてそうはしなかった。
「多分、
「…………」
「貴方は一体、どこからやってきて来たのですか。そしてローダ………彼はどうしてこうなったのか。そして貴方は言った。我々の誰が次の封印を解く番が回って来てもおかしくはないと」
「…………」
「私は………いや私達は、貴方の手の上で踊らされている。そんな気がしてならないのです」
ジェリドの質問は老人にとって一番辛い所であった。だが答えねばならないだろう、彼にはその権利があると思った。
「実は奥に隠し部屋がある。そこでゆっくりと語るとしよう。その結果、お前さんの審判が下ることになるとしても、甘んじてそれを受けよう。ついて来るがよい」
サイガンは音を立てずにベッドから立ち上がった。ジェリドも静かにそれへ続いた。
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