第11話 要塞の学者とハイエルフの女
エドナ村から東方へ約70km、フォルテザというとても大きな街がある。
アドノス島に最も近い大国エタリアと一番近い自治区がエディンなのだが、大陸に向かって伸びている岬の上にあるこのフォルテザが、その中でも特に近い場所である。
此処にエディン自治区最強の砦が存在する。またこの砦は港と繋がっており、港には軍艦が
襲撃を受けた際に身を隠しながら反撃をするためのものだ。
貿易で栄えた港町があるフォルデノ王国がこの島のほぼ最南端、その一方で最北端に伸びた場所であるフォルテザが、最前線基地である。
要はアドノス島で一番栄えている王国の盾と化してるというなかなか皮肉な話であるのだが、実はこのフォルテザとて、エタリアと密貿易をして栄えているのだ。
もっともその稼ぎを軍備増強に使い、
アドノス島は、元来互いを護る事で平和を維持してきた訳だが、そんなこの島においてエディン自治区には手を出すべからず、という
それはエディンが落ちればという危機感でもあるが、フォルテザを抱えたエディン自治区は、フォルデノ王国軍やラファン自治区の山林の戦士達より、実は強いのではないかという潜在意識から来るものが強い。
そんなエディンが、この軍港を持つ要塞都市フォルテザをほぼ無血で開城するというのは、異例中の異例であった。
単純な見方をすればマーダ軍の
けれど自治区長は「我が命だけ差し替えにこの町と砦だけは守らねば、今は
『我々が落ちたらアドノスが終わる、それだけは避けねばならん。今は敢えて勝ちを譲ろうぞ。勝つのは最後で良いのだ。
エディンの真の
今、このフォルテザの砦と町を支配しているのは、学者風の男であった。
名を『ドゥーウェン』という。マーダが強さを認めた10人、ヴァロウズ第2の男である。
彼は剣や武術は勿論、魔法の
学者というだけあって線の細い優男である。
金髪をオールバックでまとめ、細い目には、金縁の丸眼鏡をかけている。
品性の整った顔つきである。
黒のスーツを
マーダはこの要所に、彼と数人の部下だけを
砦の兵士達が、その気になればその首を
彼の首を刎ねれば、次こそはこの街が消し飛ぶ事を理解していた。
ドゥーウェンは、これまで通りエタリアに対する守備に
そしてエタリアとの密貿易すら認めた。ただ一つの条件は、他の自治区の兵は決して街に入れる事なかれという事だけであった。
さらに彼の
ハイエルフは、男でも女でも美しい。無論彼女も例外でない。302歳、ハイエルフとしてはまだ若い彼女の美しさは、人間の美しさの基準と比べるのは無礼である。
彼女はマーダ軍の兵ではなく、この優男の私兵であり、その証拠に彼女のまとう鎧は、最も高貴な色とされる紫を基調としている。
加えてドゥーウェンの指示だけ忠実にこなす。ちなみにこの鎧、金属らしいのだが異様に軽く、そして得体の知れない素材であるらしい。
品性の
砦の地下室で机に向かい、不思議なカラクリを相手にしているドゥーウェン。
機械のガラス側に映る物を見ながら、ガラス側にほぼ直角に繋がっているボタンが並んでいる方へ、両指を
彼は出歩く際、この機械の鏡の側を閉じて本の様に持ち歩いている。
ガラス側の方は『モニター』、ボタンが並んでいる方は『キーボード』というらしい。
以前、ガロウが言っていたエタリア人の国使に見せた、鏡の様な本に似ている物なのかもしれない。
「ドゥーウェン様」
「………なんだい、ベランドナ」
ドゥーウェンは優しい口調でハイエルフに答えたが、キーボードを叩くのは止めない。
彼の口調は大体いつもこんな具合。変調する事は皆無と言っていい。
「遂に
ベランドナの口調は常に冷静で、やはり変調する事はあまりない。
「そうか、判った。今は
少し意地悪くフフっと含み笑いを漏らすドゥーウェン。
「そんな………判り切った事をお聞きになる。嫌いです」
一瞬顔をしかめたが、ベランドナの口調は、さほど変わらない。そう、黒い邪悪な影とは、彼女の種族が最も
「ごめん、ごめん…軽い
口調は大して変わらないというのに、ドゥーウェンは、キーボードを叩くの止めて思わず頭を下げて謝罪する。
(先生、もう貴方はご覧になっているのでしょう。遂に先生の長きに渡る夢が形になりましたね。真の始まりはこれから。私も早く歴史の立会者になりたいです)
彼は心の奥底で、敬愛する先生への思いを
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