第9話 渾身の反撃と氷狼の刃
ルシアが圧されているのは誰の目にも明らかに見えた。拳を交わしているティンは
「強がってんじゃあねえよッ!」
ティンが再び間合いを詰めて
ルシアも脚で逃げるのは
加えてとにかくジャブを連打し
(これだけ寄せられると、拳に精霊を
ルシアは心中で
(大丈夫っ! まだやれることは残っているのよっ!)
ルシアが左ジャブの速度をとにかく上げてゆく。
(クッ! まだギヤが上がるのか? だが判っているぞ、もう脚が動かないのだろ?)
これにはティンがガードを上げてブロックに転じるターンになった。
けれど彼女はまだ余裕だ。ガードの上からいくら叩かれようが
(そうら開いた!)
ティンは再びルシアの脇腹に鋭いフックを入れてきた。
(読んでんだよ、それは!)
構わず
(手応えあ……!?)
決まった………
ルシアはティンのフック2連打を読んでいた。なれどあえて脇腹は
精一杯両脚を踏ん張り、血が出る程に唇を噛み締めながら、ティンの
それはコンマ何秒という時間の中での出来事であった。
(わ、脇腹を殺られるのを折り込み済で、コークスクリューブローだと!?)
ティンも今度ばかりは、
そしてルシアは追撃を繰り出す事叶わず、地面にしゃがみこんでしまった。これが拳闘の試合なら両者ダウンを取られるところだ。
(こ、このパンチでもまだ意識が? な、なんて
ルシアは次の一手を考えなければならなくなった。
(折られるのを判っててあんなモンを撃つのか!? 正気じゃねえ! もう技術がどうこうじゃない。認めてやるよ………アンタ、シンプルに
「そしてジェシー、アンタを超える女が今、此処にいるぞっ!」
ティンにしてみてもこの細身の女拳闘士がこれ程にやるとは想像の
ナナリィーだった自分………ジェシーに変わった自分………。それと
◇
「………見事!」
その戦いぶりにジェリドは、
「見たかガロウよ、ルシアのあのタイミングを」
「ああ………ぶっ飛んだぜ全く。アイツ、敵の意識も視線も完全に自分の脇腹に引き寄せた上で、その外から撃ちやがった」
ガロウも拳を握り締め、
「そう言う事だ。ティン・クェンにとっては貰う筈がない拳。言わば見えないパンチだ。彼女はこんな戦い方も出来るのか」
(サイガン・ロットレンはこんな戦士を育てたのか? アレは本当にただの技術者なのか!?)
ルシアの底知れぬ力と共に、その背後にいる
「だがあれでも倒せんとは。あの女戦士のタフネスぶり、
ガロウはジェリドよりもルシアの強さを
そうすればルシアが後れを取る事はないと確信している。
◇
一方、ローダとトレノの争いも並行している。トレノのエストックをへし折ったローダ。
剣士同士の戦いであればローダの勝利。と、言いたい所だがトレノは、
「扉の使い手だと!? 馬鹿な? 我々と戦った時は加減をしたのか?」
ジェリドとリイナは、故郷ディオルの街で戦ったので、彼の力量は良く知っているつもりだ。特にジェリドは騎士として1対1を制しているのだ。
「いや、あの時は油断こそあったが、決して手を抜いてなどおらぬ。まあ、見てれば判る」
顔を向けずに言葉だけで、トレノは斧の騎士を制した。
そして腕を直角に曲げて両掌を上に向けた。先程
「あれは、
「俺と戦った時、彼は抜刀術や
その光景に
「そ、そうなのか………ではここからがヤツの本来?」
「恐らくな、さらに扉でアレを出した。あれがただの日本刀の訳がなかろう」
ジェリドもガロウも今度は左手の渦から何が出てくるのか
(あれは例の狼か? いや、違うな。普通の生き物ではない)
それはジェリドが引導を渡したあの巨大な狼に似ているかに見えた。けれど姿が定まらない。狼の様でもあり、氷の塊の様にも見える。
「あ、あれはもしや
リイナは
「ほぅ…………まさか知っている者がいようとは」
フェンリルは完全にその姿を
日本刀が青白く輝く、それはローダの右手の剣の輝きを
「これぞ俺が扉に望んだ力よ。『
トレノ、いや………士郎がこの日本刀をローダへと向ける。
「この氷狼の刃と父より継いだ殺人剣。ローダ、貴様のそのいびつな二刀で果たしてこれと渡り合えるかな?」
士郎は自らが氷の様に冷笑しながら、ローダを挑発する。対するローダは再び二刀を交差させて、その挑発を真正面から受け止めた。
「では改めて名乗りをさせて貰おう、
「ローダ・ファルムーン………」
「いざ………」
「
「「勝負ッ!」」
ローダは剣を交差させ、真っ直ぐに飛び、一気に間合いを詰める。対する士郎は、珍しく最上段からの刀を振り下ろした。
ローダの二本の剣が、交差したまま士郎の刃を受け止める。
(速い! こんな大振りなのに!)
先ずその速さに驚くローダ、勿論それだけでは終わらない。先程までは真空の刃が斬りつける毎に襲いかかってきたが、それが青白い氷結の刃に変わったのだ。
「クッ!」
散々かまいたちを受けたローダである。何かが来るとは想像して、これは
「良くぞ
言ってる
剣そのものはローダに届かないが、やはり氷結の刃が飛び出し、真っ直ぐにローダを襲う。
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