第16話 正義のカラクリに翻弄された女
「ヒィィッ!!」
「チッ! 遅かったか」
ルナは耳を
バラッドは愛銃のコルトガバメントを抜いた。此処はもう逃げられないと決意した。
(
次の瞬間、バラッドの左耳の脇を銃弾が2発連続で通り過ぎ、ルナの部屋の窓ガラスを粉々にする。
「エ、エメ……」
バラッドは
自動小銃、コルトガバメントを同じ署で所有しているのは、彼とエメリアの二人だけなのだ。
「な、何故、お前が此処にッ!」
動転するバラッドの足元にエメリアは銃弾を叩き込んだ。
「おっと、
エメリアはニッコリと微笑んだ。だがその笑顔はバラッドをいつも暖かく出迎える女の顔ではなかった。
「まさかバラッド、貴方が犯人だったなんてね。そりゃあ捕まる訳がないわ」
「ま、待ってくれ! ち、違う! お、俺じゃない!」
バラッドが
そして店の中に次々と
「署長、何で貴方が此処に?」
今度はエメリアが驚く番であった。エメリアとバラッドを包囲したのは、署長と良く知っている警官達であった。
「エメ、お前ちゃーんと教えてくれたじゃないか。バラッドは『
署長はいつもの通りの
「エメリア捜査官、いつも貴重な情報をありがとう」
「なっ!?」
「なんだと!?」
エメリアの顔つきが
「そしてバラッド
署長は
(そ、そういう事か!)
「て、てめぇ! よくも抜け抜けと! 」
バラッドは、ようやく全てを判った気がした。
「わ、私は…な、なにを信じたら…」
エメリアは何も理解出来ていない。バラッドも署長も信じられない。頭がクラッとして足元もおぼつかなくなった。
「然し残念だよバラッド、実に残念だ。私は優秀な部下を殺人の現行犯で捕えなければならない」
署長は首を横に振った。他の二人の警官がルナの部屋に押し入り、バラッドの後ろで恐怖に震えているルナに拳銃を向けた。
バラッドは拳銃を一人の警官に向けて、もう一方にはナイフを突き付けた。
「やめるんだ、バラッド。君は街のゴミ掃除をしただけだ。私が口添えすれば
「何、
必死の
「俺が東の方を見てくると言って出て行けば、西で女が殺された。お前達は俺の動きを理解しながら常にその逆を突いた…」
「今夜は帰ると俺は言った。アンタは
「……!?」
「エメはお前達に嘘の情報を流したことで
「しょ、署長!?」
「いいか! よく聞けエメリア! 署長達はグルでこの街の
「………はて? バラッド捜査官、残念ながら君の
署長は大きく首を横に振って、ヤレヤレといった態度になった。
「いいかね、良く聞きたまえバラッド捜査官。我々は政府高官殿の命令でこの街のゴミを捕えて国に納品しているだけだ。被害者の死体、何か色々と違和感がなかったかな? それに税金滞納者だけなら、何故美女ばかり狙ってゴミ掃除かね?」
「なっ!」
バラッドは被害者の遺体を
死体は被害者当人だとばかり思っていたが、鑑識すら巻き込めば例え偽の死体であっても当人になる。
なかには政府高官の指示に従い、
「か、鑑識すら…いや、この署、いや違うもっとだ。この国自体がグルだった」
「私達は国の言いつけ通りの仕事をしていただけなんだよ。何も悪い事はしておらん。それなのに君は首を突っ込んできた。
そう告げて署長は手で
「し、署長さん…わ、私は、ど、どこでも喜んで行きます! だ、だから、こ、殺さないで!」
ルナは署長の足元に身体を引きずりながら辿り着き、
恐怖のあまり、
「無駄だルナ、この芝居。どのみち誰かが
「おお、それはご名答、大正解だ。やれば出来るじゃないかバラッド君」
署長を
「あと、流石にエメリアを巻き込むつもりはなかった。この場に来なければ彼女はただの
さらに「ま、とにかく残念だよ」と署長は付け加えた。
(わ、私は…な、何を間違えた!? ど、どうしてこうなった? な、何が正しいの? バラッドは、間違っているのか? 署長は正しいの? わ、私は、私は、私は……)
「私はぁぁぁぁぁああああ!!!」
エメリアは、気が付くと自分のガバメントの銃口をルナに向けていた。何故? 問われても判らない。
取り合えず愛するバラッドの心を奪ったコイツだけは、許せないと思ったのだろうか。
とにかく正義でも考えでもなく、身体が勝手に動いていた。
コルトガバメントの連続する銃声が鳴り響き、
一同が驚いてその
「エメ、すまん、すま……なかった」
バラッドは
バラッド・コード28歳。彼の人生は最愛の女が放った銃弾でその幕を閉じた。
その後、エメリアはバラッドだった死体からガバメントを奪い取り、二丁の拳銃をその
その両目からは
◇
「御覧の通りだ、ブザマだろ? この
ローダの精神世界の中、小さなレイはローダを睨みつけた。
「なるほど、実に悲しい過去だ」
ローダは
「うるせぇ、このクソガキ」
「だが…」
「アアッ?」
「マーダに従う、本当にそれがお前の正義なのか?」
ローダは真っ直ぐに、瞬き一つせずにレイの目を見つめる。
「うるっせぇぇぇんだよっ!
レイは声の勢いとは
「そうか、ならばお前はルナを殺し損ねたあの自分を正義だと言うのだな?」
「黙れ…」
「思いの数だけ正義があると言うのなら、お前の想いを裏切りルナを救ったバラッドの想いも正義だと言うのだな?」
「黙れ…」
「国家権力に準じてお前達二人に全ての罪を被せようとした、あの署長も正義だと言うのだな?」
ローダの言葉は全て穏やかだ。だからこそ、レイの心に突き刺さる。
「黙れって言ってんのがわかんねえのかッ!! このクソガキィィ!!」
レイがたまらず声を上げる。が、ローダは
「お前、本当はもう知っている筈だ。それを
「お、お前に…」
「んっ?」
「お前に着いてゆけば…それが判るとでも?」
レイの声のトーンが少し冷静になった。そしてローダと向き合う。
「それは有り得ない。お前と同じだ、俺も
そう言ってローダは、少し溜息を吐いた。
「面倒臭いな…」
レイも同じく溜息を吐く。
「フッ、そうだな。面倒だが俺は、そういう生き方しか知らない」
そう告げてローダは、穏やかな顔で笑った。
「………
レイも少しだけ笑った。
色の違う意識の糸が、少しだけ絡み合う事を互いに感じた。
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