第7話 赤い青年と黒の剣士
これまで誰も敵わなかった
だが赤い目とただならぬ気配を感じさせるその姿に誰も喜んだりはしなかった。
「
マーダを圧倒し続ける男を見ながら一人引き
バーサーカー………狂戦士とは、言葉通りの狂った戦士。
敵も味方も関係なく、目に映る全ての生命を狩りつくすまで何があろうと戦う事を止めない存在と言われている。
今でこそ、あの青年は我々の敵に向かって攻撃を仕掛けてはいるが、もし青年がそのバーサーカーだとしたら、この場にいる全員の命の保証はないのである。
「マーダ様!」
フォウが彼の元へと駆けつけた。左膝と右手を地面に付けて、首を
「恐れながら申し上げます。あの者の力、あれは異常です!︎︎この場は撤退すべきです!」
「フフッ……確かにな。異常だ、奴の力は」
主の怒りを買い、命さえを失うかも知れないと覚悟しつつも彼女は勇気を振り絞って進言する。
苦笑しながら静かに答えるマーダ。その手が少し震えている。こんな気分になったのは何年振りだかもう定かでない。
「フォウよ………」
「はっ……」
ゆっくりと視線を忠実なる女魔導士に向けるマーダ。フォウの返答は、歯切れが悪い。
「お前が思う奴の異常さとはなんだ?︎︎我に語ってみせよ」
主の意外な反応にフォウは一瞬
マーダが自ら他人に意見を求めること自体が既に異常なのである。
「あ、あの者の力の根源が私には理解出来ません」
「ほうっ……」
勇気と声を振り絞って返答するフォウ。マーダは決して視線を外すことなく、部下の声を聞き漏らすまいといった顔つきである。
「精霊への呼びかけや神への祈りといった力を引き出す動作が、あの者には全くございません。その上、体格も大したことなく、とてもあの男の中からだけで事足りるとは思えません」
「ふむ……成程」
「……にも関わらず、剣に魔法の様な力を与えたり、宙を舞い得体の知れない物を身体から打ち出しました。恐れながらあのような事、マーダ様にも出来ませぬ」
正直恐ろしさで声が
だが我が主様が私如きの言葉に耳を貸している事だけも嬉しくて仕方がない。
「何よりも魔法であれ、技であれ、術であれ、力の元が必要なのが道理。なれどあの者には、その様な気配すら私には感じ取る事が出来ませんでした。それが私の言う異常の答えでございます」
「成程……っ!」
優秀な部下の発言を聞き終えたマーダは、何かに気づいたのか、両の
(見た事のない武術の使い手、侍、そしてあの力の源が解らない
「そうか、そういう事か爺め。我はまんまと踊らされていたのか」
言った
「マ、マーダ様っ!? い、一体何のお
訳が判らずフォウは赤面したが、そのまま頭をそっと撫でられると、猫の様に大人しくなった。
そして
「フォウよ、よくぞ気づいてくれた。城に帰ったら
「………っ!?」
いよいよ顔が真っ赤になり、心臓がいう事を聞かなくなったフォウ。今ですら夢心地であるのに褒美!?
(な、なんてやましい事を!︎︎これではまるで男を知らない少女ではないかっ!)
自分の妄想を深く恥じるフォウである。心臓の鼓動と息が荒れているのを感づかれてしまうかもしれないと慌てたが、このお方の前で秘め事なぞ無駄と観念した。
「だが、このまま逃げ帰るには少し早い」
そう告げてマーダは、フォウを優しく起こすと、スクッと立ち上がり青年の方を見る。
「フォウよ………見ろ奴を。未だに狂戦士のままだ。あのまま放っておく訳にはいかぬ」
自分の台詞に苦笑を禁じ得ないマーダ。彼もこの戦いが
「一太刀でも浴びせれば、
そして剣先を青年の方に向けながら、さらに講釈を続ける。
「アレは何れ私の力になるものだ。だが今はその時ではない。あんなガラクタは要らぬ。奴にはもっと成長して貰わねば困るのだ。故に正気に戻してから此処を去ろうぞ」
「は……はい」
マーダの声には確固たる決意が
けれどマーダの意志は自分の意志と同義………進むべき道を示された以上、自らもそちらへ全身全霊を以って歩む意外の選択肢は不要なのだ。
(ローダ、ローダよ……)
そんな決意を固めたマーダの頭の中にだけに
(我が身体の本来の持ち主の声……。そうかあの青年はローダというのか。これはいよいよアレが本物と認めざるを得ないか……。正直余り
「爺よ、貴様の
ローダに向けて力強く言い放つと、再び風の精霊の力を借りて、彼は宙を舞い相手に向かって
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