第14話 目指せ高校デビュー
髪を染めようと思い立ったが吉日、私は美容院に行った。
そしたら、拓海と会った。
うっわ一番会いたくない奴と会ってしまった……。
「おいこら顔に出てんぞ」
「なんのこと? ……てか、拓海も染めるわけ」
「まーね、髪色自由ときたら染めるしかないっしょ」
拓海はニヤリと悪い笑みを浮かべている。
長年一緒にいたせいか、考え方まで似てきてしまったらしい。
なんで同じ日に被るかな……熟年夫婦か!
小学生のころにクラスの男子から「お前ら夫婦じゃん」とからかわれていたことを思い出す。
それにしても、初めて来た美容院が拓海の行きつけだったとは……普段安いところしか行かないから知らなかった。
拓海はモテるだけあって、身だしなみにも気をつけているようだ。
「いおりは何色にすんの?」
「茶色かな、そこまで明るい色にはしないけど」
美容師から渡された漫画をめくりながら答える。
というか、なぜ漫画を渡してきたんだ? 拓海が持ってるのはファッション雑誌なのに。
まさか見た目でオタクとわかっているのか……? 恐るべし、美容師。
「なんでぇ、赤とかにしろよ」
「似合わないでしょ……ロック過ぎて浮くわ」
「オレ金髪にするけどね」
金髪の拓海を想像して、目つきの悪さと相まって売れないホストのような絵面が浮かんだ。
「うわ、絶対チンピラになるでしょ」
「ンだとコラ」
喋りながらだと時間が経つのが早いものだ。
あっという間に染め終わり、お互い髪を染めた状態で対面する。
「……似合わねー。なんか無理やり陽キャに化けた感じするわ」
「売れないホストにこういうのいる」
お互いボロくそに言い、それからゲラゲラと笑い合った。
高校の入学式まであと一週間、目指せ高校デビュー!
偏差値が高い学校は自由度が高いと聞いたことがある。
事実、それなりの偏差値を誇る白鳶高校は頭髪自由ピアスOKなゆるーい学校だった。
勉強が出来て問題を起こさなければそれで良し、ということなんだろうか。
入学式の日、たまたま家を出る時間が重なりそのまま流れで一緒に行くことになった拓海の耳にはピアスがくっ付いていた。
わかりやすい高校デビューだ。
頭は金金だし、ピアスは開いているし、なんというか猛烈にチャラい。
幼なじみじゃなければ近くに寄らんとこ、となるタイプの見た目だった。
「白鳶高校ってスポーツも結構有名らしい」
「そうなんだ。拓海くんならサッカーで入れたんじゃない?」
「まさか。オレのレベルはそこまでじゃねーし」
他愛もない話をしながら電車に乗り込む。
中学までは歩いて行ける距離だったけど、高校からは電車通学になる。
朝の時間帯に電車に乗るのは初めてで、その人の多さに目が回りそうになる。
つ、つぶれるぅ。
スーツ姿のサラリーマンと学生でぎゅうぎゅうに詰まった電車の中ではまともに身動きもできない。
つり革に掴まろうにも、つり革のある場所まで行けそうにない。
グラリと大きく電車が揺れ、私はそばに立っていた拓海に抱きつくような形になってしまった。
「うわ、ごめん!」
慌てて離れようとしても、後ろからぎゅうぎゅうと押されてまったく動けない。
ま、満員電車って想像以上にヤバい……!
おしくらまんじゅうのように押されつぶされ、ダウン寸前のところで拓海が私の体ごとドア側に向いた。
拓海が壁ドンのような形で踏ん張ってくれるおかげで少しスペースが出来た。
しかしなんというか、これは壁ドンでは!?
人の多さと拓海の壁ドン(?)で目が回る。
「いおり、大丈夫か?」
「な、なんとか……」
「お前ちっせーもんな。つぶれんなよ」
「さすがにつぶれないわ」
軽口を叩く余裕はあるらしい。
しかし、拓海の胸元からドクンドクンと激しく脈打つ鼓動が聞こえ、余裕ぶっているだけで実はめちゃくちゃ緊張していることがわかってしまい、危うく赤面しそうになる。
幼なじみとはいえ、異性とここまで密着しているとさすがの私でも緊張してくる。
早く着いて……!
ひたすら祈るしかない。
心の中で南無阿弥陀仏を唱えている間に、電車は学校近くの駅に着いた。
「人すっご!」
「さすが街のガッコー」
「その発言田舎者っぽいよ」
「事実そうだろ」
さっそく制服を着崩してポケットに手を突っ込んでいる拓海はとても柄が悪い。できることなら他人のフリをしたい。
ここまで一緒に来て今さら「じゃ」とサヨナラするわけにもいかないので、並んで校舎へ入る。
「お、クラスもしかして一緒じゃね?」
「げぇ」
「ンだよその声」
「わー、知ってる人がいてうれしー」
「すんげー棒読み」
ジロリと拓海に睨まれ、わざとらしいかわいこっぶった声を出してみたが、すぐに棒読みだとバレてしまった。ちぇ。
キョロキョロと辺りを見渡してみると、ピアスをバチバチに開けたいかにもギャルな集団を見つける。
ひぇ、と喉から小さく悲鳴が出て拓海の体に隠れるように近づく。
「お前さぁ、オレの体盾にすんなよ」
「おっとバレてたか」
「当たり前だっつーの。何、ギャルこえーの?」
「見た目がイカついと怖いッスね……」
「ははっ」
例のデートもどきみたいなお出かけをした日以来、拓海の態度は軟化している。
紗妃ちゃんと三人で出かけることが少なかったかもしれないけど、私と二人のときは普通に優しい。
別人みたいで正直違和感バリバリなんだけど、私はすぐ顔に出るみたいだから多分拓海にも気づかれている。
一人だけコソコソしながら教室に向かう。
教室に入ると、チラチラと視線を向けられる。主に女子からだ。
「ねぇカッコよくない?」
「イケメーン。でも怖そう」
「隣にいるの、彼女じゃない?」
ヒソヒソと囁き合っている声の中の言葉に反応する。
……彼女じゃない? じゃないよ!?
今すぐ彼女じゃないです! と反論したいぐらいだけど、そんなことをする勇気などないのでさり気なく拓海から離れる。
「おいこら、なに離れていこうとしてンだ」
「えっ、なんのことやら」
「バレバレなんだよ」
ガシリと大きな手で頭をわし掴みにされ、ギリギリと締め付けられる。
「イダダダ! ギブ! ギブ!」
「ザマーミロ」
「仲いいね、キミたち」
頭を締め付けられて半泣きの私のどこを見て仲がいいと思ったのか、声をかけてきたのは一人の女子だった。
黒く真っ直ぐと伸びた長い髪をポニーテールにしている。
馬の尻尾みたいだ、と思った。
「でも出入り口ではしゃぐと邪魔になっちゃうかも」
「あ、すみません!」
「すまん」
女子の言葉に慌てて二人そろって頭を下げてそさくさと教室の中に入る。
「コッチ座りなよ、空いてるし」
「んじゃお言葉に甘えて。いおりも座れよ」
「なにさり気なく近くの席に誘導してんの……? 乗らないからね!」
私は拓海と女子が座った席から少し離れた席に腰を下ろした。
クラスの女子からの視線がチクチクする……まぁ、あれだけ騒げば当然か。
カバンから本を取り出し読み始める。
視線を気にしていても仕方ないし、知り合いなんて拓海以外いないので話せそうな相手もいない。
本を読むことに集中していたおかげで周りの喧騒も気にならず、あっという間にHRの時間になった。
午前中さらっと説明を受け、これから高校生活が始まるのだと実感する。
「あたし美琴。美しいに琴って書いて美琴って言うの。キミは?」
「え、あ、さっきの……私、藍月いおりって言います。いおりは平仮名でいおり」
「へぇ、いおりちゃんか。ヨロシクね」
声をかけてきたのはさっきの女子だった。
すらりとした高い身長とモデルのように長い手足。
ニキビ知らずの透き通った肌にぱっちり開いた大きな目。
……べらぼうに美人さんだぁ。
そんなありきたりな感想しか浮かばない。
美琴ちゃんは男勝りな女の子だった。
体育では袖をまくり上げて張り切って参加してるし、女子をからかう男子をバシッと怒ったりする。
動くたびに尻尾のように揺れる長いポニーテールがとってもかわいい。
「かわいい……」
「それってあたしのこと?」
「うん、美琴ちゃんのことー」
美琴ちゃんは自分に自信がある。
だから、他クラスの女子から「かわいいからって調子乗ってる」なんて悪口を言われても「かわいくてごめんネ」なんて超強い返しができるのだろう。
美琴ちゃんは人懐っこくて、誰にでも進んで話しかける。
そんな子だから、私のような人間にも優しいのだろう。
美琴ちゃんが話しかけてくれたおかげで、クラスにもなんとなく馴染めている気がする。
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