みなさんは取材旅行されますか?
例えば、執筆されている世界観が『異世界』もしくは『ハイファンタジー』の場合は除外する。
いや、わたしが俺が書いているのは『ハイファンタジー』だから、中世ヨーロッパの街並みや歴史を知りたいんだ、と欧州に行かれる猛者もいらっしゃるだろう。
さらに昨今はコロナ前後の海外渡航規制がうんぬん、という話は置いといて。
おおよそ国内をモチーフにした現代ファンタジーならば、という仮定での話。
私は半々といったところか。
公募作の下読みをしてくれている友人達と「企画会議」と称して、温泉に浸かり、山海の珍味に舌鼓を打ち、マッサージチェアに全身がとろけて、夜遅くまで酒とツマミと執筆を肴に、あーだこーだと新作の議論をしてくれる――そういう非日常の癒しがある。
だから、「よくある東京のどこか」という程度の借景で、曖昧なイメージのまま、むしろキャラクター同士のワチャワチャを描いた作品と。
明らかなテーマやモチーフをとある地域に求めて、そこにキャラクター達の背景や出自までもを借りるパターンとふたつある。
「あの娘に『すき』と言えないワケで」は群馬県みどりさわ村。
中学校までしか無いみどりさわ村から、高校進学のために東京に出てきた主人公・
群馬県みどり市は
取材のために何遍もお邪魔させて頂きました。
孝志の実家のお墓から見下ろす、みどり市立あずま中学校の校舎。
孝志と、それを密かに慕う地元の同窓生が、夏祭りで別れる分岐の道。
赤いポストがぽつんとあるだけの木造の駅舎。
けたたましいセミの声も、背を高くした夏草が風に揺れる様子も。
山裾に早く沈む夏の日没も、黒雲が立ち込める北関東の夕立空も。
その匂い、色、音、そして風景。
すべてをつぶさに観察し、作品世界に落とし込んでいった。
対比として、孝志がやってきた東京の街の描写は簡素だ。
おおむね、環状七号線を隔てた北区の東十条駅から赤羽駅あたり……と、ぼんやりとしたイメージで描いている。
「太陽が2個あってもいいじゃない!」も、同様だ。
主人公・
そのくらいに曖昧な感じだ。
「神のまにまに」はもっと直球ですね。
主人公の
マニちゃんと同じ生徒会の三年生メンバーや、家族とその周囲のメンバーは全てモデルやモチーフがある。
京都への取材旅行は日数も旅費も掛かるし大変であったが、夏も冬も足繫く左京の山深い奥座敷に通っては、その都度、お参りをしてきた。
どちらかと言うと「ラノベのモチーフにしてごめんなさい」のお詫びだろうか。
私は蜘蛛が苦手なので、夏場はやたらと境内のそこかしこにデカいジョロウグモが居たりして「うぎゃー」とオッサンがいい歳して、心の中で悲鳴を上げたり。
真冬は、山から染み出した瞬間の湧水は暖かく、水占みくじのために留め置いた石組の水の方が死ぬほど冷たい。
これらも本文に登場できたのは、わずか数行だ。
文字にして百文字にもならない。
取材旅行の費用対効果としては相当に高価になったが、そのぶん、キャラクター達の息遣いや、暮らす街、作品世界のリアルさを演出できるのなら、儲けものである。
それが作品に説得力をもたせる材料や描写になるのならば、充分だ。
最近なら乱舞する刀剣で、日本史や武将を勉強される方もいるだろう。
ウマ並みに走る女子のおかげで、本物のダービーに興味を持つ人もいるだろう。
昔、高校時代の教員で「楽しい」と「愉しい」は違うと説く先生が居た。
「愉しい」はそこに知的興味が伴う、だから享楽的な「楽しい」とは異なるのだと。
入り口はなんだって構わないと思う。
そこに知的好奇心が伴うのならば、「楽しみ」は「愉しみ」に変わるのだから。
だから、私はまた次回以降の公募のために、取材旅行を目論む。
それが物になるかは分からないが、得た知識と肌で感じた空気は、作品世界に幅と奥行きを持たせてくれる。そう信じて山海の珍味が待ち、アルカリ性の温泉でお肌ツルツルになる、広縁の窓からの景色が素敵な温泉宿を探し続ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます