第2話 視線が痛い

これは、こちらから声をかけたほうが良いのだろうが?いやいや、俺は何を考えているんだ、俺の弁当に目が釘付け?そんなことはありえないだろ。ここにいるのは他人には一切愛想を振りまかない院西知佳だぞ。


こちらから話しかけたら最後、何事もなかったように無視をされ、話しかけた事実さえもなくされてしまうだろう。それは流石に俺のメンタルが耐えられない。


俺は隣からの視線を出来るだけ無いものとして扱い、お弁当のおかずである卵焼きを一口食べその美味しさを味わう。うん、やはりうまい。


俺が弁当を味わっていると先ほど忘れたはずの視線は未だに俺に向けられている。心なしか先ほどよりもその圧は強くなっている気がする。そんな視線も何とか気にしないで食事を続けるとおかずの残りもわずかとなっていた。


それは俺が最後の卵焼きを食べようと箸を伸ばした瞬間だ。


「あっ。」


「えっ?」


今の声は隣から?いやでも隣と言えば院西さんだけど、どうして彼女がそんな声を出すんだ?俺はそのことが理解できずにチラリと目だけを彼女の元へと向けるとものすごく残念そうな顔をしていた。


俺が少しだけ卵焼きから箸を離すと彼女の表情は若干であるが和らぎ、近づけると残念そうな表情を浮かべる。


いや、なんだこれ。先ほどの言葉は俺の卵焼きに言った言葉なのか?というかこの人こんな表情が変わる人だったのか、こんな表情の変え方、漫画でしか見たことがないぞ。


流石の俺でも先ほどから彼女が見つめているのは俺の弁当だと言うことは今の発言で理解できた。そうなると、これはこちらから声をかけるべきか、悩ましいがこのままこんな視線を向けられていれば食事がしづらくて仕方がない。


俺は玉砕覚悟で彼女に初めて話しかけるのであった。

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