⑧悪夢再び
その建造物をどう表現したらいいのか、少し迷ったが、家だと思った。
その都市は、非ユークリッド幾何学的な手法を用いて積み重ねられており、まるで寝込んで見る悪夢のように不条理で、幻想的というには不気味なものであった。
それらは緑色の石で組み上げられている。だが、近くに寄ってみると、それは石とは思えず、かといって鉄や木材とも思えない。あちこちから粘液のようなものを滴らせており、生命のように脈を打っているようにも感じた。
見知ったことのない建材が使用されているようだ。さらに、世界中のどこの言語とも思えない奇怪な文字が至る所に刻まれている。
都市の中心部には一際巨大な建造物がある。
その雄大な様からは城というべきだったかもしれない。その荘厳な様からは神殿と呼ぶべきなのかもしれない。
それでも、なぜかそれを家と呼ぶべきだと思っていた。
その家の中に入っていく。都市部と同様に不条理に積み重ねられた緑石の回廊を進んだ。
やがて、大広間へと辿り着く。その台座に鎮座しているのは巨大な存在だった。背中には蝙蝠のような翼があり、手からは鉤爪が伸びている。頭部は長く丸まったもので、顎の辺りから伸びる触手によって蛸のようにも見えた。
その存在は眠っているようだった。そのことに安堵するが、やがてその目は見開いた。星辰が正しい位置に並んだのだ。覚醒するとともに、家を破壊するかのように立ち上がった。
その迫力は世界中のすべてを圧倒しているかのように思えた。
そして、あろうことか、その存在はこちらを見ていた。まるで、自分を見ていることを知っているかのように。そのことに震え上がる。
信介には違和感があった。これが夢の中であることは半ば気づいている。
だが、自分の意識の中に、自分とは異なる存在があるようなのだ。その、いわば意識内の同居者がこの奇妙な悪夢を見ており、自分はその感覚を共有している。そう感じていた。
意識が飛ぶ。
都市が海底に沈んでいた。それから何億年もの月日が経っただろうか。地殻は変動し、都市はその変動に巻き込まれ割れる。だが、割れはしても、崩壊はしない。都市は別れ別れになりながらも、存在はし続けるのであった。
そして、巨大な存在もまた地殻変動に巻き込まれるように、その体が分かたれていた。
その一部は火山の誕生によって山の一部となり、プレートの移動に巻き込まれる。北上したその場所は、複数のプレートの境目が連なる地――丹沢。
信介は思う。誰がそんな光景を見ているというのか。
自分の中に何かがいる。それを意識し、その姿を見ようとした。
もぞもぞと自分の肉体の中を這うように動く蟲の姿があった。ミミズのように細長く、小さいながらも鋭利な牙を無数に持つ
その蟲が自分の血管の中を寄生虫のように動き回っていた。
「あぉぉぉおぉぉっ!!」
雄叫びとともに目を覚ます。
いつもの悪夢と似たような後味の悪さがあった。だが、内容は変わっている。
これは何を示すのだろうか。
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