第四話 僕は銀髪幼女と戦う

 僕は自分が死んだと思った。生まれてから今に至るまでの光景が走馬灯のように目に映る。……走馬灯の上映が長い。もしかして、僕は生きているのかもしれない。そう思って、走馬灯から目をそらして、自身の身体を確認してみる。生きていた! 動悸が激しく冷や汗が滝のようだが、生きている。しかも、服装への被害なしというおまけつきである。アラサー男のサービスシーンなんぞ、誰の得にもならないし、恐怖で自身の息子が噴水遊びなんてしていたら男が廃るからありがたい。ところで、アリスはどうなったのだろう。


 彼女の玉座の方に目を向けた。

「なっ、なんでっ……。」

 アリスが狼狽していた。むしろ、本来慌てふためくのは僕なのではないだろうか。まあ、彼女にとっては必殺の一撃だったのだろう。狐につままれた気分に違いない。しかし、それと同時に、心なしか顔に安堵の色も見える。

「どうして、生きているのですか! この光の球に当たったら、ちりになるはずなのに!」

 恐ろしいことを言うものだな。

「あなたは生きていてはダメなのです……。先ほどの真実を知ったものは抹殺する決まりなのです……。それが天界の掟です……。例外はありません……。」

 彼女の声が、あまりにも悲痛すぎる。先ほどの安堵の色はすでに消失し、顔は暗く、険しくて、色は土気色にさえ見えた。

 僕はアリスの隠し事を見抜き、胸に秘めている理由を知りたくて、いくつかの質問をした。その答えは天界の掟という身もふたもないものだった。そして、今は彼女が塗炭の苦しみを味わいながら、天界のルールを遵守している理由も理解している。


 アリスは悲壮な覚悟で、次の攻撃を宣言する。

「次は逃がしません。」

 彼女が第二撃を放つ準備をする。先ほどよりもためが長い。つまり、さらなる大技が来るということだ。僕はなけなしの体力を使って彼女から距離をとる。幸いここは空の上、そこら中に雲があり、最低限身を隠すところには困らない。

「雲に隠れても無駄です。今度は多方向攻撃ですから、いずれあなたのいる雲を貫くことでしょう。」

 根が真面目なのか、攻撃方法を宣言するアリス。雲から雲へと動いて、自身の場所を悟らせない作戦だったが、消耗戦にもっていかれればこちらは万事休すのようだ。

 彼女の杖から光の直線が無数に放たれる。直線は縦横無尽に四方八方に飛来する曲線になった。次から次へと雲を貫く光たち。雲から雲へと移動をしていたが、息が切れて雲の中で呼吸を整えていた僕は外の様子を確認した。一本の光の曲線が到達しようとしていた。

「まずい。」

 思わず、つぶやいてしまった。多少息は整っているものの、あとどれくらい火事場のバカ力に頼れば良いのだろう。僕はどうにかこうにか曲線の軌道を推測して、雲の中を移動する。間一髪、光は僕の体の横を高速で通過していった。正直、服も破れなかったのは奇跡としか言いようがない。

 僕は再度雲から顔を出し、現状を把握することに努める。二本目と三本目の光が並行して到達しようとしていた。しかも高度が低い! 横跳びでは回避不可能だと判断して、力の限り上にジャンプした。天界だからか、あるいは空の上だからか、重力が少し小さかったのだろう。いつもより少しだけ高く飛べたおかげで、二本目と三本目の光は僕の足元を通り過ぎる。しかし、直後、ジャンプしたのが裏目に出たことに気付く。斜め後ろより迫りくる四本目の光に気付いた時には、後の祭りだった。回避するすべなどなかった。僕は光の曲線の直撃を食らった。

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