第三話 僕は銀髪幼女に尋ねる
僕は自身の疑問をアリスに尋ねた。
「まず一つ目の疑問から聞かせてほしい。なぜ君たちが直接、現地に
「神々は原則として世界の創造はしても、直接的に世界の運営に干渉しないことになっているのです。現にあなた方の世界でも神と出会った人間は、全くとまでは言いませんがほとんどいないでしょう。それは神々による世界への干渉が、それだけ抑制的な証左なのです。」
なるほど。確かに正鵠を射ているといえばそう思える理由だ。僕自身、神様に願い奉っても全く歯牙にもかけられなかった。いや、一度だけ願いが叶ったことがあった。トラックにひかれた後の救急車の中で、僕は九死に一生を得られるように、神頼みしたのだ。まあ、その結果が異世界での危険任務従事なのだから、満額回答とは言えないだろうが。
とにかく、一つ目の疑問が氷解したので、次の疑問をぶつけた。正直なところ、先ほどの質問は前座に過ぎない。
「次の質問をするよ。どうして人間のみに肩入れするのかな?」
そうなのだ。異世界には竜や亜人などの多種多様な生命が存在すると言っていたではないか。人間だけを優先する正当な理由とは何なのか皆目見当がつかない。特に亜人と人間との戦争に関しては、人間を守るために、寄生された被害者である亜人を殺傷して構わないとも解釈できる言い回しだ。
しかし、アリスは黙して語らなかった。その代わりにぴくりと目蓋が動き、表情を暗くした。身体も小刻みに震えている。怯えている小動物のように見えた。
かまわず僕は続ける。
「追加でもう一つ質問するよ。敵の識別装置は渡すけれど、敵の正体については子細な情報を開示しない。これはなぜなんだい?」
僕は向こうの世界の情勢に大きく干渉するつもりはない。しかし、一般論として、別世界の人間が向こうの世界の情勢に大きく干渉するためには、邪なるものの正体について把握すべきである。悪の悪たるゆえんを知らずに、相手を討伐すべきではない。
僕はアリスの表情を伺った。険しく、張り詰めた、幼女にはおよそ似つかわしくない顔だった。胸に少なからず罪悪感が去来する。しかし、構わず畳みかけた。
「もちろん、おくびに出したくないのであれば、それで構わないよ。ただし、僕は向こうの世界でそのあたりのことを色々と調べさせてもらうよ。そのうえで、自分の立ち振る舞いを決めさせてもらう。つまり、人間と邪なるもののいずれに手を貸すのか、あるいはどちらにも手を貸さないのか、君たち神々が軽く見ているとしか思えない竜や亜人とのかかわり方はどうするのか、そのあたりのことを決めさせてもらう。」
アリスの表情に注視しつつ最後のセリフを吐く。
「もちろん、それと並行して元の世界に帰還して、植物状態から覚醒する方法も探すよ。君たち神々が何か臭い物に蓋をしているのならば、それを交渉材料にする手もあるだろう。」
僕は啖呵を切り終えた。アリスの対応に注目する。彼女は弱弱しく返答した。
「そう決まっているんです。人間のみが生きる価値があり、それ以外はどうでもいい。敵の正体について知ってはならない。敵をせん滅するためならば、竜や亜人がどれだけ犠牲になろうが構わない。これは完全無欠な神々の総意なのです。」
腑に落ちない回答であった。言葉と態度が乖離している。
アリスは玉座に立てかけてあった杖を手に取った。持ち手が長く、先端には魔法陣の意匠が付いている。彼女の得物のように見える。
その杖に光が集束していった。属性鑑定の時よりも大きな量の光だ。こちらが呆気にとられていた刹那、光の球が完成し、こちらに向かって高速飛来してきた。その速さにこちらは的になるしかなかった。光の球が直撃する直前、アリスの声が聞こえた。
「-」
その呟きを聞いて僕はある程度納得がいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます