第27話 自罰と愚者への罰
「私の父を殺した者達に、関係者に罰を与えて欲しいのです。私の兄と祖母を殺そうとした輩に罰を与えて欲しいのです」
ストレリチアの言葉に、アザレアは笑みを浮かべた。
「勿論だとも、我が妻よ。其方の愛しき者達を家族を殺し、傷つけようとした愚者達には罰を与えてやらねばな」
嘗てのストレリチアであれば、おそらく傷つき、ふさぎ込み自傷行為をしていたような事態だ。
だが、今のリチアは自分を責める事をしない。
かといって怒りをそこら中に撒き散らすような愚行もしない。
淡々と「愚者」達にのみ、怒りを向けるべく憎悪の炎を心の奥底で燃やし、平静を装う。
――ああ、何と美しい、慈悲深いがそれだけではない、私の妻は――
――何と美しい――
アザレアは心の中で笑みを浮かべた。
「勿論だとも、我が妻よ。其方の愛しき者達を家族を殺し、傷つけようとした愚者達には罰を与えてやらねばな」
アザレア様の許しに、私は安堵した。
そして、兄を見る。
兄は戸惑っているようだった。
「――兄さん、ごめんなさい。色々と勝手に言って……」
「いや、いいんだ。寧ろ悪いのは俺だ。お前に負担ばかりかけて……」
「何を言ってるの?!」
兄の言葉に、私は思わず怒鳴ってしまった。
「兄さん達に負担をかけていたのは私の方よ? 村を出る時だって、一人泣いて帰ってきた時だって、城に呼び出された時だって兄さん達を不安にさせて、負担をかけていたのは私!! 何で兄さんが謝るの?」
色々と喋ってから、はっと我に返って、慌てて私はアザレア様に頭を下げた。
「あ、アザレア様、申し訳ございません……」
「良い、気にするな。それに城に呼び出したのは余だったからな」
アザレア様は優しく私に微笑んで、私の頬を撫でてくださいました。
「……しかし、よく似た兄妹だな、其方達は。自罰の傾向が強すぎる」
「「……」」
無言になってしまう。
――そうなのかな?――
――違う気がするけど……――
私と兄は顔を見合わせる。
「アカシア、其方は『実母』の愚行を見たが故に『ああなるまい』と自分を抑え付けすぎた結果自罰が強すぎる。リチアの方は捨てられた『記憶』で『自分が悪い』と思ってしまうような『傷』になった結果自罰傾向が強すぎた。リチアは多少良くはなっていると余は思うが……アカシア、其方まだ相当強いぞ」
「そ、そう、です……か?」
「そうだ」
「……」
考えてみれば、私は否定できなかった。
兄は黙り込んでいる。
「……そうかも、しれません」
「だろうな。聞いた話では、其方は祖父母に引き取られた後、しばらくは祖父母とリチア以外の誰にも近づこうとしなかった程に不信が強かったようだ。だが、村人たちはそんな其方を責める事なく、接し続けた。それで強い不信は取り除かれたが、不安までは取り除けなかった。結果、其方は裏切られたリチアを見て思ったのだろう『あの時あの男について行くのを止めていれば』と」
アザレア様は静かに兄に問いかける。
「……陛下のおっしゃる通りです」
兄は酷く沈んだ声で言った。
「昔の私は『あの女のようになるものか、大人はみんなロクでもない連中ばかりだ』そう思って祖父母と、幼いリチア以外全てが敵に見えていました」
兄にとって、味方は身内である私や祖父母だけだったのだろう。
本来自分達を守ってくれる存在が自分達を裏切って捨てて、自分を大切にしてくれた人が殺されたのに、それを「事故」として処理されて傷つきに、傷ついた。
父が死んだのを聞いた父方の祖父母がすぐ来て、赤ん坊の私と兄を引き取って故郷へと村へと戻った。
傷ついた兄を、村の人たちは差別することなく、その傷の深さを理解して接したから今の兄がある。
村の男の中で一番頼りになる男、アカシア。
みんなに頼られる兄は私の誇りだった。
「……だから、兄さんは誰とも付き合わなかったんだ」
私がぽつりと口にした。
「――ああ、あの女に捨てられたのが未だに傷でな、だからどうしても誰かと付き合うとか結婚するとか考えられなかったんだ」
兄の言葉。
兄は私以上にあの女に、傷つけられて、今だ縛り付けられている。
それは嫌だった。
「アザレア様」
私はアザレア様の方を見て名前を呼ぶ、お願いをするためだ。
「なんだリチア?」
「どうか、あの女の罰の内容に、兄の意見も取り入れてはいただけないでしょうか?」
「リチア?!」
兄が驚いた顔をしている。
「構わぬ、良い」
「陛下も?! な、何をおっしゃられてるんですか?! 私は陛下の妻の兄ですが、ただの平民ですよ?!」
「ただの平民があそこまで魔術、武術等を使いこなせるものか」
アザレア様は呆れたように兄を笑う。
「兄さんが、嫌ならいいの。私が一人で考えるから」
その言葉に兄は真顔になり、考え込む。
「……わかりました、ではそのようにどうかお願いいたします……」
「うむ」
満足そうなアザレア様の表情。
「さて、では調べつくそうか、リチア。其方の父の死の真相を全て」
「お願いします、アザレア様」
私がそう言うと、アザレア様は私の頬を撫でた。
「勿論だとも、愛しき妻よ」
その言葉に胸が温かくなる。
――ああ、なんて幸せなんだろう――
心の底から、そう思った。
式が終わり、初夜をアザレアは愛しき妻とむかえた。
正式な夫婦としての初夜を。
柔らかな体を直に触り、薄紅の唇に口づけをして、たっぷりと愛でた。
堪えるような声が可愛らしくて意地悪をしたくなるのを我慢して、優しく愛でて抱いた。
朝、目覚めるとストレリチアはまだ眠っていた。
美しい裸体を布で隠して。
アザレアはその美しい体に、唇に、そっと口づけを落とすと、ベッドから起き上がり、一瞬で身支度をする。
「さて、愚者共を罰する準備をしなければ」
そう言って部屋を後にした。
「ほほぉ、フリューゲルス伯爵も噛んでいたか。やはり」
「一家総出で御后様を騙そうと企んでいたそうです」
エンレイからの報告に、アザレアのこめかみに血管が浮く。
「……さて、どうしてくれようか」
アザレアが玉座に腰を掛けたまま思案していると、美しい赤紫のドレスに身を包んだストレリチアがやってきた。
「我が妻よ、休んでいても良いのだ。無理はするな」
「はい……でも気になる事がありまして……」
「ん?」
「……『元』仲間への刑の内容を教えていただきたいのです」
「なるほど、エンレイ。説明を」
「はっ!」
アザレアはストレリチアに近づき抱きかかえてから再度玉座に座りなおした。
「あ、あのこれはちょっと……」
「よいよい、私がこれが良いのだ」
「はぁ……」
「あの、説明を始めてもよろしいでしょうか?」
「うむ、良いぞ」
エンレイはそういうと、口を開いた。
「騎士、ルスロット・ナイツはサキュバス達の精液確保と夜伽練習の道具にされております」
「サキュバスか、大分数がいるからなぁ、食料用の精液の確保とは地獄の快楽だろうとも」
「発狂しないように、術をかけておりますので、発狂することもできず悲鳴を上げる日々を送っていることです」
ストレリチアの顔は満足そうというわけでもなく、不満そうというわけでもないようだった。
「どうだ?」
「……快楽好きな王女様の騎士にぴったりな状態かと」
静かに言う、嘘ではない。
「もう少し壊す位の扱いで良いと伝えておけ」
「畏まりました」
「アザレア様――」
「安心せよ、壊す、くらいのだ。壊れることなど許す物か」
そう言うとストレリチアは少しだけ安心したように息を吐いた。
アザレアは復讐で心を癒されるストレリチアを美しいと思った――
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