第2話 時は少しさかのぼって~あっけなく捕まる勇者達~
「り、リチア?!」
ドラゴンに乗って去るストレリチアの姿にカインは困惑した。
きっと諦めて、それでも自分についてきてくれるだろうと思ったからだ。
「たかが、元村娘、いようがいまいが関係ないであろう、勇者様、行こう」
騎士――ルスロットの言葉に、カインは納得しつつ魔王の領地を歩き始めた。
そして異変が現れた――
「おかしい……何故こんなに疲れるんだ……?」
日に日に歩くのが疲れ、荷物や鎧が非常に重く感じるようになっていった。
「呪いでもかけられているのでしょうか?」
カインの言葉に王女であり、聖女でもあるダチュラは言う。
「かもしれない、あの魔王の土地だ、どんな呪いが――」
『呪い? 笑わせるな!! 貴様の持っている武器程呪われているものはあるまいよ!!』
声が聞こえた直後、青い肌に鎧をまとった魔族が現れた。
「此処迄来た『勇者』を名乗る者達を見てきたがお前達ほど弱いのは初めてだ!!」
「貴様何者だ!!」
「騎士ストール!! アザレア様の剣の一人だ!!」
「やってしまおう、精霊よ私に力を――……?!」
魔術師のグローブが精霊魔術の詠唱を試みるが、一向に魔術は使用できない。
「ど、どういうことだ?!」
「貴様ら、何をした卑怯者!!」
「私達は何もしてはおらん!! やれやれ愚者の集まりか、今回は何時もに増して」
魔族はグローブに一気に近づき、鳩尾を蹴り飛ばした。
「がっ……!!」
グローブは一気に吹っ飛び、地面に横たわる。
「弱い、何だこの弱さは!!」
魔族は酷く苛立つように答える。
それから何かに気づいたようだった。
「……五人? 貴様らは六人で旅をしていたのではないのか?」
「あんな村娘戦力のうちに入らん!! でやー!!」
ルスロットが剣を振り下ろすが、カインにはその剣技がいつもと違うように見えた。
魔族はルスロットの手首をすぐさまつかみ、ねじってから顔面を殴りつけた。
「ごはぁ!!」
それでルスロットは倒れた。
「カイン様!! ここは撤退を――」
「何を言っているんだ?! それより回復を何故しない!!」
神官のリヒテルと、聖女のダチュラの問いかけるが二人とも困惑した表情で首を振る。
「使えないのです!!」
「何だって?!」
「……何かありそうだな、まぁいい」
魔族が指を鳴らすと全員が魔力でできた籠の中に閉じ込められた。
「何をするつもりだ!!」
「正直に話せば命は取らぬ、抜けたのは誰だ」
「……ストレリチア・アウイナイト」
「……確か情報では魔術、剣術も使いこなし、ドラゴンさえ使役するとか……それが抜けた、だと?」
「言っただろう!! 私達を開放しろ!!」
「殺さないと言っただけで開放しないとは言ってない」
意識のある三人の顔が蒼白になる。
「か、カイン様、剣――」
「抜けないんだ!!」
「……」
魔族は指を鳴らした。
全員の視界が暗転した。
騎士団長のストールは「勇者」を名乗る「殺戮者」一行を監獄へと転送すると同時に自分達の王アザレア陛下の元へと急いだ。
「――という事でございます」
「成程」
王――アザレアは「殺戮者」一行から抜けた「ストレリチア」という人物が気になった。
アザレアは過去を映す鏡を見る。
鏡には、一人の魔法剣士がドラゴンに飛び乗って、殺戮者達から離れていくのが見える。
ドラゴンの上で、魔法剣士――女性は号泣していた。
号泣するという事は裏切られたのだろう、殺戮者達に。
そして抜けた――見切りをつけたのだろう。
アザレアはそう予測した。
「ふむ、このような者もいるのか」
アザレアは何故かこの女性が非常に気になった。
「ちょうどいい、いい加減愚かな王達に身の程をわからせに行こう」
アザレアの言葉に配下達は歓声を上げる。
「御供致します」
「いや、要らぬ。どうせ奴らでは余は殺せぬ」
「しかし……」
「何、気にするな」
アザレアはそう言って転移をした。
リュヒテル王国の謁見の間に姿を見せると、全員が悲鳴を上げた。
「『勇者』一行は捕えさせてもらった」
「な、何だと?!」
青ざめる王に、アザレアは書状を渡した。
「それをストレリチア・アウイナイトに渡すがよい。その者がそれを手にして七日経過するまでは貴様らに猶予をくれてやる、それまではこの城で待つ、良いな」
「何を――」
「良いな?」
青ざめる王に圧を掛ける様に言うと、王はぶんぶんと首を振って、兵士の一人に書状を渡した。
「で、ですがどこにいるか……」
愚王の言葉にアザレアは鏡を見る。
「故郷の村にいるようだ。言っておくが、急ぎ見つけぬ場合も私は各国を滅ぼす、良いな。書状を彼の者に見せよ、必ず」
「い、今すぐストレリチア・アウイナイトを連れてくるんだ!! いいから早く!!」
「は、はい!!」
兵士が慌てて出ていくのを見送ると、アザレアはにたりと笑った。
――さて、どうでるか?――
ストレリチアが「賢者」か「愚者」かそれともただの「凡人」なのか非常に気になり、待つ時間が楽しくてたまらなかった。
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