スナッキーな夜にしてくれ 〜ミドルエイジーズ・ミッドナイト・アドベンチャー〜
火夢露 by.YUMEBOSHI-P
第1夜 初体験 第1話 サラリーマン根性全開
――ちゅうねんかーっ!? 俺って中年!? オヤジ街道まっしぐらなのか?
俺がバリバリのオヤジだってぇ!? いやいや、俺はまだ若い!! ――
来年には四十になる、誰がどうみても中年である常松(つねまつ)京太郎は、自分がオヤジであることを自己否定しつづけてきた。
(ったく、こんなつまらないことを考えてしまうなんて、俺もヤキが回っているとしか思えないな)
心の中でそう呟くと、机の上の書類を鷲掴みしてクシャクシャっと丸めてゴミ箱へ放り込んだ。
「おーい、常松ぅー!ちょっと来い」
不機嫌そうな、というより明らかに機嫌の悪い部長からの指名だ。
「はい」
常松は、しぶしぶ部長のデスクへ向かった。
「常松ぅー、まーた企画コンペ負けたのかよ!お前、ちゃんと仕事してんのかよ!」
「今回はクリエイティブスタッフも変えたし、斬新な企画だったからイケると思ったのですが……残念です」
(仕事してねえのは、お前だろうがっ! )
と思いながらも、常松は部長にベタな言い訳をした。
「なんで負けたのか、しっかりと状況を把握して、報告書を提出しろよな!!」
(把握もなにも、負けたのはお前が抜擢したセンスのないアートディレクターと頭の悪いSPプランナーのせいだろうが!! ったく、面倒だなーー!)
「はい、近いうちにあげます」
心とは裏腹の“哀しいサラリーマン根性全開”的なセリフを残し、そそくさと席に戻った。
(だいたい、こんな中堅以下で何の特色もない古くさ〜い体質の広告屋が、大手の代理店に勝てるわけないっつうの。そんな根本的なことも理解できてない上司どもじゃあ、新しい時代を生き残っていけるわけねえよなー。
上司も上司なら、うちの使えない三流クリエイターどもも、どうでもいいスマホの最新機種だのアプリだのには詳しいくせに肝心の発想力や創造力の方は微塵もない連中だし・・・ホント最悪だよな)
報告書を作成しながら、常松は言いようのない虚しさを感じていた。
もともと、今の営業職ではなくて、コピーライター志望の常松は営業職から離れたい願望が強く、今でもチャンスがあればCMプランナーやライター系の職に鞍替えしたいと考えていた。
「よし、できたと!」
報告書を作成し終えると、すでに時計は夜の8時をまわっていた。
(や~っと書き終えたと思ったら、もう8時過ぎちゃったよ。まだ見積書2件分あげとかなきゃいかんのにまいったな。。。 もう少し、頑張るか!)
ようやく仕事が片付いたのは、夜の10時をまわった頃だった。
「常松さん、今日は珍しく遅くまでやっちゃってますねー。仕事の量が脳みそのキャパを超えちゃってるんじゃないですかー?」
後輩の辻野まことが冷やかすように声をかけてきた。
「すでに2日分の仕事を終わらせたんだぜ。なんたって、仕事が早いからな! 俺は」
「まーたまた、常松さん、早いのは下半身の方だけでしょ!」
「おいおい、笑わすんじゃないっつうの! せめて先輩に言うときは“早いのは手”の方ってことにしとけって!」
常松は、そうツッコミを入れながらも、辻野のセリフに笑いをこらえきれず、大笑いしたのだった。
大笑いすると不思議なことにモヤモヤしていた気分がスーーッと晴れていくようだ。
「やべえ、常松さん、怒りを通り越して笑っちゃってるよ!! これはかなり、危ないなー。なにかされないうちに逃げちゃおうっと!」
後輩の辻野は、そう言い残すと、常松を小バカにしたような顔つきで、廊下へと消えて行った。
(ったく、あのヤロー、人を薄気味悪い奴のようにいいやがって・・・)
(なんだか気分がクラウディな感じなのも嫌だな。よし! 今日は飲みに行くかな)
嫌なことがあると独りでBarのカウンターに座って飲むのが常松の日課みたいなものだった。
行きつけの店は、通勤で使っているTQ沿線のS駅から15分ほど歩いた小高い丘の上にあるBar「フェローズ」という店。
この店のマスターは、“Fellowship” つまり仲間を大切にしたいという思いが強く、フェローズという名前をつけたのだそうだ。
その店の壁面には、マスターが自分で書いた店名が目立っている。しかし、描かれた店名をよくよく見ると一文字間違って描かれた跡がある。
しばらくの間は、“フェラーズ”となっていたんだそうだ....。それで、一文字修正したというわけだ。
(でも、“ロ”の文字をどうすれば、“ラ”となるのだろうか?)
そんなことを考えながら、今夜も行きつけのBarへと足を運ぶのだった。
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