第156話「警察留置所」

夫がXXの警察留置所に連行されたと聞いて、替えの下着や食料品を持って出かけましたが、夫に会うことも、差し入れをわたすことも拒まれたので、とぼとぼと家路につきました。妹は私の夫がまだ生きているというしるしを手に入れようと、ねばり強くいろいろ手を打ってくれます。

「でもねえ、姉さん」

と妹がいいました。

「あなたはご主人に会って、いったいどうしようというんです? その前にまず、なぜあなたのおっしゃるようなことがおこったかということを説明してくださいな」

私は妹の言葉に動かされて、とうとうあの恐ろしい夜のことを語りはじめました。妹は私から話を聞き出すあいだじゅう、一言も口をさしはさみませんでした。話し終わって私が黙ってしまうと、妹が静かにいいました。

「姉さん、よくぞ正直に打ち明けてくださいましたね。しかし、あなたにはもう一つだけ、まだ打ち明けていないことがあるんじゃありません?」

そういわれて私はハッとしました。そして急いでポケットに手を入れて、あの小さな包みを取り出しました。それはあの晩、自分の部屋を出るときからずっと手に持っていたものでした。

「これを……」

といって、私はその包みを差し出しました。

「あら! やっぱり!」

妹はそれを見てうれしそうな声をあげました。

「こんなところにあったのね。あたしたち、すっかり忘れていたわ」

妹の言う意味がわからず、きょとんとしている私に向かって、妹は言いました。

「これはね、あなたのご主人が撃たれたとき、彼の懐中からはらりと落ちたものだけれど、誰も拾わなかったものよ」

「えっ!」

私は驚きの声をあげて、それをもう一度見つめました。

「じゃあ、これは……」

「ええ、あなたのご主人の遺書です」

私は息をのみました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る