第145話「占い」

昔から「吉日だからといって悪事をなせば、必ず悪い結果に終わる。逆に凶の日であっても善事を行えば、必ず善い結果を生ずる」と言われている。吉とか凶とかいうのは、その人の行為の善悪に基づくもので、吉日とか凶日があらかじめ決まっているのではない。吉日に大金を使って買った品物は、かえって不運を招くことが多い。また凶日に売れば損をするかもしれない。しかし、もしそうならなければ、それは運命によって定められたことなのだから、仕方がないではないか。

つまり、人にとって吉か凶かというものは、自分の心持ち一つによるのだ。だから、どんなに運勢の悪いときでも、自分をしっかり持って、いつも正しい道を歩めばよいということである。これが占いの基本である。そして、その基本の上に立って、さらにさまざまな判断を加えてゆくのである。たとえば、依頼人は儲けたいのか、それとも儲けたくないのか?依頼人には才能があるのか、ないのか?依頼人に向いている仕事なのか、向いていない仕事なのか?健康や家族関係についてどう考えるべきか?結婚する相手としてどうか?などである。こうした判断と分析を繰り返してこそ、人生における正しい道を知ることができるのである。

若い女性に占いを申し込まれた。彼女は占い師になりたいという。私は彼女に言った。

「あなたには素質があるわよ」

すると、彼女はうれしそうな顔をした。だが、しばらくすると表情が変わった。そしてこう言った。

「でもね、先生……あたし、この仕事をしていいかどうかわからないんです」

私も思わず顔色を変えた。何を言い出すんだろう。

「どうして?」

「だって……」

彼女の目は宙の一点を見つめている。まるで誰かの顔を思い浮かべているようだ。

「何かあったの?」

「いえ、別に……。ただ……」

口ごもりながら言う。

「ただ、何なの?」

「あのう……」

「言ってみてちょうだい」

「ええ、はい……。実は、今度結婚することになって……」

「あら、おめでとう!」

「ありがとうございます。それで、あたし、相手の方のことをいろいろ占ってみたんですよ。そうしたら、あまりよくないことが出てきまして……」

「どんなふうに出て来たの?」

「はい。まず第一に、奥さんになる人が浮気性だと出て来ました。第二に、生まれた子供がよくないと出ました。第三に、仕事の才能がないと出て来ました」

「まあ、そんなことが……」

私はあきれて声が出なかった。

「はい。ですから、こんなことで占いをしてもいいんだろうかと思って……」

「心配しないで大丈夫よ。そういうことはね、よくあることだから」

「本当ですか?」

「もちろんよ。気にしなくていいのよ」

「でも……」

「うるさいわね……」

「すみません」

「とにかく、あなたはまだ若いんだから、これからいくらでも軌道修正ができるわよ。占いなんか気にしないことね」

「わかりました」

彼女は去っていった。

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