18歳ゲーヲタ夫婦、異世界で第二の人生を楽しむ?
白ゐ眠子
第1話
そこは無造作な印象がもてる部屋だった。
一見すると殺風景ともとれるが、部屋の一角には複数のトロフィーとゲーム機が置かれていた。
部屋手前には簡易的なキッチン、脱衣所とトイレの扉が一つ。それは
部屋の奥にはリビングと呼べば相違ないが、大きなダブルベッドと大きなテレビ、複数のゲーム機が所狭しと床に並べられ、テレビの前には一組の男女が頭をスッポリと覆うVRヘッドギアを装着していた。
男はバイク・ハンドル型コントローラを握り、女は飛行機の操縦桿型コントローラを握り、肩を寄せ合って座りながら、テレビに向かって集中していた。
大きなテレビの画面には数台の水上バイクめいた乗り物が、個々に追い抜き追い越しを繰り返し、山間部やら海上やらの上空を滑空していたのだ。
そう、これは〈ジェムライド〉と呼ばれるVRゲームだった。
一見すると一人で操縦しているように思えるが、このゲームは推奨人数を二人限定としており、画面上の水上バイク・・・ゲーム内では複座型エアバイクを操縦して遊ぶゲームだった。
主な操縦方法は操縦桿を握るアバターがエアバイク内の底部へと
そのうえ、このエアバイクの挙動は二人の息が合ってなければ動作不良を引き起こし、果ては転覆、互いのタイミングと
だからだろう、慣れれば楽しめるが慣れなければクソゲー認定を受けるという、楽しむ者が限られた脳筋めいたゲームだった。
実際には頭も相当に使わなければならないから、脳筋だから楽しめるというゲームでもなかった。
それは、このゲームの特色として設けられた【息が合う】にあるだろう。
この【息が合う】とは各コントローラ間のタイミングを元に
当然、ゲーム自体もハードのタイムラグを考慮してコンマ数秒の
ただ、お互いの【息が合い・タイミングが揃う事】でスムーズな加速と旋回が行われるとあるが、それであっても普段の行いが結果に直結されるため、喧嘩しようものなら即座にズレが生じるという、途轍もないほどに神経質なゲームであるのは確からしい。
なお、ゲーム中では各種レースが繰り広げられ、優勝すると報酬として〈100万
ゲーム序盤では当然ながらチュートリアルが設けられており、購入者特典として〈複座型エアバイク・
だが、ゲーム中盤から難易度が徐々に上がり、ベーシックのまま勝ち続ける事は困難となり、優勝なり入賞した際に得られるパーツ選びが重要となるゲームだったのだ。
当然、リアルマネーでのエアバイク購入、パーツ購入、〈結晶石〉購入も行えたが、それが出来るのは一部のプロや社会人のみであり、学生達は早々にクソゲー認定したゲームでもあった。
ともあれ、そんなゲームの仕組みを延々と話しても時間の無駄なので、これからこのゲーム内のトップランカーとして存在しているペアの一組を紹介しようと思う。
それは〈チーム・オーシャン〉と呼ばれるペアであり、ゲーム内のアバターはお互いに金髪金瞳で、男の方〈アバター名:ナオト〉は長髪を後ろで結んだポニーテール、身体付きも痩身かつバランス良く鍛え上げられた美男子アバターを用いていた。
女の方〈アバター名:ユウキ〉はショートヘアで胸は無く、腰の大きな身体付きの美少女アバターだった。
ちなみに、この一組はゲーム内で開かれる数多くのイベントを熟し、優勝時に貰えるパーツを組み合わせてはエアバイクをカスタマイズし、誰の追従も許さないとされるほどゲームにのめり込んだ者達だったのだ。
§
その〈チーム・オーシャン〉のリアルは? というと・・・
「おっしゃ! レコード更新! 飲み物、飲み物〜」
先ほどの男女の内、男・・・〈
身形としては
ただ、室内でゲームを遊んでいる割に日焼けした肌と、そこそこ鍛え上げられた筋肉が黒いタンクトップ越しにもわかり、短パンの裾から見える太腿の太さも相当なものだった。
その直後、女・・・〈
「ちょっとぉ!? 更新したのはいいけど、パーツは何にする? ナオってば勝手に選んだら怒るじゃない?」
身形としては黒髪ショートヘア、顔立ちは美女で、胸が大きく腹は細く腰付きが大きな体型を持ち、肌も小麦色な割にキャミソール越しに見える肩には日焼け跡と判る程度に白い肌が見えており、一般的に室内でゲームを行うゲーマーとは一線を画する姿だった。
すると、ユキの言葉を聞いたナオは茶色い炭酸ジュースを瓶毎持ちながら口に含む。
そして、苦笑しつつもユキに応じた。
「ユキすまん。どうも集中してっと、糖分が欲しくなって・・・可変ウィングでいいんじゃないか?」
「可変ウィングって、結構揃えてるよね? それよりもフロントのエアロパーツが良くない? エアインテークの吸気孔も大きいし、内部ファンとの結合も可能だから、体温上昇が抑えられるうえに大容量の空気循環が叶って、
「なるほど。もしかして、前回の報酬で勝手に選んだ空気清浄器ってこのためか?」
「悪い? 私だってアバターが高温と酸欠で倒れました〜じゃ、手の施しようがないもの。リタイアペナルティーは10万
「そうだったかぁ、いやスマン、ならそれで頼むわ。どうも外側だけに意識が」
「まぁ中は中で大変ですから〜。じゃ、こっちを選ぶね〜。ポチッと」
二人の会話はゲームを相手とした遣り取りだが、このレースゲームは変なところがリアルだった。それはキャラが酸欠やら高温で倒れたり、毒ガスで眠ったり、下手すれば操縦不能となる事もあり、エアバイクに限らず、操縦者の装備品から何やらまでゲーム内通貨で購入する前提となっているのだ。
その間のユキは選んだパーツをゲーム内の整備場に持ち込み、エアバイクに取り付ける作業を行う。その様子を眺めていたナオは難しそうな顔でユキに話し掛ける。
「それよか、今回のコースすこし厳しすぎね? 最後のヘアピンからの急上昇とか、
「というより何度もタイムで追い抜かれて、ようやく勝ったけどね〜。リトライ出来るタイムアタックだからって事だろうけど、本戦ではまず出来ない話よね〜」
「って思ったら、また塗り替えられたぞ? あいつら何でそんなに速いんだ?」
「コツみたいなものを見つけたんじゃない? 先日会社でカボス姉妹がボソッと言ってたけど? エロい方法を見つけたって」
「コツ?(アイツらいつの間に)」
「ん〜? ちょっと待ってね? セナの最終チェック・・・取り込み口問題なし、パーツ結合問題なし、エネルギー経路問題なし、内部気圧問題なし、気温維持問題なし! よっし! オールクリア! っと、話を戻すけど・・・どうしたの?」
「いや、やっぱり内部の改良も大事だなって・・・外側は風防さえ付ければそれ以上必要ないからな。空力を考える事だけに尽力すればいいから」
「ま、中は中の苦労があるって事で・・・あ、カオリから返信きたわ。ふむふむ」
そうユキは言いつつ、スマホのメッセージを読みながら、床にマットレスを敷き、操縦桿を画面の前に置き
メッセージの主は〈チーム・カオス〉のメンバーなのだろう。
ユキは自身の尻を手で叩きながらナオに問い掛ける。
「カオリに聞いた通り、同じ体勢でやってみる? ゲーム内では座席カバーがあるから直ってワケでもないけど」
「へ? 俺に座れと? お前の尻に?」
「悪い? 座り心地は保証しないけど、これも唯一の手でしょう?」
「いや、お前恥ずかしくないのか?」
「恥ずかしいよ? でも、勝つためなんだから、この際、恥ずかしいのなんて、き、気にしてないよ?」
ユキの顔は若干赤かった。
そっぽを向いてはいるが、声も上擦っているようで、ナオはユキの気持ちに配慮し怖ず怖ずと跨がろうとした。
それは壊れ物を扱うように、慎重さが見える態度だった。
「そ、そうか、判った。一応、跨がるが体重は掛けないようにするわ。お前の形の良い尻が崩れるのも悪いし」
「余計な配慮は要らないよ? 乗ればいいの! 私が良いって言ってるんだから、気にしないで!」
「そうか、では失礼して・・・(相変わらず、ユキの尻・・・柔らけ〜。もちもちだぁ)」
結果、ナオはユキの言いなりでユキの尻に座った。
顔には出さないが、内心ではとろっとろな心境だったようだ。
一方、ユキの方は・・・
「(あ、なんかいいかも・・・ナオの硬い脚に挟まれて・・・って)コホン! 始めるよ?」
ユキなりに感じていたようだ。
だが、お互いに無心となると話が進まないため、ユキは意識を保ちつつ問い掛ける。
その間のナオはちゃぶ台をユキの背の上に置き、ハンドルを設置して準備完了とした。
「おう! いつでもいいぞ!」
その体勢で行った結果。
タイムアタックは独壇場とでもいうのか?
加速と旋回のタイミングが一気に向上し、視野の面でもゲームと同じ風景を同じ高さで見ていたからか、二人の
そのうえ
「「やったぁ! 新記録達成だ!!」」
二人は記録更新を済ませ本選出場が決まった。
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