第19話 協力プレイ
自身の許容量を超えた魔力は毒にもなる。もし創士のような魔力のない者にデッドアイが全力で魔力を流したらどうなるか。風船に水を入れ続けるとどうなるかを考えれば想像に難くないだろう。
それを踏まえた上で、デッドアイはエーデルに全力で魔力を流した。魔族同士だからこそ出来る悪戯である。しかしある程度貯まったところでエーデルは上空へと飛んでいってしまった。
「あら?飛んでっちゃったわ。何か叫んでるわね」
「ちょちょちょ!何だべさ!アレ!」
長老の口の中で火の玉が生成され、徐々に大きくなっていく。
「アレは…まずいわね」
デッドアイは真剣な表情で呟いた。
「どどどどないしよ〜」
「うるさい!ちょっと黙ってなさい!」
デッドアイは爪を噛みながら思考を巡らす。ムルトゥの持っているウォーターガンを見たデッドアイはオーリリーに指示を出した。
「こいつ壊して魔力石取り出して!」
オーリリーはウォーターガンにたがねを差し込んでテコの原理で破壊した。中には『スプラッシュウォーター』を発動させる魔力石が入っていた。その魔力石を取り出すと次はムルトゥとブランに指示を出す。
「アナタ達、この石にシールドを張りなさい!なるべく頑丈に何層もお願い!」
ブランとムルトゥは出来る限りのシールドを何層にも魔力石にかける。デッドアイは魔力石に魔力を注ぎ続ける。シールドが膨張し、今にも破裂しそうだ。
上空で凄まじい衝撃音が聞こえた。同時に火球がこちらに向かってくる。
「お、お、落ちてくる!」
創士は尻餅をついて空を見上げた。
「オーリリー!ワタシが固定しとくから、その持ってるやつで叩き込んじゃって!」
「まーかーせーろー!」
オーリリーは『オーガ専用たがね』をバットのように持ち、デッドアイが空中に固定した魔力石の球をホームランバッターのような豪快なスイングで撃ち抜いた。
打球は落ちてくる火球へまっすぐ飛んでいく。パラパラとシールドが剥がれながらも一直線に進み、衝突の瞬間シールドは全て剥がれ、中に溜め込まれた水が一気に放出された。創士は拳を突き出して喜ぶ。
「よっしゃ〜!消えろ……え?ええぇぇぇ!」
どれだけの魔力を溜め込んだのだろうか。大きな池が出来てしまいそうな程の水が一気に解き放たれた。火球は威力を弱め、小さくなっていく。たがそれ以上の脅威が眼前に広がっていた。
「アイ!水出しすぎだろ!」
「どれだけ出るかなんて分からないわよ!」
頭上を覆う大量の水。逃げ道は無い。眼前に広がる絶望に頭が真っ白になる。
もうダメかと思ったその時、大きなドラゴンが水の壁を突き破って飛び出してきた。
「ジャンプ!」
エーデルドラゴンの声が頭に鳴り響くと、みな一斉にジャンプした。エーデルは水を突き破った勢いのまま地上の全員を両手で掬い上げ、再び宙へと羽ばたいた。
さっきまで立っていた場所に水が落ちると、そのまま山を雪崩の如く流れていった。
――静寂の時間が過ぎる。長老の目は最初にあった時の様に戻っているが、バツの悪そうな顔をしている。
「お爺様!」
「すまぬ………すまぬ……」
孫娘に怒られて謝ることしか出来ないお爺ちゃん。元はと言えばデッドアイのせいなのだが…。
創士はデッドアイに耳打ちする。
(怒られる前に謝っておいた方がいいんじゃない?)
(なんで私が…!)
(王女としての品格の問題です!)
デッドアイは文句を言いながらも創士の提案に応じた。
「エーデル、もう少し長老に近づいてくれる?」
長老の顔の前までやってくるとデッドアイは、いつもとは違う落ち着いた声で謝罪した。
「長老様、この度は誠に申し訳ございませんでした」
「よい。ワシも伝えておらんかった責任がある」
「エーデルも、助けてくれてありがとね」
突然のデッドアイの感謝に目を白黒させるエーデルは地上へと降りてみんなを降ろした。エーデルはドラゴンからいつもの姿へと戻る。
「アンタが急に変な事言うから変身解けちゃったじゃない」
「変な事とはなによ!」
「まぁ貴女の魔力でドラゴン化が出来たから、そこだけは感謝してあげるわ」
他のメンバーがニヤニヤしながらこのやりとりを見ている中、創士は長老に話しかけていた。
「長老様、作業はほぼ終わりました。どうです?体の方は」
「とても軽くなったわい」
「後でレサーナさんに診てもらうので、待ってて下さいね」
創士一行は魔王城へと戻る。後日レサーナに検査結果を聞くと、多少の炎症はあるものの、大きな病気等はなく新しい鱗に生え変わるのも確認できたようだ。
長老の顔の部分が腫れている原因を尋ねられたが、王女の名誉のため黙っている事にした。
創士は長老の作業後、さすがに疲れたのかしばらくは完全休養をすると決めた。
しかしそんな事を許さないのがデッドアイである。いつも通り、早朝からドアを蹴り開け、創士の襟首を掴んで新しい掃除ポイントへ連れて行く。
そんな日々が続く中、ムルトゥの居住エリアを掃除している時の事である。サスタスがやって来て、いつになく真面目な顔で創士に告げる。
「魔王様がお呼びです」
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