『外伝』スナック魔王城⑤
魔王城の片隅に不思議な扉があった。普段は鍵がかかったその部屋に時折、看板プレートが掛かることがある。
『スナック 魔王城』
今宵はどんな話が聴けるのだろうか…
―――店内――――
カランコロン
「うわ!本当にスナックだ」
「よぉ〜創士、来たな」
「ガンバスさん、大分酔ってますね」
「お先にやらせてもらったわい」
「あ、フィティアさんがやってるお店なんですね」
「ママ…」
「はい?」
「ママと呼びなさい」
「この店ではなぁ、『ママ』って呼ぶルールなんじゃ」
(ガンバスさんは酔うと饒舌になるのか)
「って…ええ!日本酒⁉︎焼酎まで…」
「お?なんだ創士、知ってる酒か?」
「はい、元の世界で飲んでいたお酒がいくつかありますね」
「ガッハッハ!ここはな、異世界の酒が飲める最高の店なんじゃ!なぁママ!」
フィティ…もとい、ママは微笑みながら自分用のお酒をクイっと飲んだ。
「ビールはありますか?」
この世界に来てから一度も酒を飲んでいないのに加え労働後となると、やはり最初の一杯はビールが飲みたくなるのだが、果たしてあるのだろうか。
「はい、お待たせ」
ママがカウンターの下をゴソゴソした後、創士の目の前にドンと置いたものは、まさしく銀色に輝く缶ビール。
「ヒョォォ!キターーー!ガンバスさん乾杯しましょう」
2人は乾杯をすると、グビグビと酒を一気に飲み干した。
「ぷはぁ〜〜!美味すぎる…」
「ガッハッハ!いい飲みっぷりじゃ!創士、そういえばあのオーガ用たがねはどうじゃった?」
「なかなか良かったですよ。そうだ…アイ王女とエーデル王女がウォーターガンぶっ壊したんですよ。全力で魔力流したもんだから」
ガンバスは聞いた事もないくらい大声で笑った。
「さすがじゃな!ちょっとやそっとじゃ壊れないように作ったんじゃがな!あのおてんば娘達の魔力量には驚かされるわい!」
自分が焚きつけた手前、本当に申し訳ないと思う創士。
「それにしても、たがねだったりウォーターガンを全力で撃ったり、お主ら何をしとるんじゃ?」
「ドラゴンの長老の鱗がですね、泥みたいので固まっちゃって、それを綺麗にしてるんです」
「ほぉ、あやつか…懐かしいのぉ」
「ご存知なんですか?」
「ワシはな、かつて人間に装備を作っておったんじゃ。其奴らがなドラゴン退治するといって、よくワシに依頼をしてきたんじゃ。まぁ返り討ちにあってたようじゃがの」
剛気に笑うガンバスはおかわりを頼んだ。
「お主の世界にもドラゴンはおるのか?」
「いえ、僕の世界には人間しかいません。あと動物ですね」
「そうなのか?ではこの世界は知らないものだらけじゃろ?」
「まさに、その通りです」
「だから良かったのかもしれんな…」
「何がですか?」
「この世界に召喚された理由じゃよ」
創士はあまりピンときていない。
「今までは力のあるものを召喚しては失敗しておった。今回お主は力もないし、すぐ消えると思っておったんじゃがな。なんやかんや皆を巻き込んで生き残っておるな!今までには無いパターンじゃ」
コレは褒められているのか?そんな疑問が創士の頭に浮かんだ。
おつまみのピーナッツのようなモノを食べながら、創士は並んだお酒を眺めている。
「ガンバスさん、何飲んでるんですか?」
「んあ?これか?コレは『ヨレク』じゃ。ドワーフ村で作った酒じゃよ」
「ママ、コレと同じやつロックで」
「はい、どうぞ」
匂いを嗅いだ感じ、ウイスキーっぽい香りが漂ってきた。恐る恐る一口飲んでみる。
「どうじゃ?美味いじゃろ?」
少し苦味はあるものの、飲み終えた後に鼻から抜ける香りには甘さを感じる。ほぼウイスキーと言って過言では無いだろう。
「ガンバスさん、美味しいですよ!」
「そうじゃろそうじゃろ!」
「コレもしかして…ママさん!炭酸ってあります?」
「タンサン…って何かしら?」
「シュワシュワしてて、味は無いやつ」
「あぁ、これね。持ってきたのはいいけど味もしないし、どうしようか迷ってたの」
(…持ってきた?)
頭に浮かんだ疑問は酔ってるせいか、すぐに掻き消える。目の前に出された炭酸水を手に取ると、先程の『ヨレク』を指2本分残して飲む。そこに炭酸水を注いで。
「ガンバスさん、僕の世界には『ヨレク』と似たようなお酒をこうやって割って飲む飲み方があります『ハイボール』って言うんですけど」
「ほう?」
ガンバスは奪い取るようにハイボールを飲んだ。
「……子供の飲み物じゃな!ガッハッハ」
「ストレートで『ヨレク』を飲む人には薄いですよね。僕はコレ料理と一緒に飲むんです」
「そうか、酒に弱いやつに勧めてみようかの。サスタスとかな」
「サスタスさん飲まないんですか?意外だなぁ」
その後も飲み続ける2人。久々のお酒に酔いも回り始めた創士。さすがドワーフと言わんばかりにグビグビ飲み続けるガンバス。
「ところでよ、創士。アイ王女とは仲良くやっとるか?」
「仲良く…なのかは分からないけど楽しくやってます」
「そうか…お主が来るまで元気なかったからのぉ」
「そうだったんですか」
「ワシはマーシャにあの子の事を頼まれたんじゃ。何せ人間の血を引いてるのはマーシャとアイだけだったからのぉ」
「マーシャさんって誰ですか?」
ガンバスは口に蓄えた髭を撫でると、グラスを天に向けて掲げ、まるで献杯をするかのような仕草を見せた後、グラスを飲み干した。
「マーシャ・ベルライト。アイの母親じゃよ」
アイ王女の母親の話は聞いた事がなかった。創士は身を乗り出してその話を聞いた。
「マーシャは明るい太陽のような人間じゃった。ワシがここに来る事になったのも彼女のお陰じゃ」
「へぇ〜そうだったんですね。一度ご挨拶しとかないと」
「無理じゃよ」
「え?」
「亡くなったからのぉ」
「……」
「元々体も弱かったようじゃ。アイ王女が物心つく前の事じゃから、アイ王女も母親の事はあまり覚えていないんじゃなかろうか」
こういう時どういう反応をすればいいか分からない創士は酒を飲みながら沈黙で誤魔化す。
「はい!今日は店じまいです!」
パンっと手を叩きママが終わりの合図を告げる。
「ガンバスさん飲み過ぎです。創士さんも明日仕事あるんでしょう?」
2人はフラフラと扉から出ていく。店の前で分かれたガンバスと創士は部屋へと戻っていく。
廊下を歩きながらガンバスは、創士の胸元で輝くペンダントを思い出していた。あれは間違いなくベルライト家のペンダントだった。
(アイ王女がアレを創士に持たせているという事は…)
ガンバスは幼き日のデッドアイを思い出しながら静かに笑った。
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