『外伝』スナック魔王城③
魔王城の片隅に不思議な扉があった。普段は鍵がかかったその部屋に時折、看板プレートが掛かることがある。
『スナック 魔王城』
今宵はどんな話が聴けるのだろうか…
―――店内――――
カランコロン
「わーお!ブラン君、珍しいねぇ!」
「ムルトゥ王女、お一人ですか?」
「そうなのよ〜、まぁこっち来て。一緒に飲みましょ!」
ムルトゥにとってブランは気兼ねなく話せる数少ない人物であった。
「ママさん、ドラゴンウイスキーのサイダー割りで」
「ブランくん、今日は機嫌が良さそうだねぇ」
「今日はオーガやオークの皆さんの前で話す機会があったんです。でも沖田さんに助けてもらって無事最後まで伝える事が出来ました」
「ブラン君は人前で話すの苦手かい?」
「はぃ…あまり得意ではありません…」
「わかるわ〜!オラも苦手じゃ〜。こんな喋り方じゃろ?みんなに笑われるんよ」
「直そうとしないんですか?」
ムルトゥは少しはにかんで笑った。
「これは今まで愛した男の証じゃけぇ、笑われたって直すつもりは無か!」
「フフッ。ムルトゥさんは強いですね」
「そうやろか?」
ブランはグラスを回して氷を泳がせる。
「僕は姉のように強くなれません…」
王子は弱々しく吐き捨てる。
「オーリリーみたいに強くないとあかんのか?ママ!これおかわり!」
ブランは目をぱちくりさせながらムルトゥを見た。
「オーリリー王女と同じ強さを持ってたって、つまらんやろ!せっかくの姉弟なんやから、別の強さを手に入れればええやん」
「別の強さ…」
「っていうか、もう持っとるやんか!下級魔法はマスターしちょるんやろ?ほならそっちの道を極めればええやん」
ブランは自分の手を見つめる。
「それになオラが思うに、オーリリーは猪突猛進やから、ブランが冷静に判断してやった方がええと思うねん。そういう意味ではサスタスみたいに知識を蓄えとくのもアリやな」
ブランは自分の弱さを悲観するばかりで、動き出さなかった。むしろ動き出せなかった。自分の弱さがもっと見えてしまう気がしたから。でも少しだけ、ほんの小さな光明が見えた気がした。
「ムルトゥさん、ありがとうございます」
「ええよ、ええよ!…しまった、仕事があったんや!」
「こんな遅くにですか?」
「あの人間にな、服を作って欲しいって頼まれてんねん」
「そうですか、頑張ってくださいね」
「ほんじゃ、お先〜」
この後デッドアイが部屋に乱入してくるとはムルトゥはまだ知らないのであった。
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