『外伝』スナック魔王城②

 魔王城の片隅に不思議な扉があった。普段は鍵がかかったその部屋に時折、看板プレートが掛かることがある。


『スナック 魔王城』


 今宵はどんな話が聴けるのだろうか…



―――店内―――


 カランコロン。

「おっす。また一人かサスタス!」

「お先にやってます、リリー王女」

「フィティア!『ニホンシュ』一本!」

「この店ではママと呼びなさい?」

「わーったよ、ママ。」



「っカァ〜!労働の後の酒は沁みるぜぇ」

「聞きましたよ。アイ王女が体調を崩していらっしゃるとか」

「そうなんだよ、それでな沖田の野郎が『緊急事態!』なんて言ってすっ飛んでくるもんだからよ、何かと思えば…アイのやつ風邪ひいてやんの。ハハハ!」

「珍しいですね、魔族が風邪なんて。ましてアイ王女ともあろうお方が」

「まぁ、確かにな。それでよぉ、この前フィティアが言ってた万病に効く薬草ってやつを思い出してな、沖田を連れて行ってきたんだよ。魔樹の森に。そしたらよ、雑魚達が沖田に向かって襲い掛かって来ようとしてたんだよ。だからアタイがな、近づく前に吹き飛ばしてやってたんだ。そりゃアイツも怪しむわな。「な、何ですか?今の」ってな。素振りしてんだよって言ったら…ハッハッハッ!あいつ信じやがってよぉ〜!」

「あら?氷が無くなっちゃったから私取りに行って来るわね。あとよろしく〜」

「あ、おいフィティア!まだ終わってねーのに…」

「ふむ…『万病に効く薬草』…ですか。魔樹の森に…」

「ん?サスタス何か気になる事でもあったか?」

「フィティアに教えてもらったって言ってましたよね。どんな特徴ですか?」

「エルダートレントに生えてる桃色の葉っぱ」


「……なるほど。そういう事ですか」

「なに納得してんだよ?」

「その葉っぱはですね、人間の間では『愛の葉』と呼ばれています。結婚を申し込む時なんかに使われるそうですよ。危険を冒す価値が貴方にはあるとか、冒険者なんかがよく使うそうです。まぁ逆さに見るとハートの形というのが好まれてる理由でしょうね」


「………なぁサスタス、アタイ……やっちまったか?」

「やっちまいましたね」


「……」

「……」


「まぁいっか!」

「一体彼女は何を考えてるんだか…」

「お、フィティアの事気になってるのか?もしかして〜、惚れてたりして?」

「まさか。あのお方は何を考えてるか謎過ぎます。分かりやすいあなたのほうが可愛いですよ」

「んがっ!?」


 氷を入れた箱を持ってフィティアが帰ってきた。


「ただいま…あら?リリーちゃんどうしたの?固まっちゃって?」

「さあ?どうしたんでしょう」


 クスッと笑いながらサスタスはグラスを開けた。



今日も魔王城は平和だ。

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