第7話 寝具 a Song

 魔王城の外は一日中暗雲で包まれ、太陽が昇ったかどうかは確認できない。魔族には睡眠を必要としない者もおり、特に困っている者はいないようだ。人間を除いて…。


「おらぁ!起きろ!」


 扉を蹴飛ばしながら上機嫌な声でデッドアイが突入してくる。ちゃんとした布団ではないので体がバキバキだ。


「早く行くわよ。アナタの世界で何を食べるか分からなかったからパンを持ってきたわ。この食べ物知ってる?」

「同じようなものがあります、ありがとうございます」


 パンを齧りながら王女と廊下を進む。味は…まぁ察してくれ。色々な魔物とすれ違う。


(床や壁を這いずり回るスライム。スケルトンは本当に骨だけなんだなぁ。あれはゴブリンか、初めて見た。獣人達もいる!尻尾触ったら怒るのかな?)


 デッドアイに着いて行くと魔王城の外に出た。出てすぐに左に折れ、壁沿いに進んでいく。


「この時間なら大抵この辺にいると思うんだけど…」


 小さい池に周りには整えられた植物。まるで庭園のようだ。魔王城にもこんなスポットがあったとは。池に架かった橋の上に誰かが居た。


「おーい、ブラン!」


 デッドアイが大きく手を振ると、ブランと呼ばれた少女が駆け寄ってきた。


「アイちゃん、どうしたんですか?あ、この前召喚されてた方ですね、こんにちは」

「こんにちは」


 僕は王女に小さな声で確認した。


(この子も小さいけど、だいぶ年上?)

(ワタシの2つ上だったはず)


 同じ過ちは繰り返すまい。あんなに恥ずかしい思いは一度だけでいい。


「あのね、ブランこの前、間違えてベット作ってもらったって言ってたわよね?」

「そうなんですよ、姉さんのを発注したつもりだったんですけど、僕のが来ちゃって…」


(ボクっ娘だ、カワイイ)


 ニヤっとした顔をしないように平静を保つ。改めてブランを見る。杖を両手に持った少女は魔法使いのような格好ではなく、動きやすそうな軽装備を着ている。例えるならRPGの味方盗賊キャラといった感じだ。


「……庫に置いてます」

「そう、ありがとね!」

(おっとブランちゃんを見ていたら話が終わっていた)


 デッドアイは創士の腕を掴むと、ビュンと駆け出した。



―――魔王城 第7倉庫―――



「ココね、さぁベットを探しましょう」


 最新ジェットコースターに乗った後のような浮遊感と疲労感に包まれながら、創士は部屋の入り口から全体を見回す。なかなか広い部屋だが、ベットくらいデカいものならすぐに見つかるだろう。手前の方の比較的軽そうな物を動かしてながら奥の方を確認する。デッドアイはガチャガチャと乱暴に物を退かし、探し始める。性格が出てるなぁ、そんな事を思っていると、部屋の入り口に大きな影が見えた。


「アタイの縄張りで盗みを働くとは…命知らずの奴も居たもんだなぁ!」


(お、お、鬼〜〜!)


 2メートルを優に超える巨大なモンスターが指をボキボキ鳴らしながら近づいて来た。すかさずデッドアイがその巨体へと向かって行く。


「ごめーん!リリー、声掛けるの忘れてた!」

「なんだアイか。盗賊でも入ってきたのかとワクワクしちまったぜ」


 創士はビビって床にへたり込んでいると、リリーと呼ばれたモンスターは見下ろすように立ち、手を差し伸べた。


「アタイは第7王女のオーリリー。コイツからはリリーって呼ばれてる。よろしくな!召喚者さん」


 そう言って創士の手を掴むとヒョイっと立ち上がらせた。


「それで2人はここで何をしてるんだ?」

「この前ブランが間違えて発注しちゃったベットを貰いに来たの。創士のベットにしようと思って」

「おう、なるほどな。確かこの辺に……あった。コイツだろ」


 奥にあったベットをヒョイっと持ち上げる。物凄いパワーだ。


「いやぁ、ブランのミスがこんな形で役に立つとはな!これ、運んでやろうか?」

「助かるわリリー!今度王都で買ったお菓子持って行くわ」

「オメー、また王都に行ったのかよ…」


 女子トークを聴きながら2人の後をついていく。ベットを肩に担いでいるのを女子と言っていいのであればだが。



―――魔王城 創士の部屋(仮)―――



「ここでいいか?」


 オーリリーはベットを降ろし、首の骨を鳴らした。


「ありがとうございます、リリー王女」

「いいっていいって、ほんじゃ今後とも弟共々よろしくな!」

「弟さんがいらっしゃるんですね、お名前は?」

「はあ?今日会ったんだろ?ブランだよ」


(……………そのパターンかぁ〜)


 少女のようだと思っていたのは、どうやら少年だったようだ。しかしそれにしてもオーリリーとブランは違いすぎないか?


「すみません!あまりにも体格が違ったので、姉弟だと思わなくて…」

「ハッハッハ!まぁ無理もねぇ。ブランはな、オーガ族なのに力も弱ぇし背も小せぇ。でもな、あいつはオーガ族で唯一魔法が使えるんだ!スゲーんだぞブランは!」


 やはりお姉ちゃんなのだろう、弟の事を話すオーリリーは優しい笑顔をしている。その時、僕の部屋をノックする音がした。


「サスタスです。入ってもよろしいですか?」


 僕はどうぞと告げた。中へ入ってきたサスタスは王女2人に挨拶をしてから僕に要件を伝えた。


「ガンバス殿が完成したとおっしゃってます」


 僕は目を丸くしながら心の中でツッコんだ。

(いくらなんでも早すぎだろ!)

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