第6話 堕ちた天使の目的は

――時は遡る――


 ここは天使や様々な神々が住んでいる天界。ここに聡明な男が1人。天使や神々は気まぐれに地上へと降り、人間に助言を与え、悦に浸る。男は考えた、なぜ人間だけに天啓を与えるのだろうと。生きとし生けるもの、その中でなぜ人間なのだろうと。自分達の姿に似せて作ったからだろうか。

 神に問うた。神は言う、魔なるもの達は人間に仇なす存在。故に人間を愛すのだと…


 男は考えた。本当にそうなのだろうかと。人間と魔族、姿形は違えど等しく愛すべき存在なのではないかと。悩んだ。何十年も悩んだ。男は噂を聞く。同じ考えを持つ者の存在を。それが魔王であった。


 男は魔王の考え方に賛同し、地に堕ちる事を決めた。白き翼を漆黒に染めながら…



――魔王城、鍛冶場―――



「デッドアイ王女、紙を取ってきてもらえますか。私は沖田殿とお話が」


 そう言うと彼女は元気良く返事をして部屋を飛び出して行った。


「では、先程の質問に答えましょう。なぜ協力するのか」


 サスタスの真剣な眼差しに少し緊張する。


「王女の機嫌が良いからです。今までに見た事ないほどに…」


 それだけ?と思ってしまった。


「デッドアイ王女は、今まで王女たらんとする為に頑張っておりました。あまり詳しい話は私からは出来ませんが、かなり無理をされておりました。しかし、どうでしょう。沖田様が来てまだ1日も経っていないというのに、王女は心から楽しそうにしておられる。あのような笑顔を見たのは、まだ奥様がこちらにいらっしゃる頃以来です」


 思っていたより深い話だった。リアクションに困っていると


「それに、あなたの周りにいるとまた面白い事が起こりそうですし」


 ニヤリと笑いながら僕の肩に手を置いた。おそらくこちらが主な理由だろう。


「紙取ってきたわよ〜。って…え?あんたそっち系が趣味?」

「誤解だ誤解!」

「サスタスは人間たらしなところがあるから…ワタシは偏見なんてしないから大丈夫」

「だーかーらー誤解ですって!」


 デッドアイは、おどけるような口調でからかう。それをサスタスは慈愛に満ちた表情で見ていた。




――――魔王城 とある部屋――――


 真っ暗な部屋。中央には机と椅子。天井からの灯りで机の周りだけ丸く照らされている。椅子に座るローブを着た魔族。少年くらいの大きさだが俯いている彼は更に小さく見えた。彼の名前はカシオン、創士を召喚し魔王に退場を命ぜられた者、そしてミシオンの兄である。

 椅子にちょこんと座る彼からは机から向こうは闇、何も見えない。故に自分の膝を見て平静を保とうとしているのだ。闇の中から冷たくも美しい声が聞こえる。


「カシオンさん、もう何回目ですか?私も暇ではないのです」


 カシオンの目の前の闇の中から修道服を着た女悪魔が姿を見せた。腰まである透き通った白い髪を揺らしながらカシオンの隣までゆっくりと歩く。片目は髪で隠れており悪魔の象徴でもある角が灯りに照らされ底知れぬオーラを感じさせる。カシオンの耳元へ顔を近づけ、吐息まじりに囁く。


「それでは魔王様の命により…罰を与えます」



―――魔王城 鍛冶場――――


「…戻った」


 ガンバスが袋を肩に担ぎ戻ってきた。


「お爺おかえり!見て見て、創士がね完成図を描いたの」


 ジャーン、と紙をガンバスの顔の前に突きつける。僕は4種類のほうきの絵を描いた。ホームセンターにちりとりとセットで売っているような普通のほうき。掌サイズの小ほうき。長い柄のほうき。学校でよく使う自在ほうき。そこに特徴と自分が持っているイラストを描いてサイズ感も分かる様にした。こんな簡素なもので分かるのだろうか。するとガンバスはアゴに蓄えた髭を一度撫でると


「…やってみる」


 そう言って頷いた。サスタスが違う紙を持ってガンバスに見せた。


「先程、彼に描いてもらいました。こちらは自動で床を洗う車輪付きの箱だそうです。これは杖の先から水の魔法を出すそうです。こちらはその水を吸う箱。これは…」


 創士は他にも掃除で使いそうな機械を描いてセスタスに説明していた。セスタスは用途から合いそうな材料や構造のアドバイスをしてくれた。さすが「何でも知ってる」と王女が太鼓判を押すだけのことはある。


「少し時間をくれ」


 そう言うとガンバスは鍛冶場の奥へと引っ込んだ。


「あとはお爺に任せましょ!とりあえず今日はお開きね。創士はあの空き部屋使っていいから。あ、寝る所が無いわね。アナタ床で寝れる?」

「いやー、出来ればベットか布団が欲しいです」

「フトン?」

「ベットの木枠が無いやつって感じですかね。地面にそのまま置くみたいな」

「へぇ〜、とりあえず今日は使ってないベットカバーがあるから、それ重ねて頑張って寝なさい。余ってる枕があるからそれもあげる。後で部屋に持ってくから待ってなさい。」

「いや、悪いので取りに行き――」

「ダメ!」


 食い気味に強く否定されてしまった。


「大人しく部屋で待ってなさい!ベットには当てがあるの。明日行きましょう」


 部屋で待つ事10分。大量の荷物を抱え彼女はやってきた。ドア枠より大きい荷物を無理矢理押し込んで。


「んじゃ、適当に使って。おやすみなさーい」


 バラバラになったベットカバーを重ねて布団を作る。長い1日だった。まだ夢の中にいる気分だ。布団に潜り込んで丸くなって目を瞑る。疲れていたのかすぐに眠りに落ちた、微かに香る王女の匂いに包まれながら。

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