憧れの先輩はいつも俺に隠れて照れる

空音 隼

プロローグ

 高校一年の春休み、俺がこのアパートに引っ越して来た時からずっと無人だった隣の部屋に新たな住人がやって来る。

 一番端の部屋に住んでいる俺としては、これからは隣に気を遣って生活しなければならないことに少し気を落としていた。


 しかし、俺の隣人となるその人が挨拶に来た時、俺は驚くと同時にこれからの生活に期待しか感じなかった。


 なぜなら、俺の部屋の隣に引っ越してきたのが、つい最近学校を卒業した憧れの先輩だったからだ。

 俺の、いや、学校の全男子の憧れだった先輩の名前は『松藤れな』。

 彼女は、学校で一番かわいく、成績はトップ、運動神経も抜群で、まさにパーフェクト美少女だった。

 勉強とバイトに忙しくて女子になど毛ほどの興味もなかった俺が、唯一目を奪われた女子だ。二つも上の先輩だから、会うことはほとんどなかったし、ただ行事とかで遠目に見ているだけだった。

 だけど、たまに目が合うと、この俺がドキッとしてしまった。

 そして、俺が目指している東大医学部に主席合格までした、まさに俺にとって憧れの人である先輩が隣の部屋の住人になった。


 期待で胸がいっぱいにならないわけがない。


 しかし、それを顔に出さないようにして挨拶に対応する。

 この日は、軽い挨拶をして、お互い別れた。


 今日から先輩が隣で暮らしていると思うと気になって仕方なかったが、俺は春休みでも忙しいから自分からは関わらない。

 憧れの先輩が隣で暮らしているが、これからも俺から関わることはないだろう。



 ♢



 先輩が引っ越してきた日に、『俺は自分からは関わらない。』そう自分に誓った。

 だけど、それがどうしてこうなったんだ。

 たったの二週間で。


 今先輩は俺の家にいる。

 そして、俺に隠れてデレている。


 俺は、その姿がたまらなく愛おしい。


 もっと一緒にいたい。もっと照れているところを見たい。

 俺は、いつの間にかそう思うようになっていた。

 その思いが、俺に関わってくる先輩が、俺を自分から彼女に関わるようにさせた。



 高校二年。

 ここから俺の、いや、俺たちの青春が始まった。

 儚く、けっして色褪せることのない、忘れられない二年。

 俺たち三人の心それぞれに、幸せと痛みと後悔をもたらす青春の二年。



 これから青春が、激動の二年が待っていることは今の俺は知らない。




 


 


 

 

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