リムとサナ
樹時歌(じゅじか)
第1話:リム、ダラとトゥオルの家に招かれる
プリシラはリムとの娘リーラを産み、リーラに少し問題があったので、通常の入院期間が過ぎても、まだリーラと一緒にブレジア大学附属病院(以下、ブレ大附属病院)産婦人科に入院していた。
ある休日の午前、リムが、プリシラがいる病室に彼女を見に来たので、プリシラは「今日も1人?」と今日も帰ったら家に1人なのか?と聞いた。リムは、プリシラの母や向かいのリージャ家族が来る以外は、最近夜はほとんど1人だった。
「いや、今日はトゥオルとダラの家でランチに招かれたんだ」
「あ、そうなの。サナはもう3才だっけね」
「ああ。あの子は、トゥオルのように強くて、ダラのように気が強いんだよな。口も達者で、ハッキリ言って苦手な子だ」
リムが苦笑しながら愚痴を言うと、プリシラが、
「またお世話になるから、パパ、頑張って!」とリムの上半身を抱きながら励ました。
「ああ、分かった、ありがとう」リムは笑んで軽くプリシラを抱き返した。
リムが外に出ると、リム、ダラとトゥオルとそれぞれの車2台で、まず、サナの保育園に向かった。休日だったが、午前中だけ行事ごとがあったのだ。
保育園のお迎えにはダラが行った。ダラを見つけた保育士はサナを連れてきて、
「はい、ママですよ」と笑顔で言った。
ダラは、「ありがとう」と頭を下げると、サナと手を繋ぎ、車の方へ行った。すると、サナはダラに「ね、ママ、リムくんて子、どこ?」と聞いた。
ダラとトゥオルは、今日、リムという名のかっこいい男の人が遊びに来ると言っていたのだが、サナは、それは自分と同じくらいのかっこいい男の子だと思って楽しみに待っていたようなのだ。また、トゥオルが親しみを込めて、リムのことを娘の前で“リム君”と呼んでいたのでそう思ったらしかった。
「え?リムさんよ。あそこのパパの車の隣、白い車に乗ってるわよ。一緒に行くのよ」
「お兄ちゃんしか乗ってないわ?」
ダラは、それは聞かずに、さっさと自分たちの車に行き、サナをチャイルドシートに乗せて、自分も車に素早く乗り込むと、トゥオルがリムの前を運転して自宅に向かった。サナは、後ろを見たかったのだが、チャイルドシートに乗っていたので、リムの姿や車の中を見れなかった。サナは不安になって母に聞いた。
「ママ、リムくんは、違う保育園なのお?」
“リムくんは”違う保育園にいるので、これから皆で迎えに行くのか?"と。
「え?リムは、ママ達と同じ病院なのよ」
「えー?リムくん、びょーきなの?じゃあ、びょーいんにいるの?」
「ううん、病気じゃないけど、毎日病院にいるわ」
「どゆこと?」
そのやりとりを聞いて、トゥオルが何かに気づいて、ダラにこそっと話した。
「ダラ」
「何?ト―」
「サナは、リムのことを自分と同じくらいの小さい男の子だと勘違いしてるんじゃないか?」
「え?あ、そう言えば。家に着いて、リムが私達くらいのおじさんだと知ったら、あの子、ワガママだから、大泣きするか、すねてしまうんじゃないかしら……」
「そう。ヤバいな。どうにかなるけどな。リムがサナにプレゼント買って来てくれてるらしいから、喜んで“大人の”リムと親しくしてくれたらいいけど」
「私、リムにちょっとLINEしとくわ」
ダラは急いで後ろから来るリムにLINEした。
リムは、赤信号の時、それを読み、小さい子のことだからとニコッとして「覚悟しとくよ」と返信した。
とうとう、ダラ達の家に着いた。その家の3人は先に車から降りて家の中に入ろうとした。案の定、サナは両親に手を繋がれてキョロキョロし出した。
「ねー、パパ、ママ。リムくんどこなの?」
「もう少し待ってね」
ダラはトゥオルに困った顔をしてみせた。トゥオルは
「うちの子だから大丈夫だ」と、サナの頭の上で、ダラに微笑んで見せた。ダラも「リムも優しいものね」と。トゥオルは頷いた。
トゥオル達の家に少し後ろから、ゆっくりめにリムは入って、玄関に上がった。その時、トゥオルとダラは普通に、
「リム、いらっしゃい」と笑顔で迎えた。それを聞いてサナはリムの方を向いてどんな人か見た。
彼は、背が高くて子どもではない。自分の両親と同じくらいの人だ。はっきり言っておじさんだ。
トゥオルとダラが思った通り、サナは顔を歪ませ「う、う、う、」と唸って、目の周りに涙を滲ませた。そして、「リムくんじゃなあい!」と言って、リビングに置いてある、お気に入りの大きなクマのぬいぐるみの後ろに行って抱きしめ、わーん!と泣き始めた。
ダラは「“リムくん”って言ってないでしょっ。ママとパパの病院のお医者さん、リム・シンドクターよ。サナも診てもらったことあるのよ」
「うう、リムくんと遊びたかったんだもーん!」
サナは今の状況を理解出来ないのもあり、ワガママを言い出した。
「リムくんって子はいないの。今日はリム先生、えーっと、Dr.シンと、ご飯食べて遊びましょう。先生はとても優しいのよ。そんなに泣いたら先生に失礼でしょう?」
ダラは少し厳しめにサナに言った。失礼とか言う意味はサナにはよく分からなかったし、保育園以外の男の「先生」とは何かよく分からず、ただ、リムくんじゃない両親と同じくらいの人と、どう接すればいいか混乱した。リム先生ともDr.シンとも言われて、よく分からなかった。でも、チラッと見たリム先生の顔は優しそうだった。
そのリムはサナにゆっくり近づいて、同じ目線にかがんだ。
「サナ、リムくんじゃなくてごめんね。これ、おじさんからのプレゼントだよ」
混乱するサナに、リムはサナが抱いているぬいぐるみと同じくらいの大きな プレゼントを渡した。サナは、ひっくひっくと言いながら、恐る恐る大きなプレゼントを両手で抱くように受け取った。
トゥオルは「おおー、サナ、こんな大きなプレゼントもらって、イヤイヤしないで、Dr.シンをお迎えするんだ」と言った。サナは涙で目の周りが濡れていながらも床に座ってリムのプレゼントの紙をバリバリと開けだした。
「キャーー!!」
サナが紙を開けきると、それは、子どもに人気のテレビアニメの動物のぬいぐるみだった。サナも乗れるような特大の物で、サナは興奮して跳んだり跳ねたりして絶叫した。
「マービー!!」
そのキャラクターは一番人気のマービーというハムスターでサナは叫んで喜んだ。
「あらほんと!こんな大きなマービー!」ダラも一緒に喜んだ。
「リム、ありがとう!」トゥオルも喜んだ。
「サナ、リム先生にありがとう言いなさい」ダラはサナをリムの方へ向けた。サナはプレゼントが嬉しくて、リムには恥ずかしがった。それに、やっぱりこれでリムくんと遊びたかった。でも、リムくんはいないし、これをくれたのは、目の前のパパくらいの人だと思って、上目遣いで小さい声で、リムに、
「ありがと……」とお礼を言った。
「いいえ」リムは、少しかがんだまま、微笑んでサナの髪の毛を優しくなでた。
すると「良かった、良かった」とトゥオル、「良い子ねサナ」とダラが、そろって言った。そこから、急にサナは、ダラが食事を作っている間、リムに懐き、近くの公園までリムにおんぶしてもらって行き、滑り台などの遊具で楽しく遊んだ。帰りもおんぶしてもらって、途中にある菓子屋でお菓子も買ってもらって帰った。
「リムくん」おぶさっているサナは、リムのことを最初のように友だちのように呼んだ。
「え?」リムはそう呼ばれて遊んでいたとはいえ、ちょっとたじろいだ。
「こいびといる?」
「ん?」今度は目が点のようになった。
「サナ、リムくんのこいびとになりたい!ふふ!」っとサナは恥ずかしがってリムの背中に隠れた。
「こいびと?」リムはつんのめりそうになった。
さすがダラの子だ。俺のことが好きになるなんて。それにダラに似て積極的だ。でも、子どもでも正直に言った方が良いだろうと思った。
「サナ、ごめん。僕はね、愛する人がいるんだ」
リムは、大人に言うように言った。
「こいびと?」
「そう。それで、その人との間にサナのような赤ちゃんも出来たんだ」
「赤ちゃん?」サナはリムの片方の肩から小さな顔を覗かせた。
「うん。まだ病院にいるけど可愛いよ。その子のお姉さんになってくれたらいいなあ……」
「こいびとにはなれないのね?」
「うん、ごめんね」
「いいわ。じゃあ、その子のお姉さんになりたいわ」
「それはとても嬉しいよ。退院したら見せに来るよ」
「うん分かった。その子の名前何て言うの?」
「え、リーラ。リーラ、だよ」
「リーラちゃん。ふーん、可愛い名前ね」
子どもは昔のダラより執着心が無くてリムはほっとした。ダラ達の家に戻り、この話をすると夫婦2人は驚き笑った。
家に帰っても時間が余っていたので、サナはリムに、リムくん、リムくんと呼びながら、飛行機や、お馬さんごっこなどをしてもらって楽しく遊んだ。
「リム、お前の方がサナと遊ぶの上手いなあ」
トゥオルは、最初に、リムがサナに泣かれた事も考えて驚いた。
「一日だけさ。毎日全力出してたら疲れてしまうよ。しかし、サナはダラに似てマセてるな」
「そうだな」
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