08‐02「プラント倒壊す」 第八話完


  


 「おい、ドジッたのか!」


 ベータチームの友禅寺から文句が飛んできた。海上石油プラント内の警報アラートが鳴り響いているからだ。


 「こっちやない。こっちはドジってないわ!」


 まぴゆきが怒鳴って返すがタダオが諌める。


 「言い合ってる場合か。いくぞ!武器を出せ!本領発揮だ!」


 メンバー全員に発破をかける。空是とまぴゆきもそれぞれに武器を構える。潜入スパイのフリは終わりだ。ここから先は銃撃飛び交う戦場になる。


 「こちらミラノ、AI兵が動き出した。内部に入っていきます!数は減らすけど、全部は無理だからね!」


 無線は銃撃音で終わった。ミラノがスナイピングを開始したのだ。外部を見張っていたいたAI兵は、内部の敵を殲滅しろという命令を受けたため、室内に向かって移動し始めた。そのうちの一体が突然破壊された。彼らの一部は狙撃者の方向に向かって銃撃を開始し、残りのAI兵は命令どおりに建物内に入り、侵入者の探索を開始した。


 プラント内のセキュリティー兵器が目を覚ます。静かだったプラントは一気に野獣ひしめく獣の巣に変わった。




 発砲音確認。


 セキュリティールームのジェイ・ガンミンは敵兵の存在を確認した。すぐさま仲間にアバター起動を命じる。PMGの軍用ゲーミングチェアにその身を預けた傭兵たちが次々とメタアース内にアバターとして出現する。


 戦車の様なごつい姿。通路を通れるギリギリのサイズの巨漢の武装兵5名が次々と出撃していった。


 ジェイ・ガンミンはアバターを出さなかった。彼には他にやらねばならないことがあった。




 本来、AIセキュリティー兵器は人間が操るアバターの敵ではない。だが施設の各所に入念に設置された場合、AIセキュリティー兵器でも極めて厄介な敵になる。


 まぴゆきと空是が前を向き、タダオが後ろをカバーする。三人ひとまとまりになり、廊下を前進していく。前衛二人はひたすら撃ちまくる。虫型AI兵器、壁や天井から現れる銃座、AIソルジャー。現れた瞬間に全て殲滅しているが、数が多い。向こうも施設防衛に必死である、仕掛けられるだけの兵器をしかけている。


 廊下の向こうに食堂が見えた。覗き込んだ瞬間、銃弾がばら撒かれ床がえぐられた。


 食堂の天井には防衛銃座がいくつも生えている。


 「駄目だ、入った瞬間に溶ける!」


 銃撃の中、タダオが叫ぶ。中の様子を確認したまぴゆきが、


 「タダオさん、合わせ技でいきましょう、俺の声と、」


 それだけでタダオには伝わった。すぐさま食堂から距離を取り、特殊な銃を取り出す。


 ライフルのようだが、銃口がショットガンの様に二つ横に並んでいる。


 タダオの用意を確認したまぴゆきが、声を出した。


 「チートウェポン:ロケーション・エコー」


 まぴゆきの声には、色がついていた。声の波に乗った色の粒子が音速で飛び、室内に広がってAI兵器の表面にまとわりついた。そして、その色は特殊な波長で発色し、壁を越えて視野に飛び込んで見えた。


 廊下の壁や天上の向こうにある敵兵器の姿と位置が、はっきりと見えた。


 銃を構えたタダオが発射する。


 「チートウェポン:キャノンショット」


 二つの銃口から2発の弾が、同時に撃たれた。


 弾が食堂内に入る。その弾の先には何もない、壁に衝突するコースだった。


 2発の弾には発射時にそれぞれ別の回転がかけられている。それは高度な計算のすえに加えられた回転だった。右側の弾が回転により左に曲がり、左の弾と接触した。


 その瞬間、左の弾はコースを変えた。敵銃座がそのコースの先にあった。


 続けざまにタダオが撃ち続ける。2発の弾には別々の回転がかかっていた。


 片方の弾をクッション代わりにしてあらゆる角度の跳弾を引き起こすチートウェポン。


 一瞬にして室内の全ての銃座が破壊された。二人共に小さくガッツポーズをした。見事な合わせ技だった。


 「俺のロケーション・エコーは壁の向こうを知るチートやけど、壁を透視するウォールハックと違うから、BAN対象じゃないわけ」


 空是にそれとなく自慢するマピユキであった。タダオは道具を丁寧にしまっている。




 ガギンと、金属と金属が激突する音がする。


 強い雨と風の中、ミラノの狙撃の銃弾がAIソルジャーの脳天を破壊し海に飛ばした。


 ガシャン、巨大な狙撃銃の弾をリロードする。ただ一人でハッキングクラフトの降下口に陣取り、眼下の敵を撃ち続ける。


 「スナイピングは大変って言われてるけど、現実に比べたらメタアースの射撃は楽だよねー」


 独り言を喋りながら撃ち続ける。AI兵の弾が船の外壁に弾かれる。


 「メタアースにも風や雨やコリオリ力が数値としてあるけど、現実のそれは、雨粒は全ての粒が独自の存在で、風は空間にムラのある波を作る。光にすら力はある。それら全てが影響しあって、世界はそれを全て計算している。それに比べたらメタアースなんて、ハリボテの自然、簡易版。イージーモードだね!」


 再び撃った弾丸は、AI兵の頭部を砕きその向こうの壁にモザイク柄を付けた。


 「聞いてた?」


 無線の向こうは、それどころではなかった。




 「こちらベータ!敵PMG兵と接敵!2体来た!」


 「アルファ!こっちには3体だ!こんちくしょう!」


 「あー、数があっててよかったじゃん」


 見える範囲の敵を全て撃ち倒したミラノは暇になった。




 通路をまっすぐ突っ込んでくる大型の敵PMG兵士はいい的だと思ったが、その手に持った盾の抗ウィルス装甲の値は高く、弾が全て弾かれた。


 そのままの突撃でタダオが飛ばされる。最前衛の後ろに隠れていた二人の敵が空是とまぴゆきにそれぞれ襲いかかった。敵は空是達をバラバラにし、一番得意な肉弾戦に持ち込んだ。


 黒い戦車のような連中だった。狭い通路での戦いを熟知している。まさにここは彼らの巣なのだ。侵入してきた不届き者を海に沈めるために、ここで待ちかまえていたのだ。


 だがまぴゆきたちもエントに選ばれた戦士だった。たちまち廊下は乱戦の現場になった。


 殴り、蹴り、隙きを見て武器を抜いては、相手がそれを殴って飛ばす。頭突きに、効果のない金的、刃物。全てが使われた。


 狭い場所での敵味方入り乱れての乱戦だ、銃器も爆弾も使えない。


 一番最前にいた空是が一飛して距離を稼ぐ。


 銃を捨て、ナイフを抜いて構える。


 彼の視線の先には敵味方合わせて5人の大人がいる。味方が苦戦している。敵が、こちらに向かってくる。


 心臓が一瞬だけ停止し、脳が輝くほどに回転する。


 空是の脳は視野情報だけを高速処理するモードに入る。全てがゆっくりに感じた。


 「チートウェポン:クイックマヌーバ」


 戦闘領域は狭い通路内、端から端まで16メートル。


 視線が、光の速さでルートを探す。飛び出した眼光が壁に当たり天井に当たり、敵の懐、味方の脇、全てを通る一本を…ぶつかった。


 その光は消え、次の眼光を放つ。床床壁敵刃物、エラー。このルートも失敗。次のルートを光が探す。天井床床敵味方銃刃壁…ぶつかった。このルートも失敗。次のルート…


 何十という光が空是の目から放たれる。その一本が、ついに廊下の端にまで到達した。


 そのルートは分解され、エイムタイミングと角度情報となり空是の両腕にプログラミングされる。


 


 「フンッ」


 視野が加速して消える。


 瞳孔は開き、もう何も見ていない。


 倍速の倍速で流れ、画面が理解不能になる。


 見ていない。


 高速で動かされた二つのフローターマウスが完璧な図形を描いた。




 空是の目に、廊下の端の映像が映っている。


 一瞬で端から端まで移動していた。


 3体の敵兵がみな胸の傷を見ている。


 2人の味方は呆然としてる。


 「なにをした?」


 敵の一人が尋ねたが、答えを聞く前に3体ともウィルスが体に周り絶命して倒れた。


 「わお」


 「わお」


 タダオとまぴゆきが同じ感想を言った。それ以外に言える言葉がなかった。


 空是は、興奮しきった脳を冷ますので精一杯だった。


 


 敵兵を撃退し、プラント中央にあるサーバールームに入る。サーバールームはそれほど大きな部屋ではなかった。


 ただちにサーバーへの破壊工作を開始した。


 「こちらアルファ、サーバールームに入った。ベータチーム、やばいなら助けに行くぞ」


 「結構!、今、タラが敵兵を海に…今投げた!」


 「どうやら助けはいらないようだな」


 タダオがにやりと笑う。


 プラントの隅々までウィルスを行き渡らせ、最低一ヶ月は使用不能にするのが目的だ。三人がそれぞれ手分けしても、ウィルス設置に時間がかかる。


 「なんだこれ?」


 空是がサーバーの管理画面に変なものを見つけた。サーバーに外部からアクセスしている部屋がある。独自回線が引かれこちらから遮断できない。空是は他の二人に知らせた。


 「これ、セキュリティー。警備室やな。そこからダイレクトにプラントの基部部分に線が伸びてて命令出せるようになっとる」


 「サーバーからでも抑えられん。なんだこれ、完全に回線が別枠だぞ。このプラント設計時にはない、後から取り付けたものだ」


 画面には塔の上部にあるその部屋から真下に回線が伸びて、下部構造の一点から、6本のレグに向かって線が伸びている。脚にはそれぞれ、小さな点がついている。なんらかの機械であると思われるが確認できない。


 その部屋から直接、脚に対して指令を出せる特別回線。三人共に嫌な予感がした。


 秘匿回線の維持可能時間のリミットが近い。作戦も急がなければならない状況だった。


 「僕が行きます」


 大人たちが空是一人を行かせたのは、先程のマヌーバの活躍があったからだった。




 残った二人は作業を再開した。


 空是は急ぎ階段を上る。セキュリティールームは9階上だった。


 友禅寺とタラはプラントにある全ての工作機械を一台ずつ操作不能にして回っている。


 ミラノはハッキングクラフトをプラントに近づけ、脱出の準備をしていた。




 プラントに警報がなり、脱出命令が職員に発令された。これは作戦の一部であり、偽装の警報だったが、職員は従って次々と救命ボートに集まっている。


 空是がセキュリティールームに到着した。


 すでに警備員達も脱出したのか、室内は空…ではなかった、たった一人、巨漢の男が立っていた。空是のアバターはその男の筋肉の圧に押された。


 男のアバターは彼のそばに立っているが、無操作状態特有の棒立ちをしていた。


 男、セキュリティー班長ジェイ・ガンミンはフェイスグラス越しに空是のアバターを見たが、まったくの無視であった。


 ガンミンは備え付けのPCにセキュリティーカードを刺し、操作を始めた。


 「おい!PCから手を離せ!」


 空是の言葉はアバター越しにガンミンにも聞こえているが、操作を続けている。


 アバターは出ているが操作状態にない。メタアース上では無抵抗な男に、空是は攻撃をためらった。だが、その行動は黙認できなかった。


 空是が一歩動いてた瞬間に、ガンミンは銃を抜き空是を撃った。


 巨大な拳銃の弾は空是の体を抜け、壁に巨大なヒビを作った。


 思わず自分の胸を撫でる空是。もちろん傷などないのだが、実銃で撃たれるとは思っていなかったのでショックはあった。メタアースに対して現実の銃での攻撃に効果はない。


 男は銃をもったまま言った。


 「終わった」


 「何が?」


 空是の質問が面白かったようで、男は自分の操作していたPC画面を空是に見せた。


 「自爆プロトコル開始 4:00」


 カウントダウンが始まっていた。秒数は減りだし、4分を切った。


 「じ…自爆?」


 「お前たちがやったのだ。おまえたちがこのプラントを襲い、爆破した。世界はそう見る。さて死者は何人かな?」


 「なにをやっている!」


 「戦争だよ。正しい戦争だ。ここを落として、ただで帰れると思ったのか? お前たちには新たな戦争の火蓋を切ってもらう」


 「ふざけるな!チートウェポン・ク」


 高速移動してPCの制御を奪う、そう思った瞬間。ガイミンは手に持っていた巨大な拳銃で、自爆制御のキーとなっていたPCを完璧に破壊した。


 「ああ!」


 クイックマヌーバは使えなかった。あのチートを使うには高密度な精神の集中を必要とした。その精神を作る暇もなかった。


 「終わりだ」


 ガイミンの言葉でプラント全体が赤い照明に変わった。爆破の最終通告が発令された。


 ガイミンは部屋を出ようとしている。セキュリティールームの裏には滑り台式の避難用ボートがあった。


 自動ドアの前に立った瞬間、空是の投げたナイフがドアのセンサー部に刺さった。


 ハッキングされ扉が開かなくなる。


 「どういうつもりだ」


 振り返ったガン民が低い怒りの声で聞いてきたが、空是は彼を見ていない。視野内にプラントの立体マップを呼び出し、現実と一致させた。壁や床の向こうにある回線やサーバールーム、起爆装置とその回線が透けて見えるようになった。破壊されたPCとと接続しているラインも見えた。


 そして、起爆装置の位置を現実座標でマークした。


 ガイミンを無視したまま、タダオに連絡する。


 「タダオさん、設置していたC4でこの施設を爆破できますか?」


 「なにいってる?急に」


 空是はガイミンとのやり取りの映像を送りつけた。


 「ちょ…爆破、戦争って、爆破まで、およそ2分かよ!」


 「タダオさん爆弾の効果は?」


 「下部構造の半分に仕掛けた。どうなるかはわからんが、多分、構造が持たずに真ん中から二つに裂ける」


 「十分です!爆破してください」


 「爆破って!」


 チームメンバー全員の悲鳴が聞こえた。  「爆破するだと?」


 ガイミンも驚きの声を上げた。


 「爆破です!」


 「知らんぞ!」


 タダオはそう言うと、手に持ったスイッチ、全てを押した。その顔は歪んだ笑顔だった。


 爆音が下から突き上げてきた。


 塔の上層部に立っていた空是は、たまらず膝をついた。


 ガイミンは、ただ呆然と突っ立っていた。


 「なにを・・・している?」


 何も起きていない現実の室内、だがメタアース内の部屋と空是のアバターは揺れている。揺れまくっている。ガイミンの出していたアバターも揺れて倒れて、横に滑っていく。


 波打つ床がガイミンの足を隠したり浮かしたりしている。


 「何したんだァ!」


 「爆破ですよ。このプラントを木っ端微塵にしているットト!」


 大きく飛び上がる空是、下から衝撃が突き上げたのか。ガイミンはまったく揺れを感じていないのに、部屋は上下左右に揺れている。


 不思議な世界を見ているとガイミンも体が揺れているように感じたが、巨大海上プラットフォームはこの荒天でも微動だにしていなかった。体は何も感じていない。


 「ねぇ、なんで僕たちが立っていられるかわかりますか?」


 「床が…」


 意味不明の状態にガイミンは恐怖を感じていた。


 「そうです、あなたと僕は床に立っている。でもあなたが立っているのは現実の床で、僕が立っているのはメタアースの構造物の床です」


 プラットフォームの破壊音がガイミンの耳にも届いた。周囲を見るが現実の音ではなかった。


 バキバキと床下から破壊音が聞こえる。構造体が引き裂かれる巨大な音が耳元にだけ聞こえる。


 「ヒィ!」


 思わずかがみ込むガイミン。床が斜めになり彼の体を飲み込んでいく。


 「さあ、そろそろこの塔も倒れる。構造体も真っ二つになる。今しかないね」


 空是は爆弾を壁に投げつけた。壁にひっついたのをすぐに起爆する。壁に穴が開き、外が見えた。


 「この外は、どっちの外でしょう?」


 ガイミンにそう言い残し、空是は壁の穴に飛び込んだ。


 空是が飛び出したのは、メタアースの空中であり、現実の空中でもある。


 メタアース内の塔が倒れていく。どんどんと角度が増し、その根本を支えている構造体が悲鳴を上げながら裂けていく。


 もしもこの光景を特殊な視点で見れば、倒れていくメタアースの塔とそのまま立っている現実の塔の両方が見えるだろう。


 まるで塔の表皮が破れ、塔が脱皮するかのような不思議な光景が見えたはずだ。


 メタアースのプラント内では、チームメンバーが倒壊して斜めになった床を横滑りしていた。


 空是はメタアース空間を落下している。


 彼の落下を妨げるものは次々と崩れていく。


 ついに彼の体は構造体の天井に激突した。


 しかしそれは「現実の構造体」であり、「メタアースの構造体」はすでに引き裂かれていて、その場にはなかった。


 「現実はアバターに影響を与えない」


 現実の建物をすり抜けて落ちる。


 彼は現実世界の起爆操作の回線にそって落ちている。


 裂けた鉄骨をくぐり抜け、煙と破片のエフェクトを突き抜ける。彼の視界にはメタアースの崩壊現場と現実の位置情報でマーキングされた起爆装置の光点が見えていた。


 その光点まで距離がどんどんと近づいてきている。


 ついに、裂けた構造体を抜けた。現実の起爆装置のすぐ近くを通過する。


 空是には現実は見えない。だが、起爆装置のプログラム位置ははっきりと見えていた。


 手に持った銃が発射される。ウィルス弾頭が起爆装置に当たり、一瞬で機能を停止させた。




 空是はついさっきした会話を思い出した。


 「メインサーバーはここだ。ここまで歩いていってハッキングする。これが”端末からメインサーバーをハッキングする”ってこと。俺たちは今は、メタアースの電子的存在だからな」 


 現実世界では塔の上から建物をすり抜けて落ちていって、起爆装置をハッキングしたということになるが、メタアース内では、プラント爆破までして、とんでもない落下アクションの末に起爆装置をハッキングしたのだ。


 2つの世界の重なり方は、容易に理解できることではない。




 空是は海面に衝突する寸前に


 「脱出!」


 戦闘終了コードを発動して、ハッキングクラフトのロビーに瞬時に移動した。


 他のメンバーもすでに戻っていた。プラントが倒壊してしまっては作業もなにもない。


 「システムの破壊率は70%を越えていた。作戦自体は、まあ成功と言ってもいいだろう」


 半壊した結果、もう半分も崩れ始めたプラントを、ハッチから眺めていたタダオが言った。やや憮然とした表情だった。


 「すみません、まさかセキュリティーの人間がプラントを自爆させるなんて思わなくて…あれしか手がなかったんです」


 空是の謝罪にタダオとまぴおかが顔を見合わせる。


 「いや、褒めたんだよ。よくあんな状況で、あんなでたらめやって、現実の爆破を阻止できた。すごいよ。でたらめだったけどね」


 「でたらめすぎるわ!とんだ坊主が入ってきたな~このチーム」


 大人二人に褒められ恐縮する空是。たしかに、あれはでたらめだったと今さら自覚した。


 「おい、どうなってんだよ!」


 ベータチームから苦情が入ってきた。彼らには情報の半分程度しか送られていない状態で、崩壊に巻き込まれたのだ。


 空是も眼下の惨状を見る。


 プラントはもう脚部分しか海上に残っていない。ほとんどが海に沈んでいる。


 「あれ、どうなるんですかね」


 「ああ、ゲームだからな、そのうちシレっと復元するよ。人が戻ればフェイスグラスの画像と齟齬が起こるから、データの復元作業が始まる。まあ一週間だな」


 「ただ、現実のプラントは死んどる。オレたちの破壊活動はだいたい終わっとったからな。作業再開までに、まあ一~二ヶ月ってとこやな。作戦成功や!」


 「おい!説明しろ!」


 ベータチームの文句の音量が大きくなってきた。


 「撤収してから話すよ。アルファ、ベータ、これから秘匿回線を通って帰還する。痕跡は残さない」


 2艇のハッキングクラフトが空間に開いた秘匿回線に飛び込んで消えた。


 現実の世界では、暗い海の上に真っ黒なプラントの姿が立っている。全ての明かりが消え、シルエットだけだ。遠くの海に光が灯る。この地域に太陽が当たる時間がやってきた。


 




 真っ暗なセキュリティールームで一人、ジェイ・ガンミンが立っていた。全ての機材が死に、携帯も通じない。フェイスグラス越しにみえていた部屋は「部屋の外に斜めに崩れて消えていった」


 だから待っていた。


 あのアバターがきて事情を説明してくれるのを待っていた。


 「お~~い」


 返事はない。全ての施設が沈黙している。


 「お~~い、ちょっと~」


 返事をする者は誰もいなかった。現実世界にも、メタアースの中にも。


 




 『設定補足』


 現実世界に置かれているPC、その内部にプログラムがあるとする。


 メタアース内にもそのPCは存在する。現実の座標とメタアース内のアドレスは完全に一致しているからである。


 現実のPCを動かすとメタアース内のPCも移動する。内部のプログラムもそれに合わせてアドレスを変えて移動する。


 メタアースのPCを移動させても、現実のPCは当然移動しない。


 メタアース内のPCを破壊しても意味はない。ウィルスで攻撃することだけが現実に作用する。


 メタアース内のPCが移動した跡にプログラムは残っている。プログラムのアドレスは現実のPC座標と紐付いている。


 もしもこのプログラムをメタアース内で動かそうとしたら、なんらかのハッキングで紐付けを解除しなくてはいけない。そうすれば移動は可能になる。(コピー&ペースト&デリートで移動)


 移動させたメタアース内のPCの箱は時間とともに情報修正がされて、元の位置に自動で戻る。


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