第15話The enemy is not outside, but inside.

敵は外にいるのではない。中にいる。


 スパイ映画の中で、背広を着た眼光鋭い男性がこう告げる。

 「これからはわたしが君の上司だ」

 それまで、女の上司だった、守られるべき「ママ」から、いざという時は戦える「サー」へ。頭蓋骨に直接響く大きな曲は、わたしのこれからを暗示するかのようだった、これが終わり、そう、これが。

 すでに死んだ人間、作家が残した漫画を読んで、こう思った。

 わたしも、誰かのクローン、偽物でしかない。誰かの人生、誰かの台本をなぞるだけの存在、だから、わたしには友人がいない、役所が死体を自由にしていい、この死体は動く、人工知能だ、世の中の人工知能が、死体でない、誰かを生き返らせるためにどこかの病んだ科学者が作ったとして誰が責められよう?


 カンテノームは、今日も充電中だ。

 やはり、親に、わたしの母に合わせたのがよくなかったらしく、今日もだ、昨日から眠り続け、がくぜんとした。これではまるで、友人に対して、寝ている友人、昏睡した友人を見舞う人間のようではないか。この前テレビで見た人間は、悪魔にお見舞いされていたけれど。


 ずっと考え続けていた、電子の海にこう言った自分の文章を残すことの意味を。考えあぐねていた、自分自身を。

 それでも、小さな水蒸気が雲になるように、小石を投げれば水面に波紋が広がるように、この小さな言葉が誰かの人生を変えるかもしれない。

 そう言って、電子端末のふたを閉じる。

 この外は、少しだけ静かだといいな、と思いながら。

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