豚に俺tueeeは無駄過ぎる〜伝説になりたいと言ったら伝説の食材に転生させられたが、チート能力で世界を救いつつ、なんとか生き延びて双子の王女に愛されて幸せにくらしたい〜

陰陽

第1話 母よ、あなたは豚だった

 こ、ここは……?

 白、白、白。

 目の前に広がる真っ白な空間。

 ──あ、白。

「やあだあ、どこ見てるのぉ?」


「す、すみません!」

 真っ白い服を着て空中に浮かんでいる、銀髪に緑の目の美人さん。んん〜実に巨乳ですなあ。1枚布を前で合わせただけみたいな服の足の付根が開いて、その、スリットの奥がですね……。


「ええとぉ、どうなったかはぁ、覚えてるぅ?あなた、死んじゃったのよねえ。」

「な、なんとなくは。」

「私はあなたの世界とは違う世界のぉ、一応?女神?やってます。

 コルレオーネよ、よろしくねえ?」


「俺がここにいるってことは、その、ひょっとして異世界ってやつですか!?」

「うん、その、異世界転生ってやつぅ。

 あなたは特別ぅ、強い魂だったのね?

 だから、死んだついでに貰っちゃったの!」


 えへっ☆って感じに笑う女神様。

「強い魂なのに死んだんですね。」

「んん〜なんていうのかしら、こっちに連れてこれる魂と、連れてこれない魂があるの。あなたは連れてこれるって意味で特別強かったわけ。」


「連れてこれないのもいるんですか?」

「次元をこえるから〜、無理に連れてくるとぉ、弱い魂は消えちゃうのよねえ。」

 怖っ!!

「転生するにあたってえ、欲しいものはあるぅ?今なら何でも聞いてあげちゃう♪」


「な、なんでも……?」

 俺はゴクリとコルレオーネ様のスカートの合わせ目を見た後で頭を振った。いやいや、そういうんじゃねえだろ!

「俺、最強になりたいです!伝説と呼ばれる存在になって、無双しまくりたいっていうか!あとある魔法全部欲しいです!」


「ん〜、最強と伝説ぅ?

 合わせるとよくわからないけど、まあ、全部の魔法が使えたり、ステータスが最強になりたいってことねえ?」

「は、はい!あと、可愛いお姫様に愛されたいです!出来ますか?」


「もちろーん!生まれた時から最強で、伝説の存在になれるようにしておくわねぇ♪なんでなりたいのか分からないけど。

 あと、愛されるかは分からないけど、可愛いお姫様との出会いをセッティングしておくわぁ。」

 なんか心配になるけど、パン──色々サービスしてくれたし、いっか。


「じゃあ、目を閉じて、目をあけたら、あなたの新しい生活が始まるわぁ。

 頑張ってねえ。」

「あ、あの!俺はその世界で何をしたら?目的があって召喚されたんですよね?」


「うーん、ちょっと魔物が暴れてて、世界が荒れてるのよねえ。このままだとぉ、人間がいなくなっちゃうかもぉ〜みたいな?

 それをどうにかして欲しいわあ。」

 いや、結構重要じゃん。


「分かりました!頑張ります!」

「はあーい、頑張ってねえ。」

 かくして俺、此花朔夜は、女神コルレオーネ様に頼まれて、異世界の人間を救うべく、異世界転生を果たしたのだった。


 ん……。あったかい……。母ちゃん……。

「あらあら、お腹すいたの?」

 俺に微笑みかけてくれる優しい顔立ちの母上が俺を抱き上げた。ふわぁあ。気持ちいいぃ~!思わず胸に頬擦りする。柔らかくてきゅっと引き締まった胸元。


 ではなく、目の前に広がるたくさんの裸の乳房。そして、俺の横に横たわって寝ている子豚たち。

「んん……ブピビバブウ……」

 ……。ブピビバブウって何語だよ。おい。


 俺の口から出た謎の単語に慌てて起き上がり、周囲を見回すと、そこには、豚、豚、豚。

 俺の手……。ピンク色の、ヒヅメのついた小さな足。ぐるぐる回った先についた、くるんと孤を描いたかわいらしい尻尾。


 左にも右にも、母上の豊かな胸の上に顔を突っ込んで幸せそうに眠っている、色違いの小さな俺がいる。………………。ウソだああああぁあああ!!!

 豚!?俺、豚なの!?


 最強で伝説の存在にしてくれるって話はどこいった!?

 ここはどう見ても豚舎ってやつで、人間の姿は見当たらない。

 小屋の中はすべて豚だらけだ。


 ぐうううぅううううう。

 取り敢えず腹が減ったな……。

 目の前で横たわって寝ている豚は、恐らく俺の母上の筈である。勝手にお乳を飲んだところで怒られないだろう。


 チュッパチュッパ。ゴクゴク、ごくん。

 あ……、意外とうまいわ。

 俺はお腹いっぱいに豚の母上のお乳を飲んだ。けど、どういうことだ?最強で伝説の存在どころか、人間ですらないとは。


「ブッブッヒイィイイン〜」

(一体どうしてこんなことになった?)

 俺は、豚になった自分の体を眺める。体が小さいし。人間の言葉も話せないし。

 え?俺、世界を救う為に転生させられたんだよね?

 こんな姿でどうしろってんだ?


「ブー、ブー。」

 俺は鼻で空気を出すと声を出した。

 うん。人間に言葉は多分通じない。

 けど、そうだ、ステータスはどうなんだ!?俺はステータスを見た。

「うっそおぉお!?ステータスまでぜんぶカンストしてんじゃん!!」


 ────────────────────


 此花朔夜(このはな・さくや)

 0歳

 男

 豚(食用)

 レベル 9999

 HP 9999999/9999999

 MP 9999999/9999999

 攻撃力 9999999

 防御力 9999999

 俊敏性 9999999

 知力 9999999

 称号 〈異世界転生者〉

 魔法 〈火魔法レベル99〉▼、〈水魔法レベル99〉▼、〈風魔法レベル99〉▼、〈雷魔法レベル99〉▼、〈土魔法レベル99〉▼、〈聖魔法レベル99〉▼、〈闇魔法レベル99〉▼

 スキル 召喚魔法 精霊魔法 呪術師

 ※魔法を鍛えると新しい魔法が使えるようになる

 ────────────────────


 俺のスキルは確かにチートレベルだった。

 魔法は全属性を所持、ステータスはカンスト。確かに最強と言って過言ではない。

 呪術師って何?領域展開的なヤツ!?

 ……だけど、豚。てか、後ろの、(食用)って何!?不穏過ぎる!

 はあ。なんか急に虚しくなってきた。


「ブヒー!」

 よし。一旦落ち着こう。深呼吸だ。すううう。はあぁああぁああああ。ブウウウウー。よし!落ち着いた。落ち着いて考えてみよう。今すべきことは何か、と。


「ブヒッ!」

 それは当然。魔法を使いこなせるほど強くなることだよな。

 よし!まずは自分の力を試すことから始めるか。幸い、ここなら人はいないし、思いっきり力を出してもいい筈だ。俺って実は最強の豚なのかもしんないしさ。


 そうだ!魔法!魔法を使ってみよう!

「ブギィイイイイ!」

 俺は叫んだ。──うんともすんとも言わない。豚のまんまじゃ、呪文唱えられねえじゃねえかあああ!どうすんだこれ!


「ブッフィイイイイ!ブフィイイイ!」

 本当にどうすりゃあいいんだかわからないぞ!それに、ステータスには魔法を鍛えると新しい魔法が使えるようになると書いてあったけれどさ。その肝心の魔法の出し方が分からないなんて!


 ありとあらゆる呪文を唱えてみる。しかし反応はない、ただの屍のようだ。

 やばい……、転生早々、つんだかもしれん。

 豚の母上が目をさまし、他の兄弟たちも目をさまして、乳房にむしゃぶりついているが、乳房の数、たらなくね?


 俺の母上様の乳房の数は、1、2、3、4、5……、ざっと、14個に対し、兄弟の数は俺を入れて20頭近く。

 母上様、産みすぎですよ!

 乳首にありつけない兄弟たちが、押し合いへし合い大混乱になってしまった。


 そんな中、1人何かをやっている俺を、母上様は優しく世話をするでもなく、軽く放置。豚って、人間がオッパイにありつけるようにしてあげないと、親がちゃんと全部の子どもにお乳をあげないんだったっけか。


 これから俺は、世界とではなく、兄弟たちとお乳を争って戦うことになるというのか?

 まあ、俺はさっきお腹いっぱい飲んだから、今はスルーしておこう。だって同じ大きさだから、子豚といえども、あの中に割り込むの、結構痛い。


 ……ん?

 突如天井からパラパラと、木くずのようなものが落ちてきて、俺は天井を見上げた。

 バキバキバキッ!重たい音と共に、天井の木が崩れて落ちてくる。豚たちは大パニックで逃げ惑った。


 な、なんだあ!?

 青空が丸見えになった天井から、ぬっと覗いた緑色の巨大なもの。

 サ……サイクロプス!?1つ目の巨人だ!

 サイクロプスは壊れた屋根に手を引っ掛けげ、更にバッキバキに屋根を壊すと、豚を掴んで持ち上げては、まるのまま口に放り込んで咀嚼する。


 オエ……。今は豚だから、なんか他人事?豚ごとじゃない。

「プギイイイイイイ!ピイイイ!」

 見れば我が母上様も捕まって、見る見るサイクロプスによって、持ち上げられていくではないか。


 これでも異世界での、俺の血の繋がった母親なのだ。返しやがれこの野郎!!

「プギイイイイイイ!!」

 俺は落ちてきた屋根が、別の木の上に重なり斜めになっている下側に乗った。


 そして新たに落ちて来た屋根が反対側に落ちた反動で、シーソー代わりに、天井に飛び上がる。

 サイクロプスの手に飛び付き、引っ掻く。そして引き千切る。俺は力の限り母上を引きはがしにかかる!豚は牙もあるのだ!豚歯ってのがある!俺は今、戦っている!


「ブギュッ!」

 母上を掴んだ手に力が込められたその時。突如握っていたサイクロプスの腕が爆ぜ飛んだ。中から飛び出す俺。血が噴き出し、肉片が飛び散る。そのまま腕を伝って駆け上がり、顔面に思い切りヒヅメで掌底を食らわしてやった。


 母上を掴んだまま、グラリと後ろ向きに倒れるサイクロプス。痛みにもがく腕の中から母上を解放して、地面に着地。

「ブギィイイイイ?」

 大丈夫ですか?母上!

 立ち上がり、こちらに走って来た母上様は──助けた俺の横を通り過ぎて、仲間のところへ走って逃げた。


 え、うそん。

 オマケに豚たちは、恐ろしいものでも見たように、俺を遠巻きにみつめている。

 ええ〜……。

 他の豚は俺の視界に入るまいと、身を小さくしていた。どうやら俺が怖いらしい。


 右に近付こうとすれば。

 スササササ。

 左から近付こうとすれば。

 スササササ。

 列をなして豚たちがよけてゆく。

 俺だけブーシャルディスタンス!?


「ピンク色の豚!?」

「サイクロプスを倒したぞ!」

「魔物か!?」

 ん?

 サイクロプスの後ろに、剣を構えて甲冑を身に着けた大勢の男たちと、倒れた馬車。


 そしてそこには……。

 すっごく可愛い金髪の女の子が、騎士みたいな男たちに守られるように立っていた。

「お前はなんだ!」

 男どもが俺を見て、大声を出した。

 いやまあね。俺からしてみたらあんたらこそ何者よ!って言いたいわけでさ。


 しかし可愛い子だなあ……。金色の長い髪をツインテールにして赤いリボンをつけ、「あなたは誰ですの?」とでも言いたげに、俺を見る顔立ちも整っていて青い目をしている。西洋人みたいだが……ハーフっぽい気もするな。なんかこう……いかにもいいとこの娘さんって感じの美少女だなあ……。


「おい貴様!聞いているのか!?答えろ!」

 はわーっと見とれていた俺は、その声でハッと我に返る。

 やべ、こっちに話しかけてるのにガン無視とかやばいな。うーん。


 いや?てか、俺、豚よ?

 喋れると思うか?魔物だと思ってるから、喋れるとでも思ってんのか?

 残念!ただの可愛らしい豚さんでした!

 ちょーっとチートですけどね!


「アデリール姫!お下がり下さい!

 見たことのない豚の魔物です!

 どんな力を持っているやも分かりません!」

 アデリールっていうのが、あの金髪美少女の名前か。あの子だ!きっと、あの王女様を助けるために、俺はこの世界に呼ばれたんだ!

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