第2話 罰ゲーム

 ガラガラガッシャーン!

 机や文房具が転がり落ちる音へと目を向けると、一人の少女が膝をついてゴミまみれになっていた。

 その子を囲うように、二人の女子生徒が汚物を見る眼で見下している。


「お前どこ見て歩いてんだよ、きったねーな!」

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい……」


 おっかない怒声と、気弱で死にそうな謝罪。

 目で見るより明らかなイジメである。

 どこの学校でもよくある事だ。そう、どこに行ってもありがちな現象。


「謝ってばかりじゃダメよ、ゆかちゃん。ちゃんと掃除しなさい?」

「あ、あう……はい……」


 底辺にありがちな、見える化の進んだイジメの現場。

 聞く話によれば、頭の良い学校ではイジメというのは表面化されないらしい。

 だが、うちはお察しレベル。田舎の公立高校なんてこんなものだ。

 学力の低さに比例して、イジメも認知されやすくなっていくのだろう。


「あーあ、また始まってんな~よく飽きねえなあいつら」


 蓮が両手を後頭部に預けながら、椅子の背もたれに体重をかけて眺めている。

 それを心配げな顔をした圭は提案した。


「またセンコーに見つかっても面倒だし、誰か止めね? 友達のよしみってやつでさ」

「お、だったらあきらに止めてきてもらうか?」

「それじゃ罰ゲームっていうか、おつかいじゃん。ゲーム内のクエストでやってても面白くないんだから、もうちょっとマシな事考えようぜ」


 圭は、まぁまぁ分かる例えを気だるそうに述べる。

 自分の意見を否定された気持ちなのか、蓮は不満そうな顔をした。


「わーってるよ、もうちっと面白い事考えりゃいいんだろ! ったく……」

「そんな罰ゲーム如きに真剣になるなよ」

「だって久々の罰ゲームじゃんかよ、おめーに泣きっ面かかせないと俺は気が済まねえ!


 あぁ、なんか良いアイデア振ってこないか……おっ? おおおおっ⁉」

 俺が蓮を諫めていると、彼は眼を丸くしながらイジメの現場の方を凝視し始めた。


「なんだよ変な喘ぎ声出しやがって……」

「うるさいちょっと黙れ」


 蓮は柄にもなく真剣な表情。

 まるで、ショーウィンドウの前に佇み、楽器に憧れる少年のように視線を逸らさない。


「あーれ、イジメの現場を見ておかしなスイッチ入っちゃった?」

「どうでもいい、コイツの考える事はいつもくだらないからな」


 圭と俺が軽口を言い合っていると、蓮の顔がこちらに向いた。


「お、俺……最高に面白い事考えたかもしれねえ……」


 本当に変なスイッチが入ってしまったようだ。

 それは、大会を直前に危険な技を思い付いてしまった、スポ根漫画終盤にありがちな主人公の成れの果てのよう。彼の中にあるのは、自分を犠牲にしてチームを勝利に導く方程式か。


「ほう、本当に面白いんだろうな……?」

「たりめーよ! 聞かせてやるぜ……俺が考えた最強の答えをな……!」


 なるほど、すごい自信だ。


「世界一すごいんだろうな?」

「あぁ、宇宙だって越えるだろうよ……」

「そうか、だったら今すぐに、『ぼくのかんがえたさいきょうのばつげーむ』とやらを聞かせて貰おうか……!」

「勿体ぶってないで早く話してくれ」


 俺と蓮の会話に、圭が呆れながらツッコミを入れると、蓮が口を開いた。


「今回お前に与える罰ゲーム、それは——」

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