最終話 二人の未来ー2
「そうだ、私、人形師としての勉強をしながら魔法も研究しようと思っているんです」
修理に使えるマリオンが残した予備パーツは無限にある訳ではないので、テアが自分で作れるようになる為、人形師としての勉強を再開するのは聞いていた未来だったが、魔法にまで手を出すのは意外だった。
あくまで一から剣闘人形を作るのではなく、修理用の予備パーツを作るだけなら魔法の研究など必要ないからだ。
「人形師の勉強だけでも大変なのに、何でわざわざ魔法の研究までするんだ?」
「ミライさんの体をもっと人間に近づけたいんです。一緒に季節を感じたり、美味しい物を食べたりしたいですから。研究には少し時間が掛かるかも知れませんけどね」
そう言ってはにかむテアを見て、未来は心の中から熱いものがこみ上げて来るのを感じた。
今までは極力気にしないように努めてきたが、未来とて暑さ寒さを感じて季節の変化を知りたいし、食卓に並ぶ自分が作った料理をテアと共に食べたいに決まっているのだから。
だから一度も吐露したことの無いこの思いをテアが察して、何とかしてくれようとしてくれるのが堪らなく嬉しかった。
しかし、ここで全てを打ち明けてしまえばきっとテアに余計なプレッシャーを与えてしまうと思った未来は敢えて簡単な礼と共に話を切り替えることにした。
「ありがとな、気長に楽しみに待ってるよテア。さてと、そろそろ掃除再開するか。ピッカピカにしてテアの両親喜ばせてやろうぜ」
テアの膝から勢いよく立ち上がった未来はそのまま掃除を再開する。
テアも後に続き、時間をかけて一緒に綺麗にし終えた墓前に2人は花を供えた。
「そうだ、ちゃんとこれ言っとかないといけないんだった。娘さんを俺に下さい、必ず幸せにします!」
大きな声でとんでもないことを墓前で言う未来に驚きと恥ずかしさでまたテアの顔が真っ赤になる。
それでもまんざら嬉しくない訳でもないらしく、テアの真っ赤な顔の口角が上がっているのを未来は見逃さなかった。
帰り支度を初めながら未来はジェシカに自分が毎度迎えに行かなくても試合に絶対に遅れないようにと持たされた時計を見ると、朝早くにきたのにも関わらず時計の針は正午を刺していた。
「テア、急いで帰らないと飯食う時間ねえぞ。今日は午後の部の第2試合だからな」
2人は慌てて掃除道具を管理人に返すと、一度戻って支度と昼食を済ませる為に家路を急ぐ。
「なあテア、今日の試合に勝ったらたまには俺にご褒美くれよ」
「何ですか急に。でも良いですよ。いつも私が貰ってばっかりですもんね。私に出来ることなら何でもしますよ」
「じゃあテアからキスしてくれよ。あ、恥ずかしいならほっぺでいいからさ」
予想外の要求に驚いたのかテアの足が止まる。
流石に調子に乗り過ぎてテアを怒らせてしまったかと思った未来がテアの元に駆け寄り、俯く顔を覗きこむと突然テアに頭を掴まれてそのまま口にキスをされてしまう。
今度は未来の方が予想外のことに動けなくなってしまう。
「ご褒美、先に渡したんですから絶対勝ってくださいね」
またまた顔を真っ赤にしたテアは、自分のしたことが後から恥ずかしくなったようで未来を置いて走っていってしまった。
しばらくマネキンのように固まっていた未来だが、我に返ると慌ててテアを追いかける。
「待てよテアー! 俺絶対今日も勝つから! 後そんなに慌てて走ると転ぶぞ!」
未来が言うが早いか、未来の心配通りにテアは見事に転んで足を挫いてしまった。
慌てて未来が応急処置をして何とか家に戻って支度を済ませた二人が、時間ギリギリで入場口に到着すると、最早定番となった呆れ顔のジェシカが待っていた。
「貴女たち時間ギリギリに来るなんて今度は何してたの? テアに至っては歩けなくなってミライに背負われているし」
「ちょっと色々あったんだよ」
「……すみません」
「ハア、もういいわ。とにかく勝って今日も賞金稼いでランキング上げてきなさいな」
チャンピオンウィーク最終日チャンピオンを倒した2人は、てっきりチャンピオンになれたものだと思っていたのだが、戦績ならば2人以上のコンビがゴロゴロいる為、運営がチャンピオンと認めてくれなかった。
だが、タクスも負けたのにチャンピオンではいられないと言いその座を運営に返してしまったせいでコロシアム内では新たにチャンピオンの座に座ろうとする剣闘士と剣闘人形が今まで以上に凌ぎを削っていた。
だから2人は運営に自分たちをチャンピオンと認めさせるために、何よりもジェシカへの借金を返す為にこの先も幾多の死闘を繰り広げる覚悟を決めて今日もコロシアムでの試合に挑む。
司会の紹介と共に入場を促され、未来はテアを背負ったまま、初めて剣闘試合に出た時のように試合会場へと入場して行く。
「行くぞ、テア!」
「はい、ミライさん!」
テアと未来、2人で何のしがらみの無い自由な未来を掴み取る為に。
数年後、コロシアムで戦い続けた2人はマリオンをも大きく超える200連勝を成し遂げランキング1位に上り詰め、コロシアム史上最年少のチャンピオンとして正式に運営に認められた。
テアは父親以上の天才剣闘士と人々に讃えられ、相棒の剣闘人形である未来は人形師たちに今後あれ程の傑作は生まれないだろうとまで言わしめた。
こうしてマリオンがいつも言っていた通り、テアとマリオン、そして未来の名は人形師と剣闘士たちに未来永劫語り継がれ、歴史に名を残すのことになるのだった。
剣闘人形《グラディドール》〜異世界に転生したら剣闘士として戦う人形だったので借金少女の為に戦って彼女の心を手に入れることにした 武海 進 @shin_takeumi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます