第7話 修理と特訓‐6
未来とテアの特訓が始まってから1週間が経ち、二人の目からは完全に生気が失われていた。
まあ元々人形の体の未来の目には生気など無いのだが、何故か今の未来を見た者にそんな印象を与える。
セリーナの試合や普段の言動を見れば分かるのだが、とんでもなくドSな彼女の訓練は苛烈を極めた。
未来は毎日大量の本をセリーナの屋敷で読まされたうえに眠れない体だからと宿題として本を貸し出され、テアが眠っている間も延々と読む羽目になった。
テアの方も連日ライターに火を灯す訓練を1日中やらされ、魔力切れを起こす手前まで追い込まれては少し休んで魔力を回復させたらまた再開するという賽の河原のような日々を送っていた。
何度も挫けそうになりならがらも、互いに励まし合い何とか耐えてはいるのだが、2人が限界を迎えるのはそう遠くはないだろう。
だが、天は二人を見離してはいなかった。
「そろそろ私のマッドネスメイデンの修理が終わるみたいだし、明日総仕上げしたら貴女たちの面倒を見るのも終わりにさせてもらうわね」
夕暮れ、フラフラと家路に着こうとするテアと未来をを見送りに屋敷から出てきたセリーナのこの一言に、二人は手を取り合って喜ぶ。
「や、やっと解放される! もう文字を見なくて済む!」
「こ、これで日に何度も気絶しかけないで良くなるんですね!」
自分たちから頼んできておいてのこの言い草にセリーナは少しカチンとくるが、二人の為ではなく親友の頼みを聞いただけだし、お金も入るのだから別にいいかと思い直す。
二人は知らないが、ジェシカからセリーナはきっちり指導料を受け取ることになっており、もちろんそれは借金に加算されるのだ。
小躍りしながら帰っていく二人の背中を見ながら、セリーナは明日の総仕上げに向けて、剣闘人形の準備する為に屋敷へと戻っていった。
翌朝、今日の総仕上げさえ乗り切れば地獄から解放させることに上機嫌なテアと未来は、途中何度かテアが転けそうになりながらも2人でスキップしながらセリーナの屋敷へと向かう。
「お二人共おはようございます。ご主人様は既に支度を終えられて裏庭でお持ちです」
いつものようにメイドに出向かられた2人は言われた通りに裏庭に行くと、セリーナが剣闘人形と共に待ち構えていた。
「遅かったじゃない。この子も私も待ちくたびれてたわよ」
セリーナがこの子と読んだ剣闘人形は、彼女の相棒、マッドネスメイデンではなく、髪の毛すら植えられていないデッサン人形のようにシンプルな見た目の剣闘人形だった。
「何だ? あの鉄の塊はお払い箱か?」
失礼な言い方をする未来をテアが諌めながら謝る。
当の本人はさして気にしていないようで2人に人形についてと今日の総仕上げの課題について語り始めた。
人形の名はティタニア。
マッドネスメイデンはあまりに有名はセリーナの相棒としてあまりに有名になり過ぎた為、近頃はギミックに対策をされるようになり、戦いづらくなってきた。
そこでセリーナは新たにもう一体の剣闘人形を用意し、当日どちらが出てくるか分からない状況を作ることで対策を無効化しようと考え、人形師にマッドネスメイデンとは違うコンセプトの剣闘人形を発注していた。
妖精のように華麗に舞い、コロシアムで観客たちを魅了する予定の剣闘人形なのだが未だ未完成であり、昨日からたまたまギミックの確認をして欲しいと人形師から預かっていたらしい。
「ちょうどいいから今日はこの子のギミックの動作確認も兼ねて剣闘試合をやるわよ」
試合、といっても今回はあくまで模擬試合であり、コロシアムの試合のように棄権するかどちらかが戦闘不能になるまでやるのではなく、今回だけの違う方法で勝敗を決める変則ルールで行われる。
勝敗の決し方はギミックを試したいセリーナと、1週間読書付けにされて剣闘人形や試合に関する知識を得た未来の双方に利益があるよう、ギミックによる攻撃を一度でも当てればセリーナの勝利、対して未来はギミックを避けつつティタニアの頭部を触れば勝利ということに決まった。
セリーナに促されたテアは、広い庭にコロ昨日までは無かった筈のシールドサークルへと入る。
セリーナも同じようにシールドサークルに入ると、手を叩いてメイドを呼ぶ。
すると事前に決めていたのか、コロシアムの太鼓の代わりにシンバルを持ってメイドが現れた。
「いい、あの子合図で試合を始めるわよ。貴女たちが少しはまともな剣闘士と剣闘人形になったか見せてちょうだい」
未来は拳を、テアは指輪をはめた手を構えてセリーナに応える。
主人が言うべきことを言い、両者準備が整ったことを確認したメイドは、ご近所迷惑にならない範囲の大きさでシンバルを鳴らし、試合開始を告げた。
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