天秤とウィッチクラフト

藤原渉

青の秘密 序

 七日七晩の戦いの末、花の魔女と悪竜の争いは決した。

 悪竜は花の魔女によって倒され、世界に平和が戻ったのだ。

 人々は喝采を上げて喜び、口々に彼女の偉業をたたえた。あるいは恐れた。

 月をも壊した悪竜を倒すなんて、彼女は本当に人間なのか? 悪竜以上の怪物ではないのか?

 それらの声を気にすることなく受け流し、花の魔女は笑った。

「わかってくれる人だけが解ってくれたらいいのよ。それに、私のことを好きだと言ってくれる人は大勢いるわ」

 彼女の言う通り、彼女に好意を持つ者は悪意を持つ者より遥かに多かった。彼女のための祭りが催され、人々は歌い、踊り、笑い、大いに食べ、飲み、また踊った。

 そして、その祭りの最中、花の魔女は姿を消した。

 どこを探しても、彼女の姿はどこにもなかった。英雄の失踪に人々は大いに嘆き悲しんだ。

 魔術師たちも総出で彼女の行方を捜したが、見つかることはなかった。

 いつしか人々は彼女のことを忘れ、悪竜のことも忘れ、花の魔女と悪竜の戦いはおとぎ話となった。

 だが、完全に忘れ去られることはなく、花の魔女と悪竜の物語は歌となって永く歌い継がれてきた。

 今日も世界のどこかで、子供たちが歌を歌い、駆けまわって遊んでいる。

 彼女が守った平和なこの世界で。




 月を壊した悪い竜、花の魔女に叱られて、緑柱石に閉じ込められて、そのまま千年ひとりぼっち。

 腹を空かせた悪い竜、野茨のつるを食い散らかし、影の蛇も頭から丸飲み、腹がくちて微睡まどろんで。

 夢うつつの悪い竜、花の魔女と鬼ごっこ、くるりと回ってまた出会い、揺れる天秤、勿忘草。

 天秤に乗った悪い竜、花の魔女の娘を探し、いつか辿り着く約束の地、いつか叶う千年の夢。

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