第2話 感情確認・何だよ、この結果はっ!!

「で、何の話なの?」

 長女の春子からは、俺に対する嫌悪感、嫌いな感情が、伝わってきた。

 俺のことが嫌いみたいだ。

 嫌われるのは慣れてる。

 へこんだりしない。

 でも、好きという感情をどこかで期待していた。

「ねぇ、何の話なの?」

 春子に言われて、ハッとする。

 話か。

 感情が知りたかっただけで、何も考えていなかった。

 思いつくまま適当に話して、次の夏子に交代だ。

「俺のこと嫌いなんだろ?」

 俺は投げやりな感じで言った。

「えっ」

 春子は驚く。

「なんで嫌いなの?」

 俺がそう言うと、春子は下を向いて、

「・・・・・・嫌いってわけじゃないよ」

 とボソリと呟く。

「嘘つかなくていいぜ。俺、嫌われるのは慣れてるし。でも、春子さんからは好かれたかった」

 開き直っているからか、ペラペラと言葉が出てくる。

 春子は黙って下を向いたままだ。

「ショックだよなー。マジ一週間ぐらい寝込むぜ、ハハハ。ちなみに、俺は春子さん嫌いじゃないぜ。むしろ好きだし。売店でメロンパンおごるから、俺のこと好きになってくれよ。ハハハ」

 マシンガンのように、ペラペラと言葉が続いて出ていく。

 開き直っていなければ、こんなに言葉は出てこない。

「メロンパンだけじゃなく、味噌汁や餅もおごるぜ。センべエもおごる。ゲートボール代もおごるぜ。それでも嫌いって言うならー」

「もういいよ。私、田舎のおばあちゃんじゃないし」

 春子はツッコミを入れて、クスクス笑い出す。

「そうか。農業用長靴もおごるって、言おうとしたんだけど」

「だから、私、田舎のおばちゃんじゃないし。いらないよ。月村君って、おもしろいね」

 春子の俺に対する嫌悪感、嫌いな感情が、薄れていくのを感じた。

 俺は、靴箱で待っている、夏子と秋子に目をやる。

 そろそろ夏子と交代しようか。

「そろそろ夏子さんと話をしたい。待たせてるし」

 俺は言った。

「うん。わかった」

 春子は去ろうとする。

 去り際、春子は振り返って、

「メロンパン、今度、おごってもらおっかなー」

 と言った。



 次は、次女の夏子だ。

 春子と同じように、靴箱から廊下の奥へと連れて行く。

「話って何?」

 春子と同じようなセリフを夏子も言う。

 春子は、俺のことが嫌いだった。

 夏子はどうか?

 俺のこと好きなのか?

 それとも、春子と同じように、夏子も俺のことが嫌いか?

 夏子の感情が伝わってきた。

 伝わってきたのは、俺に対する嫌悪感、嫌いな感情だった。

 春子に続いて、夏子も俺のことが嫌いだった。

 またか。うんざりする。

 ということは、俺のことが好きなのは、残っている秋子か?

「話って何なのよ?」

 夏子は痺れを切らしたように言った。

 俺はまたハッとする。

 さっさと切り上げて、秋子の感情を知りたい。

 俺は春子と同じように開き直った。

「俺のこと、嫌いなんでしょ?」

「えっ」

 春子と同じようなリアクションを夏子はする。

「嫌ってくれて結構。俺、慣れてるし。でも、夏子さんには好かれたかったよ」

 俺は春子に言ったような言葉を、再び夏子に言った。

「ごめんね。でも嫌いなの」

 夏子は申し訳なさそうに言った。

 春子とは違って、夏子はズバッと言うタイプか。

「俺の何が嫌いなの?」

「それはーその、えっと・・・」

 夏子は歯切れが悪く、困惑している。

 あれ? そこはズバッと言わないのか?

「遠慮なく言ってくれ。俺、メンタル強いから」

 俺がそう言っても、夏子は、まだ歯切れが悪く、言おうとしなかった。

 どういうことだ?

「俺のこと、嫌いじゃないの?」

 俺は確認するように言った。

「嫌い」

 夏子は答えた。

「でも、俺の何が嫌いなのか、わからないってこと?」

「そう、そうなの」

「生理的に無理ってやつか」

「うん。たぶん」

 夏子は頷く。

 いくら開き直っていても、これでは話す気力が失せる。

 さっさと秋子に変わろう。

 その時、

「珍しいペアだな」

と、クラスメイトの小田淳がやって来た。

 


夏子に告白して、玉砕した男が多い中、ただ一人、保留で返事待ちになっている男である。

 夏子は小田と付き合うんじゃないのかと、噂されている。

 小田はイケメン、サッカー部のキャプテン、学力テストも『花形三姉妹』に続いて上位に入っていて、『花形三姉妹』と共に生徒会にも在籍している。

「何の話をしているんだ?」

 小田が聞いてきた。

「大したことじゃない。もう終わった」

 俺はこの場を去って、秋子の元へと向かう。

「あっ、待って」

 夏子が何かを思い出し、俺を呼び止める。

 俺は振り向いて、夏子を見た。

「今度、小田君の友達と私の友達で、男女混合フットサル大会に出るんだけど、欠員が出て、メンバーが一人足りないの。どう? 出てくれない?」

 夏子は言った。

 さっき「生理的に無理」と言ってた人を普通誘うか?

 俺は夏子の考えが理解できなかった。

「俺じゃなくても、他にいるだろ?」

 俺は呆れたように言った。

「他にいないの」

 夏子は強い口調で言った。

「おいおい、まだ三人ぐらいは、行ける友達がいるって、言ってたじゃん。あれはどうなった?」

 小田は困惑している。

「あれは・・・・・・その・・・・・・やっぱり無理って」

 夏子は答えた。

「マジかよ。俺、他に行けそうな友達を探してみるわ」

 小田はそう言って、この場を去って行った。

「出てくれる? 月村君?」

 夏子が聞いてくる。

「俺、生理的に無理なんだろ? 何で誘うんだ?」

 俺は逆に聞き返した。

「無理じゃないかも」

 夏子はおどけた様子で答えた。

「はぁ?」

 俺はまた呆れた感じで言った。

 ふと気付くと、夏子の俺に対する嫌悪感、嫌いな感情が、薄くなっていた。

「ねぇ、出てくれる?」

 夏子が再び聞いてくる。

「そんなに俺に出てほしい理由は何だ? 夏子さんは友達が多いだろ? 欠員が一人出ても、代わりは余裕じゃないのかよ?」

 俺は言った。

「そうじゃないの。そうじゃ・・・・・・ない」

 さっきまでとは違って、夏子の口調は段々と弱々しくなった。

「夏子さんって、よくわからないな。まぁ、本当に他に誰もいなかったら、出てもいいよ」

 俺はそう言って、この場を早く切り上げようとした。

 秋子の感情が気になっていたからだ。

「良かった」

 夏子はホッとした様子だった。

 もう俺が出るものだと思い込んでるみたいだ。

「そのフットサルの場所は?」

 正直出る気はないが、一応念のために聞く。

「当日、教えるわ。今週の日曜日、渋谷駅に朝六時ね」

「はぁ?」

 いろいろツッコミを入れたい所だが、今は待たせてる秋子だ。

「それじゃ、俺は秋子さんにも話があるから」

 俺はそう言って、靴箱で待っている秋子の元へ。


 

 三女の秋子はいなかった。

 もう待ちくたびれて、何処かへ行ってしまったか?

 俺のことを好きなのは秋子だ。

 春子と夏子は、俺のことが嫌いだった。

 そうなると、秋子しかいない。

 明日、確認してみよう。

 俺は靴箱を開ける。

 そこには一枚のメモ用紙が。

 俺はそれを手に取って読んだ。

 そこには、『私があなたのこと好きなんて、そんな妄想しないで』と書かれていた。

「ええっ!?」

 俺は驚く。

 これは秋子が書いたのか?

 このメモを書いたのが秋子だったとしたら、秋子は俺の考えを見抜いてる!?

 秋子も違うのか?

 春子、夏子、秋子、三姉妹三人とも、俺に対しては、嫌悪感、嫌いの感情しかなかった?

 何だよ、この結果はっ!!






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